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<山本敦のAV進化論 第61回>LINE MUSIC/AWAとも比較

「Apple Music」レビュー。ストリーミング音楽配信 “本命” の実力とは?

公開日 2015/07/01 17:29 山本 敦
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続いてAWAを試聴すると、中高域の解像感はLINEよりも若干見晴らしが良くなるが、中低域の力強さではLINEに軍配が上がる。フラットバランスなので長時間聴くならAWAの方が心地良く感じるかもしれない。反対にLINEは若年層のユーザーを想定して、ちょっと濃いめな音に味付けしているのかもしれない。

AWAはプレーヤー画面の使いやすさも特徴。LINEともども歌詞データのある楽曲については表示もできる

AWAとLINE MUSICに搭載されている音質選択の機能。Apple Musicもぜひ対応して欲しい

両者の特徴を踏まえた上でApple Musicを聴くと、聴感上のバランスの良さはAWAに近いものがあり、それよりも少しミッドレンジを中心に充実させたようなサウンドだ。低域は量感を出し過ぎずにアタックの鋭さで十分な力強さを描き分ける。

LINEに比べるとボーカルの音がやや薄めで、もう少しバックバンドやコーラスを抑えて前に出てきてもいいように感じるが、ハイトーンの伸びやかさと艶は3つの音源の中で一番よかった。シンセサイザーやエレキギターの音もメリハリが効いていてエネルギッシュだ。

Apple Musicは様々なデバイスをまたいで利用できるのが便利なところ。iPhoneでMy Musicに登録した楽曲は、iCloud経由で即座にiTunesやiPadなど同じiCloudのアカウントに紐付けられたデバイスに共有される。

なお個人メンバーシップの場合は、1つのアカウントにぶらさがる2台以上のデバイスで同時に利用できないので、そういった使い方を望むならファミリープランを選択する必要がある。Apple TVについては、現時点はまだiOSデバイスやMacからのAirPlay再生にしか対応していないが、秋にはネイティブアプリで対応する予定もあるようだ。

ラジオ型ストリーミングサービスのメニューを開くと、現時点では「Beats 1」のほかに「トゥデイズ J-POP」や「洋楽ヒットチャート」などの「特集ステーション」が設けられている。店舗など商業空間でBGM的にApple Musicを使ったり、流し聴きで音楽を楽しみたい場合に活用できそうだ。

…のはいいのだが、率直に言って今のところ、ステーションの数が非常に少ない。一つの音楽ジャンルでも、例えばムードやリスニングシーンに合わせてもっとステーションの種類を細分化すれば、利用するシーンも増えそうだ。そうなれば、オンデマンド型とラジオ型のストリーミングサービスを兼備するApple Musicの強みが輝きを増すだろう。

■コンテンツと機能の不足。Apple Musicにとっての課題も見えてくる

めでたく日本市場でもスタートしたApple Musicだが、音質については他の先行する定額型音楽配信サービスのクオリティに引けを取らない出来映えだと思う。UIもアップルらしく洗練されており、ジャケット写真とメニューアイコンのレイアウトも直感的に使いやすくできている。

だが、残念なのはAWAやLINE MUSICのように音質設定(ビットレート)が選べないことだ。「どうしても聴きたい曲はダウンロードして聴けばいいじゃないか」といわれれば確かにそうなのだが、不意に聴きたくなった曲が端末に入っていないこともよくあるだろう。そんなときに膨大なアーカイブから聴きたい曲が見つかって、通信容量制限に気兼ねすることなく楽しめることが定額制音楽配信サービスの理想型ではないだろうか。

現時点でひとつ抜け道があるとすれば、格安SIMカードで話題のMVNOから、NTTぷららのほか、b-mobileやU-mobileが販売している通信速度制限なしのLTE使い放題プランを利用するという手だ。SIMロックフリースマホを新調してまで使いたいサービスかどうか判断は置いておくとして、YouTubeや動画配信も気兼ねなく楽しめるようになるし、SIMロックフリースマホに乗り換える動機にはならないだろうか。

何はともあれ、結局のところはApple Musicの楽曲数が今後どれぐらい充実するかがこれからの勝負所だ。あくまで現時点での筆者の感想だが、3ヶ月のトライアル終了後にもアーカイブの数がそれほど膨らんでいなければ、トライアル期間後は継続しないと思う。金額が妥当かという問題の前に、筆者はわりに邦楽が好きなので、このタイトル数では十分に楽しめないからだ。

iTunes Matchと連携させて、自分のライブラリーで補完できればコンテンツには事欠かないという考え方もあるが、定額型ストリーミングサービスにとって最大の魅力は、自分の知らなかったアーティストや楽曲の魅力を発見できることだ。

定額型ストリーミングでは、アルバムの中から好きな1曲だけをつまみ食いして聴きたかったという願いも叶えてくれる。個人的には、昔聴いていたけれど処分してしまった、あるいは行方不明になったCDやカセットテープに入れていた楽曲を、わざわざCDを買い直して聴くまでもないが、もう一度聴き直してみたくなった時に配信サービスはとても重宝している。

アップルにとってApple Musicのコンテンツを増やしていくことは急務だが、一方ではTunes Storeで販売されている楽曲と音質が同じであれば、Apple Musicのユーザーが増えるほど、iTunes Storeの売上は減る。もちろん想定内だろうが、アップルとしては悩ましいところだ。そこをあえて踏み出したところに価値があるとも言えるだろうか。

ダウンロード型サービスについては、一部で期待されながらここまで実現に至っていない「アップルのハイレゾ配信」で差別化するという方法もあるのではなかろうか。少なくとも日本国内では成立する可能性があるかもしれない。

まだ船出したばかりのApple Musicだが、日本国内の定額制音楽配信サービスによる競争はようやくスタートしたばかり。NTTドコモが提供するdミュージックやdヒッツ、auのうたパスなどキャリアのサービスもこれから本腰を入れて拡張される可能性がある。一ユーザーとしては、Apple Musicという「黒船」の登場により、それぞれのサービスがますます切磋琢磨しながら良いものに成長していくことを期待するばかりだ。

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