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ロック&ポップスの再現性を中心にチェック

PHILIPS「S2」を高橋敦がレビュー − Fildelioシリーズのカナル型イヤホン上位機

公開日 2014/03/14 10:30 高橋 敦
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■演奏者特有のスタイルや音色まで描き分けてくれるイヤホン

さて、今回はロック・ポップスを中心に試聴を行った。実際に使われそうな環境を想定して、ハイレゾ対応ポータブルプレーヤーのAK100MKIIと組み合わせた。

Fidelio「S2」

Astell&Kernのハイレゾ対応プレーヤー「AK100MKII」で試聴した

グラミー賞での名演も記憶に新しいDaft Punk「Get Lucky」は、レジェンドから現役トップまで名プレーヤーたちのグルーブを満喫できる曲だ。ハイレゾ配信されていることも嬉しい。

このイヤホンで聴くと、そのグルーブのファンキーさとヘヴィさが共に際立つ。音色の硬質さや演奏の機微を描き出す緻密さによってファンキーさが、低音楽器の低さや厚みの再現性によってヘヴィさが引き出されるのだ。

「Get Lucky」を収録したDaft Punk『Random Access Memories』(88.2kHz/24bit)

ギターのカッティング、ましてやファンキーなそれとなれば、その名手としてまず名前が挙がることも多いナイル・ロジャース氏。最小限の音で構成したスモールコードをニュアンス豊かに刻むその演奏の例えば絶妙な抑揚を、このイヤホンはダイレクトに届けてくれる。そういう細かな要素の再現性がグルーブにつながるのだ。

音色の面でも、ロジャース氏が愛用するギターはストラトキャスターでハードテイル仕様という、芯が強く硬い音を出すのに適したギターであり、まさにそういう音色でのカッティングが氏のトレードマークなのだが、その再現性は抜群! 演奏スタイルと楽器の個性が完全に一致したプレイの妙が伝わってくる。強さや硬質さをしっかり表現しつつ妙な強調感にはしないことは、このイヤホンの持ち味のひとつだ。

ベースはネイザン・イースト氏。ジャズやフュージョン系での活躍が目立つが、どんな曲に参加しても最高峰のプレイを見せてくれる高度なオールラウンダーだ。この曲のファンキーさとヘヴィさの両立には特に大きな貢献をしていると思う。

セミオープンバック構造のため、ハウジング外側がメッシュで覆われたポートになっている

ハウジング内側の気孔は内部のプレッシャーを均一化させるためのものだ

このイヤホンはその音色の柔軟性と厚みを実に良く引き出してくれて、「ヘヴィ」の部分もしっかり打ち出す。単純に帯域的に低い方までの対応力も十分。氏は標準的な4弦ベースよりも低い音域までをカバーする5弦ベースを使用しているが、それを生かした低い音域のフレーズでも音色が薄れることはない。おかげでこのイヤホンで聴くこの曲のグルーブは終止安定している。

■正確な再現性と音楽的な躍動感をバランスよく兼ね備えている

続いては中島愛さん「愛の重力」。ポップスなんだけれどアレンジの基調はハードなフュージョンで曲展開はプログレというすごい曲だが、歌唱、演奏、録音、全てが特筆に値する。

「愛の重力」を収録した中島愛『Thank You』(CDリッピング)

それをこのイヤホンで聴くと、まず全体のバランスが良好。高域の硬質さやシャープさと低音の厚みの表現に優れて、過度ではない絶妙で音楽的なドンシャリ感。おかげで実によい感じにメリハリが利いている。またフュージョンでプログレとくればもちろんリズムの決めが多用されるが、それも含めてリズムのキレも素晴らしい。音色のアタックと収まりが共に良いからこそだ。これは銅合金ハウジングの効果が大きいだろう。高域の好ましい硬質さも銅合金の(こちらは制振性よりも整った響きの)おかげかもしれない。

高橋敦の傾向表

そしていちばん大切なボーカルも文句なしだ。声の透明感という大前提を余裕でクリアし、ファルセットやウィスパーを使う場面では声の鈴鳴り感も美しい。歌の抑揚や語尾の息の抜き方といった機微も明瞭。一言で言えば歌が生きている。

総じての印象としては、正確な再現性と音楽的な躍動感をバランスよく兼ね備えている。モニター系とは異なるがデフォルメ系でもない。そんな正しくも楽しいイヤホンをお探しの方にはぴたりとはまるのではないだろうか。




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