B&O PLAY「H3 ANC」レビュー:サウンドのエッセンスは残しつつ、不要な騒音は低減するNCイヤホン

中林直樹
2015年12月17日

ブランド初となるノイズキャンセリング機能搭載イヤホン。もちろんこれが「H3 ANC」の第一の特徴である。本体に内蔵されたマイクロフォンで周囲の騒音をキャッチし、それと逆位相の信号をリアルタイムで発生させることで、ノイズを打ち消すという電気的な処理を行う。方式としては多くの他社製品と同様である。ただし、そこはB&O PLAY。装置として、決して大げさになることなく、極めてさりげなくそのメリットを与えてくれる。コネクター部から6cmほどの場所に取り付けられた円形(厚みは約1cm)のバッテリー内蔵コントローラー(プロセッシングユニット)はこのブランドのロゴプレートだと見紛うほどだ。

H3 ANC

製品開発のベースになっているのは既発売の「H3」。それにNC機能が追加された恰好だが、外見上はほとんど変わりがない。ハウジングは上品な光沢を放つアルミニウム。なお、4サイズのシリコンイヤーチップのほか、Complyのイヤチップ(Mサイズ)も付属。このあたりがNCの効果を高める工夫として見受けられる。

イヤホン部は「H3」と同様。Complyのイヤチップも付属する

ドライバーユニットはダイナミック型が1基というスタンダードな仕様。口径は10.8mm。NCはリチウムイオンバッテリーによる駆動で約2.5時間の充電で、最大20時間の再生を可能としている。ノズル部は耳奥に向かって角度が付けられており、軽量ボディと相まってフィット感も抜群。またプラグや本体とケーブルの接続部も見た目以上に頑丈な作りで、構造上の安心感も高い。


サウンドのエッセンスは残しつつ、不要な騒音は低減

では、NCの効果を確かめるべく、頻繁に利用している都営大江戸線の車内で試聴してみた。同線は車両がコンパクトに作られており、しかも僕が利用する区間は特に地下深くを通り、カーブも多く、騒音が酷い…。隣に座る人とまともに会話ができない時もある。そこで敢えて、静かなサウンドを聴いてみた。別項、H7のレビューでも紹介したソギー・チェリオスの『EELS & PEANUTS』(アルバムの内容はそちらをご参照のこと)。


プロセッシングユニットに備えられたスイッチでNC機能のON/OFFを行う

反対側には充電用microUSB端子を備えている
結論からいうと、外来ノイズをすべて拭い去ることは不可能だった。しかし、ゴーッという中低音のノイズは随分抑えられているのがわかる。だがもし、騒音のすべてがきれいさっぱりにカットされたとしたら、音楽の聴こえ方はさぞ不自然になるだろう。サウンドのエッセンスを残しながら、中低域の不要なざわめきだけを制御する、そんな傾向だ。車内のアナウンスもキャンセルされるが、聴き取れないレベルではない。

たとえば「うつくしいとしること」では、寂しげな声のニュアンスや温かみ、アコースティックギターの弦の張りなどが、騒音の中でも失われない。また、チェロやベース、間奏の口笛などもバランスよく調和している。

周囲の騒音をカットしたいがため音量を上げることを日常的に繰り返せば当然、耳への負担も大きくなるはずだ。それを考えれば、音楽を自然に引き立たせる、このNC効果は大いに価値があると言える。

航空機用プラグや持ち運び用キャリングポーチ、充電用ケーブル等も付属する

ところで、これはもう過去のことだが、NC搭載モデルは、オンとオフモードで、音の傾向に大きな隔たりがあるものが多かった。NCのスイッチを入れると、耳内の気圧が変化するようで、鼓膜が不快な刺激を受ける場合もあった。ところが昨今はそのようなモデルに出会わなくなった。単なるギミックではなく、各ブランドが真剣にNCに取り組んだことは当然として、その回路をどのようにモノにするか、使いこなすかが問われはじめたのである。それをイヤホンというコンパクトなボディで実現しようとしているのだから、エンジニアたちの努力には頭が下がる。そんな感慨にふけってしまったのは、このモデルに出会ったからに他ならない。

TOWA TEIの新譜『CUTE』も非常に聴き応えのあるアルバムだ。しかも、ハイレゾ版がリリースされた(44.1kHz/24bit)ので、アステル&ケルンのAK380に転送し、H3 ANCと組み合わせてみた。まず感じたのは、リズムセクションはもちろんのこと、ボーカルやシンセサイザーなどすべての音の立ち上がりが俊敏なこと。耳の奥に音の粒がぐいぐいと迫ってくる。また、ドラムスやベースの輪郭が極めて明瞭で、丁寧に演奏(もしくはプログラミング)されているのを感じることができた。多彩な音色がたっぷりと詰め込まれているのだが、それが塊にならず、かといって散漫になり過ぎずといったウェルバランス。特に「LUV PANDEMIC」では高橋幸宏、細野晴臣、そしてモデルの水原佑果のそれぞれのボーカルが描き分けられて、サウンドの面白さを伝えてくれる。各ボーカリストの歌声に耳をくすぐられるようでもあった。もちろんNCオンの状態で、だ。

日本の若手バンドYkiki Beat(ワイキキ・ビート)のデビューアルバム『When the World is Wide』もハイレゾを配信。ボーカルとエレキギターをフィーチャーしたフレッシュかつ、メロディアスなサウンドが持ち味で、デビュー前から音楽業界や耳の早いリスナーから注目されていた5人組。しかも平均年齢20代前半という恐るべきタレントである。H3 ANCはそんな彼らの音楽をパワフルに表現する。たとえばエレキギターのひりひりとする音色と力のこもったボーカルやベース、リヴァーブたっぷりのドラムスなどががっちりと組み合わさって迫り来る。ドラムスの瞬発力も格別だ。うねりや抑揚に富んだそのサウンドに彼らのスケールの大きさを感じずにはいられなかった。

B&O PLAYは現在、イヤホン/ヘッドホンへの注力度合いが高まっている。このH3 ANCもまたじっくりと磨き上げられた逸品だ。据え置き型コンポーネントも含め、次はどんな製品が出現するのか、ますます楽しみになった。