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「SA-14S1SE」と「PM-14S1SE」を試聴

マランツの特別仕様モデル「14S1SE」で確認、“コストを度外視したチューニング”の成果

公開日 2016/07/14 10:19 山之内 正
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次に、ヤルヴィ指揮NHK交響楽団のR.シュトラウス『英雄の生涯』を聴く。大編成オーケストラの音響エネルギーの凄まじさだけでなく、重厚な響きと音の勢いが両立していることに感心するが、それらを支える重要な要素として、弱音の静けさと澄み切った音場再現を見逃すわけにはいかない。「英雄の戦場」冒頭、低弦の持続音とともに舞台裏から微かに聴こえるトランペットは、最弱音でも突き刺さるような音色を保ち、一気に緊張感が高まる。それに続く「英雄と敵の戦い」から怒涛のエネルギーが押し寄せるのは冒頭の静寂があってこその展開で、静と動の対比の妙を描くPM-14S1SEの力量を伝える好例だ。

ベースモデル「PM-14S1」「SA-14S1」との比較も行いつつ試聴した

この作品の音響的なダイナミックレンジの大きさを余さず引き出すには、電源部の余裕がものを言う。瞬発力や余韻が広がる空間の大きさなど、ブロックコンデンサーを増強した成果をいたるところで聴き取ることができる。PM-14S1もこのクラスのプリメインアンプとしては押し出し感やスケール感を引き出しやすい製品だが、さらに一回りの余裕を求めるなら、PM-14S1SEを選ぶという選択肢もありそうだ。

ムジカ・ヌーダのアルバムを聴くと、ヴォーカルとベースの音像が緩みなく定位して、テンションの高さがひしひしと伝わってくる。あまりに張り詰めた音ばかりだと聴き手がストレスを感じてしまうかもしれないが、本機に限らずマランツのアンプのサウンドには伸びやかさがあり、音が詰まってギスギスするようなところがない。このアルバムでもヴォーカルのエコーが耳の横の方まで自然に広がる雰囲気など、空気の感触をリアルに再現して、聴き手を包み込む音場の広がりが心地よい。

筆者の勝手な推測だが、電源トランス周辺や筐体をガチガチに固めてしまうと、ここまでの伸びやかさを引き出すのは難しくなるような気がする。そのあたりのさじ加減の調整は音決めの重要なポイントで、音を追い込むエンジニアの腕の見せどころだ。

「SA-14S1SE」のSACD再生では、さらなる空間再現の向上を実感

次にSACDプレーヤーをSA-14S1から“Special Edition”のSA-14S1SEに入れ替えて、あらためてCDとSACDの再生音を聴く。最初に聴いたエルガーのチェロ協奏曲は、独奏チェロの音像がグッと引き締まり、3次元の立体感が加わって演奏の起伏の大きさがいっそう際立つようになった。一方、オーケストラは低音楽器の存在感に違いが現れる。音量のバランスそのものはSA-14S1とほとんど変わらないのだが、コントラバスの一番低い音域が深々と沈んで、全体の響きにいっそうの安定感が生まれるのだ。

SA-14S1SE

R.シュトラウスの管弦楽は、特に遠近感の改善が著しい。ステージの奥行き感が深まり、手前の弦楽器とその奥の木管楽器、さらに一番遠い打楽器の遠近感が正確に出るようになった。その立体的な音場のなかにトランペットの音像がリアルに定位し、チューバやトロンボーンの音色もベルの位置が見えるほど実在感が高い。弦と管の背景には大太鼓から広がる余韻が伸びやかに広がるが、太鼓の低音が不自然に回り込むことがなく、見通しはあくまでもすっきりと澄んでいる。

空間情報を豊富に含むこの録音の特徴を忠実に引き出していて、パースペクティブの大きさも半端ではない。その広々とした音場や立体的な楽器配置は、フラグシップのPM-11S3にかなり近いところまで迫っているように思われる。機会があれば両機種を聴き比べて確認したい。

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