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ハイレゾに対応した「デジタル・コンサートホール」をApple TV 4KとiPhoneで徹底検証!

公開日 2021/06/02 06:30 山之内 正
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■iPhoneと外部USB-DACの接続でハイレゾ再生をテスト

6月1日時点ではiOS、Apple TV、Android向けにハイレゾ対応の最新アプリが提供されている。iOS機器はLightning端子経由で外部のUSB-DACにハイレゾ伝送が可能で、筆者が試した範囲ではiPhoneと複数のUSB-DACの組み合わせで実際にハイレゾ再生を行うことができた。

最近は完全ワイヤレス方式のイヤホンも高音質化が進んでいるが、Bluetooth接続ではハイレゾ本来の緻密な演奏情報や空気感を伝えることは難しいので、外部DACを介した有線接続をお薦めする。iPhoneとUSB-DAC内蔵ヘッドホンアンプの組み合わせは最もシンプルかつ手軽な方法の一つで、面倒な準備も必要ない。

早速試してみよう。DCHアプリをインストールしたiPhone 12 ProにLigtning USBケーブルでFiiOの「Q1 mark2」をつなぎ、アプリの「音質設定」画面で「ステレオ(ハイレゾ)」を選ぶ。アプリ上でコンサートを選べば、48kHz/24bitでの再生が始まる。アーカイブのメニューからコンサートを選ぶと、「4K UHD」の右側に従来はなかった「Hi-Res Audio」のアイコンが表示されていることに気付くはずだ。

iPhoneのLightning端子から外付けUSB-DAC、Fiioの「Q1 mark2」につないでハイレゾ再生を実現

Fitearの「TG334」、AKGの「K812」など手持ちのイヤホン、ヘッドホンで聴いた2020年8月のシーズン開幕コンサート(ブラームス:交響曲第4番 他)は、旋律と内声の関係が精密に浮かび上がり、フィルハーモニーを満たす空気の密度感がリアルに伝わってきた。このコンサートはいち早く96kHz/24bitで配信された音源の一つで、演奏会が始まる前の暗騒音だけでも臨場感と空気感が伝わる。第4番の冒頭、ヴァイオリンの柔らかく潤いのある音に接した瞬間、時間と空間の障壁を超えて、ベルリンのホールに一足飛びに移動したような錯覚に陥る。驚くべきリアリティだ。

Android端末はすべての機種がハイレゾ再生に対応しているわけではないので、機種によって動作が異なる可能性がある。フォルヒナー氏は「Android機器は多種多様なので、まずシステムがハイレゾ再生機能の有無を検出し、対応端末にのみハイレゾ信号を送ります。まれな例ですが、端末がハイレゾ対応というサインを送っても、実際にはそうでないことあります。その場合にはプレイヤーアプリが自動的にAACを再生し、そのことをユーザーにも伝えます」と解説する。Androidの機種ごとの具体的な動作については機会を見て検証する。

■Apple TVを使えば4K+ハイレゾクオリティを大画面で実現

Apple TVを使うとテレビやプロジェクターの大画面とオーディオシステムでハイレゾ再生を楽しむことができる。ホームオーディオでDCHを満喫するなら、お薦めの方法の一つだ。Apple TV→AVアンプ→テレビ(またはプロジェクター)という流れで信号を伝送するためHDMIケーブルが2本必要だが、テレビが4K対応ならDCHの高精細な映像とクリアなハイレゾ音声をフルスペックで堪能できる。

現状でもテレビ内蔵アプリで見られる環境なら、数ヶ月後のアップデート時点でハイレゾ音声が聴けるようになる見込みだが、手持ちのオーディオシステムを活かしつつ、いますぐリビングやシアタールームでベルリンフィルのコンサートを体験したいなら、Apple TVの導入は有力な選択肢になるだろう。

最新のApple TV 4KとマランツのAVアンプ「NR1711」でテスト。スピーカーはKEFのLS50を組み合わせ

筆者の仕事場と自宅で最新のApple TV 4Kとマランツの「NR1711」をつなぎ、OLEDの4Kテレビ(ソニー「KJ-55A9F」)と4Kプロジェクター(ソニー「VPL-VW1100ES」)で確認したところ、いずれも4Kとハイレゾ音声の組み合わせで正常に再生することができた。

大画面TVとAVアンプを組み合わせることで、コンサート会場さながらの臨場感で楽しむことができる

バティアシュヴィリが独奏を弾くチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲やタベア・ツィンマーマンが参加したモーツァルトの協奏交響曲など、比較的最近の演奏会を再生したのだが、外部接続のBDプレーヤーにインストール済みのDCHアプリ(従来仕様)のAAC音声に比べて、独奏楽器や木管楽器群の音色に瑞々しさや潤いが感じられ、各パート間の関係が立体的に聴こえてくるなど、ハイレゾ再生に明瞭な長所があることに気付く。ロッシー形式の配信で失われていたのは、些末で無意味なデータではなく、微細で本質的な情報だったのだ。

アプリ上でクオリティについても表記される

最後に画質について一つだけ追加情報をお知らせしておく。A9Fのようなドルビービジョン対応テレビの場合、Apple TV 4Kでドルビービジョンを有効にすると、DCHの映像がBT.2020 12bitのHDR再生に切り替わるが、DCHのHDRはHLG規格で配信しているためか、階調再現に若干不自然な部分が見られる。この点について前述のフォルヒナー氏に尋ねると「Apple TV 4Kが近日中のアップデートでHLGに対応すると聞いています。その後は『コンテンツの設定を維持』を選ぶことで正常な表示になるはずです」との回答が返ってきた。

以前はオーディオシステムでDCHを再生しても、ベルリン・フィルのレーベルからダウンロードした同じ演奏のロスレス音源に比べて明らかに情報量やレンジ感が不足し、なんとなく不満を感じていた。近年のアーカイブ映像だと120インチで上映してもまったく曖昧さを感じないほど映像の精細感が高いのだが、再生音からはそれに見合うきめ細かさや空気感が伝わってこないのだ。

今回のロスレス&ハイレゾ対応によって、ついにその不満が解消し、映像と音声が高い次元で調和した世界に到達したのだ。この日を待ち望んでいた音楽ファンの一人として、今回のアップグレードを大いに歓迎したい。

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