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【特別企画】日本限定モデル「2SE」速攻レビュー

日本限定ユニバーサル機も登場! 中国プロオーディオ市場の人気カスタムIEM“qdc”の魅力に迫る

公開日 2016/10/21 11:30 レビュー:高橋敦/記事構成:Phile-web編集部
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【3】“日本限定”のqdcユニバーサルモデルの音は?3機種を高橋敦がレビュー!

今回登場したqdcのユニバーサルモデルを、高橋敦がレビューする。日本限定モデル 2SEのほか、同時に発表された3SH、4SSも含めて比較試聴した。

qdcのユニバーサルモデル3機種の音を体験
Text by 高橋敦

qdcのユニバーサルモデル3機種について、早速実物を手にしての印象だが、届けられたデモ機はどのモデルもシェルの仕上げが見事だ。透明度の高いシェルほど綺麗に仕上げるのは難しいと思うのだが、いちばん透明度の高いエメラルド系のクリアシェルを備える2SEがいちばん美しく映えていた。シェルの仕上げにまで気を遣えるメーカーは音も期待できる。

3モデルとも、まずシェルカラーの美しさが目につく

特に2SEはエメラルドのクリアシェルで美しさが映える

シェルの形状で面白いのは、ユニバーサルタイプでありながら、カスタムのシェルで特徴的な「耳に引っ掛ける突起部分」を備えていること。こういうタイプもないわけではないが、このシリーズのそれほど明確な形な例はあまりないと思う。装着時にはカスタムのようにくるっと回してはめ込む方が着けやすく、その分の手間はあるかもしれないし、耳の形との相性も出やすいかもしれない。しかしうまくフィットしてくれれば、装着の安定性や遮音性における有利を得られそうだ。

ユニバーサルだが、カスタムライクな突起も。クリアシェルの2SEは中身も確認できる

イヤーピースはシリコンの通常スタイルとダブルフランジの各サイズが付属。ケーブルは耳周りにしっかり硬めのワイヤー、いわゆる針金が入っているタイプだ。ケーブル自体は編み上げ型でしなやか。

ケーブルは耳周りに硬めのワイヤーが入っているタイプ

さて今回、実は最初に音質チェックを行った際は、各製品のモデル名もドライバー構成も音作りの方向性もわからない状態だったのだが、その際に受けたインプレッションは、後から判明した各モデルの方向性とおおよそ合致していた。そこで、今回はあえて“事前情報が何もない中で感じた素直なインプレッション”を軸に記していきたいと思う。まずは特に美しいクリアエメラルドシェルの「2SE」と刻印されたモデルから聴き始めてみた。

▼2SE

・2ドライバー搭載
・どのシリーズにも属さない“日本限定モデル”

2SE

シリーズの中で最も抜けがよくタイトなモデルと感じた。厚みや重心の低さには物足りなさを感じる場面もあるが、そこを無理に濃くしないことで音と音の間が十分に確保され、空間に効果的な余白が生まれている。音色としても空間性としても、すっきりとしていて透明感が高い。

相対性理論「たまたまニュータウン (2DK session)」では、ハイハットシンバルの薄刃の美しさとその質感が際立つ。ギターも透明感の高さで空間エフェクトの広がりがさらに生かされ、それが曲全体の空間の広がりにも繋がっている。やくしまるさんのボーカルもシンバルと同じように鋭さと質感をしっかり描き出しながら、それでいて嫌な鋭さは出さない。高域側の上質さは実に見事だ。

他にも数曲聴いたがポイントとしては、エレクトリックギターのカッティングを硬質にパキッと描き出すこと、ベースとドラムスはタイトに描写すること、空間性は特に得意、といったところが印象に残った。タイトなグルーヴのファンクやそれっぽいフレーズを生かしたポップスやロック、空間に音を散りばめたエレクトロニックなどには特にフィットしそうだ。

▼3SH

・3ドライバー搭載
・コンシューマー向けHi-Fiシリーズ

3SH

3機種の中ではいちばん素直というか、気負いのないサウンドに思える。ウォームというほどではないが、他の2機種よりはリラックス系だ。誤解を恐れつつ言えば、モニター系に対する、いわゆるリスニング系の雰囲気。中低域に適度な厚みを持たされたことで帯域バランスがより自然になり、タイトさや空間性を目立たせすぎないようにもなったことからも、そのような聴きやすい印象になるのかもしれない。

相対性理論「たまたまニュータウン (2DK session)」では、ボーカルやギターがほどよい厚みを備えるようになる。その分だけ抜けやすっきり感は控えめになるが、バランスのよさとしてはこちらの方が妥当と言えるだろう。個性派ではなく、オーソドックスによい音だ。

Q-MHz feat. 小松未可子「ふれてよ」はアレンジ面でベースが特に低い音域で重要な役割を担っており、その存在感をしっかり適当に出してほしい曲。2SEではそこに不足を感じたが、この3SHはそこがまさに適当だ。

この「適当な存在感」が重要というのは、つまり「不適当な存在感」ならばない方がましということ。不適当な存在感とは、ベースやバスドラムがだらしなく膨らんだりアタックがもたついたりしての悪目立ちだ。そこを「ない方がまし」寄りのアプローチでタイトにまとめたのが2SE、しっかり「適当な存在感」にしてきたのが3SH。

ここはドライバーの性能や搭載数からの制約の中でどういった音作りをするかという、設計者の好みやセンスが現れるところ。この両モデルはどちらもそれぞれ納得の音作りだ。そのようなわけでこのモデルは特にジャンルを選ばず、だいたいどんな曲を聴いても無理なく自然にフィットしてくれる印象。強いて言えばよりおおらかなグルーヴのソウルっぽいリズムや、歌の後ろにストリングスが広がる大きなバラードなどとは特に相性がよい。

▼4SS

・4ドライバー搭載
・レコーディングエンジニアやプロデューサー向けStudioシリーズ

4SS

帯域の広さや充実度やバランスは3SH的でありつつ、2SE的なシャープさやタイトさのニュアンスも加えたような印象だ。特に低域側はアタックの明確さや抜けの良さは2SE並み、厚みや深みは3SH以上という感じ。低い重心でゴリッとドライブするエレクトリックベースの迫力はシリーズ随一だ。

相対性理論「たまたまニュータウン (2DK session)」では、冒頭の主役であるバスドラムのアタックとハイハットシンバルのシャープさにいきなり耳を奪われる。特にバスドラムはスタジオの空気を震わせる豊かな響きも十分に出しつつ音の芯や輪郭はくっきりとしており、その説得力が高い。ギターも厚みを出しつつ透明感も維持している。それらのように両立の難しい要素を巧く落とし込んであることは注目に値する。

Q-MHz feat. 小松未可子「ふれてよ」ではまさにエレクトリックベースの良質さが光る。この曲のサビでは4弦ベースの4弦開放、つまり最も低い音程が使われているが、その手前の音とその音で音の存在感の粒が揃っている。低域の再現力が弱いイヤホンだと、最低音に対応しきれずそこだけ音が薄くなったりする場面だ。ここでベースが薄れてしまうと曲全体がその瞬間だけ軽くなってしまい、実に残念なことになる。対してこのモデルは単に存在感を維持するだけでなく、ゴリッとした感触や腹にくるような音圧といった要素もしっかり出して、サビの盛り上がりを損ねないどころかさらに高めてくれる。

こちらも特にジャンルを選ぶモデルではないが、やはりベースの強さが光るので、そこを特に活かせるジャンルとの相性は格別だ。例えば今の日本のロックやアニソンではLUNA SEA的に動きまくるベースラインが印象的だったりするが、ああいったアグレッシブなベースやリズムの曲をこのモデルで聴くと、そのアグレッシブさを存分に楽しめる。



全体を通して、極端に個性的にはせず、ルックスもサウンドも十分にIEMらしい範疇の中で、それぞれのモデルにほどよい個性を持たせていることが好印象だ。オーソドックな方向性でハイクオリティなモデル。シンプルなテーマだからこそ、その実現には開発の地力が必要だ。qdcはこれらのモデルでその地力を示したと言える。

(レビュー執筆:高橋敦 / 記事構成:Phile-web編集部 杉浦みな子)


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(特別企画 協力:ミックスウェーブ)

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