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【速攻レビュー】“世界初”機構搭載イヤホン・オーディオテクニカ「ATH-CKR10」「ATH-CKR9」

2014/03/31 岩井喬/高橋敦
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オーディオテクニカから新たに発表されたイヤホン“CKRシリーズ”(関連ニュース)。5モデルがラインナップされており、上位機種の「ATH-CKR10」「ATH-CKR9」は“世界初”となる新機構「デュアルフェーズ・プッシュプルドライバー」を搭載しているのが大きな特徴だ。

ATH-CKR10

ATH-CKR9

ふたつのドライバーを向かい合わせに配置する「プッシュプル方式」は、過去ピュアオーディオスピーカーに採用された例があったが、イヤホンへの採用はATH-CKR10/9が世界初となる。

「デュアルフェーズ・プッシュプルドライバー」のメリットを簡単に言うと「高磁束・低歪み」。2ドライバー構成のため磁束密度が高くなり、高い駆動力を獲得。2基の対向配置ドライバーはそれぞれ逆位相で駆動するので、相互変調を抑え歪みを低減することもできる。そのため、ワイドレンジで歪みの少ない、伸びやかなサウンドを実現できるのだ。

今回Phile-webではCKRシリーズ全モデルの連続レビューを実施。第1回目は、岩井喬氏と高橋敦氏が「ATH-CKR10」「ATH-CKR9」をいち早く試聴し、その実力を早速チェックした。


■岩井 喬氏レビューはこちら
■高橋 敦氏レビューはこちら


これまでのイヤホンを一新するような音を実現
TEXT/岩井 喬

ヘッドホン&イヤホンは世界的な広がりを見せ、ある種様々な手法が出尽くした感もあった。各社低音を豊かに再現するラインナップを強化する動きがトレンドであったが、ここにきて原点回帰ともいえる音質重視傾向の新製品が増えてきた。

ヘッドホン&イヤホン分野で定評と実績のあるオーディオテクニカにおいても低音の深い表現を狙った「SOLID BASS」シリーズを展開しているが、この度リアルなサウンドを追求する「CKRシリーズ」が発表された。「CKRシリーズ」の“R”は“Sound Reality”が由来というが、上位モデルの「ATH-CKR10」(純鉄ヨーク、高剛性チタンハウジング採用)と「ATH-CKR9」(切削アルミハウジング採用)は、製品ベースでは世界初となる“DUAL PHASE PUSH-PULL DRIVERS”を採用している。

この「デュアルフェーズ・プッシュプルドライバー」は同相と逆相を組み合わせ、2つのユニットでプッシュプル動作を行う構造であり、13mmドライバーユニットの振動板を向かい合わせて設置する手法である。「ATH-IM70」「ATH-IM50」が同位相で音波の均一性を保つのに対し、「デュアルフェーズ・プッシュプルドライバー」は一つのドライバーが逆位相動作となり、相互変調を抑えるのだ。音は向きあったドライバーの背面(ヨーク)側から放出されるが、このとき逆相動作するもう一方のユニットを含め、全体としては同じ動きをする大きなひとつのドライバーユニットとみなすことができる。



共に空気を押し出すときに音を出す格好となるが、一般的にドライバーユニットは空気を押し出す側に対し、引っ込む側の動作が苦手とされる。2つの同一規模の磁気回路が振動板の裏と表から対等に押し引き(プッシュプル)することで、理想のトランスデューサーが完成するわけだ。こうしたプッシュプル手法はスピーカー分野でも活用されるが、ユニットの前後に磁気回路がむき出しになるスタイルは見栄えもよろしくない。80年代後半、実際にそうしたスタイルを持つスピーカーも存在したが、現在ではサブウーファーのキャビネット内に2つのユニットを収めてしまったり、底面側へ外観上分かりにくいように仕込むケースが一般的だ。しかしイヤホンでは元々ドライバーユニットが見えないため、一般的な製品より筺体が大きめとなる程度で実現できることも採用の理由であったそうである。

ATH-CKR10 − 緻密でありながら階調性細やかな空間表現

では実際に「ATH-CKR10」の音を聴いていこう。音が出た瞬間に感じたのは、ダイナミック型とは思えない音の分離の良さ、BA型を思わせるクイックな反応を持つアタック&リリースのキレ味の良さである。しかしBA型のようにソリッドにまとまるのではなく、自然な音像の厚みと滑らかなディティール表現も伴っており、これまでのイヤホンの音を一新するような音離れの良さ、緻密でありながら階調性細やかな空間表現を味わうことができた。

ATH-CKR10


ベースはどしっと深く沈み、ボディの厚みも持たせているが輪郭を制動良く引き締め、中高域の煌めき感をより良く引き出しているようだ。純鉄ヨークを用いた「デュアルフェーズ・プッシュプルドライバー」とチタンハウジングによる相乗効果で全体的に音像が引き締まり、空間のクリアさやS/N、解像度の高さが際立っている。

飛騨高山ヴィルトーゾオーケストラ コンサート2013『プロコフィエフ:古典交響曲』〜第1楽章(e-onkyo:96kHz/24bit)を聴いてみるとローエンドを引き締めつつも全体的に密度を持たせ、ハーモニーの力感をリアルに再現。管弦楽器の旋律は抑揚良く、ヌケ鮮やかなタッチで描かれ、豊潤なホールトーンの響きも細やかに掴みとれる。

余韻の微細な表現にも長けており、『Pure2 〜Ultimate Cool Japan Jazz〜』〜届かない恋(DSDファイル)でもスタジオの残響感、楽器を包み込む空気感を余すことなくトレース。非常にハイレゾ音源と相性が良い。Suara『DSDライブセッション』〜桜(OTOTOY:2.8MHz・DSD)のボーカルも肉付き感がリアルで口元の潤いを丁寧にまとめ、有機的に楽器の演奏を浮き上がらせてくれる。

筆者がDSD録音した長谷川友二『音展2009・ライブレコーディング』〜レディ・マドンナも聴いてみたが、ギターやウッドベースのボディタッチも包み隠さず描き、弦の太さや振幅、倍音の伸びもヌケ良く鮮明に表現。ボーカルの声にはハリがあり、定位感も抜群に良い。

モニターほど冷徹ではないが、ナチュラルで素性の良いオープン型ヘッドホンを聴いているかのようなスムーズで圧迫感のないサウンドである。音場の前後感もつかめるほど空間の情報量、正確な描写力も兼ね備えており、スピーカーから放たれるサウンドを目指したという意図は十分に感じ取れた。


ATH-CKR9 − 新機構の恩恵を手頃な価格で体験できるモデル

「ATH-CKR10」の基幹技術を共有しながらも、ハウジングに切削アルミを用いるなど、よりリーズナブルに「デュアルフェーズ・プッシュプルドライバー」のサウンドを味わえるよう設計された、「CKRシリーズ」の中でも戦略的モデルといえる本機は、「ATH-CKR10」よりは幾分スリムで透明感の高さをより際立たせるサウンド傾向である。付帯感のない音像のリアルな描写力、スカッとキレの良い爽快なリズム隊のアタック表現、ボーカルのナチュラルな厚みと鮮やかですっきりとした口元の際立ち感など、「デュアルフェーズ・プッシュプルドライバー」の持つ歪みの少ないレスポンス良いクリアなサウンド特性を存分に楽しめるだろう。

ATH-CKR9


飛騨高山ヴィルトーゾオーケストラ コンサート2013『プロコフィエフ:古典交響曲』〜第1楽章(e-onkyo:96kHz/24bit)ではホールトーンの階調性が良くつかめ、管弦楽器の抑揚も繊細でハーモニーはハリ良くウェットな音色である。余韻のキレも素早く、響きの収束にもリアルさを実感した。空間の広がり豊かで各楽器の質感をスムーズにまとめ、響きをクリアに聴かせてくれる。曇りなく鮮やかに際立つ女性ボーカルのハリ艶も良く、リヴァーブの透明感との融合性も絶妙なバランスだ。

次ページ高橋敦が聴く「ATH-CKR10」「ATH-CKR9」

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