「イエスタデイ」を聴くだけでも価値がある

『ザ・ビートルズ 1』2015年版は何が変わったのか? 新リミックスされた全27曲を徹底解説

大橋 伸太郎

前のページ 1 2 3 4 5 次のページ

2015年11月06日
オリジナルテープからのリミックスを行った新『ザ・ビートルズ 1』

『ザ・ビートルズ 1』CD+DVD ¥3,980(税抜・品番:UICY-77524)CD+BD ¥4,980(税抜・品番:UICY-77525) ※初回限定スペシャル・プライス盤

なぜザ・ビートルズだけが繰り返しリマスターが発売され、その都度「社会的大事件」になるのか。ボブ・ディランもビーチボーイズもザ・ローリング・ストーンズもリマスターが発売されたが、特別騒がれはしないし、売れたという話を聞かない。レッド・ツェッペリンやキング・クリムゾンのリマスターはそこそこ評判になったが、彼らの熱心なファンの間の出来事であって、そこから外へは出ていかない。

ザ・ビートルズの音源がリニューアルされるのは特別な出来事なのだ。その理由は3つある。

第1に、彼らがプロとして活動した1962年から1970年までの8年間はレコード産業のビッグバンであり変革期であった。モノラルからステレオへ、バンド演奏の一発録りから多重録音へ、2トラック録音から4トラック、そして8トラックへと、テクノロジーの変化と共にあった激動の時代である。

第2に彼らが「レコーディングアーティスト」の先駆であったこと。1966年にライブ活動を終了、スタジオでのレコーディングに専念するようになると、プロデューサーや録音技師と共に様々な前衛的な録音テクニックを創案、密度の高い実験的なアルバムを次々に送り出す。録音された音楽としての歴史的価値の高さを持っている。

第3に自作自演楽曲の不朽の価値。ザ・ビートルズは1962年10月にシングル曲でデビューし、1970年に解散するまで、プロ活動期間はわずか8年。その間に12枚のオリジナルアルバムを発表するが、ほとんど全てがポピュラー音楽史上の名盤である。ビートルズの楽曲は現在も多くのアーティストがカバーしているが、オリジナルの魅力には敵わない。

こうした背景から2009年のリマスター(モノボックス/ステレオボックス)が発売直後にプレミア価格が付くほど社会的事件になったのは記憶に新しい。

それから6年、新たなプロジェクトが全貌を現した。2000年に初出の、ザ・ビートルズの英米ナンバーワンヒットを集めたコンピレーションアルバム『ザ・ビートルズ 1』が、リマスターでなくオリジナルテープからのリミックスで発売になるというのである(公式サイト)。

2009年のリマスターは、あくまで13枚のアルバム既存のモノラル/ステレオ音源を、デジタル処理でノイズを除去したり楽音を鮮明化したりして、高音質化アーカイブしたものである。

しかし今回の『ザ・ビートルズ 1』は違う。EMIに保管されていたミキシング前の1トラック、2トラック、4トラック、8トラックのマスターテープにさかのぼり、楽器やボーカルのバランスごと新しくリミックスする「ザ・ビートルズ再生プロジェクト」である。2009年のリマスターでは立ち入ることのなかった領域まで、バンド解散後45年を経て初めて踏み込んだのだ。

初期のステレオミックスは「二番手」だった

前のページ 1 2 3 4 5 次のページ