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JVC新ヘッドホン・HA-SZ2000/SZ1000レビュー − 独自構造「ライブビートシステム」の実力は?

2013/05/31 取材・執筆/岩井 喬
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JVCヘッドホンの新機軸として昨年末に登場した“LIVE BEAT”シリーズにオーバーヘッド型となる「HA-SZ2000」「HA-SZ1000」が加わることとなった。

HA-SZ2000

HA-SZ1000

『ライブ感のあるリアルな重低音と解像度の高い明瞭な中高域の両立』をコンセプトとした同シリーズのスタートモデルであるインナーイヤー型「HA-FXZ200」「HA-FXZ100」にも採用された、中高域をカットし低域成分のみを取り出すケルトン方式“ストリームウーファー”を進化させ、ダブルバスレフ方式を組み合わせた“ストリームウーファーDB”を搭載。

「ストリームウーハーDB」の構造図

「HA-SZ2000」「HA-SZ1000」とも、中高域用にはΦ30mmのカーボンナノチューブ振動板ドライバー(CCAWボイスコイル採用)を配し、低域にはΦ55mmのカーボン振動板ウーファー(銅線ボイスコイル採用)を用いる2ウェイ構成となっている。

HA-SZ2000の内部構造

HA-SZ1000の内部構造

ちなみに両ユニットとも360kJ/m3の強力なネオジウムマグネットを採用しており、パワフルな駆動力を実現。ヘッドホンの限られたハウジングで“ストリームウーファーDB”の複雑な構成を実現させるため、低域ユニットを収める第1チャンバー(内径8mm×長さ8mmの第1バスポートを3か所設置)に加え、その外周部にドーナツ状の第2チャンバー(内径6mm×長さ70mmの第2バスポート=ストリームダクトを2か所設置)を設けている。

SZ2000のイヤーパッドを外したところ。真ん中の丸い部分から中高音域が出力され、その下の2つの丸い穴がデュアルストリームダクトに接続しており直接低域を出力する

こちらはSZ1000のイヤーパッドを外したところ。構造はほぼ一緒だが、SZ2000に設置されている中高域出力部分の銅板が省略されている。

なお第1チャンバーに設けられる高剛性ユニットベースには不要振動を抑える制振材(SZ1000には銅箔シートが2枚貼り付けられ、SZ2000は真鍮製シリンダーでベースを覆うことでプラ素材固有の音を抑え、雑味のないサウンド再生につなげているという)が接着されており、振動しやすい重低音再生においてもにじみの少ないタイトなサウンド性を実現させた。

HA-SZ2000の高剛性ユニットベース。真鍮製シリンダーで覆っている。

HA-SZ1000の高剛性ユニットベース。音質調整のため2枚の銅板を貼り付けている

通常このような2ウェイモデルでは、ネットワークを活用して各ユニットの受け持つ帯域をクロスオーバーさせるのだが、その際ネットワーク用の素子がチップ部品でまかなわれることが多い。しかし“LIVE BEAT”シリーズではそうしたチップ部品による音質劣化を嫌い、できるだけ音の純度を落とさず自然にクロスオーバーさせるかを検討した結果、ローパスフィルターに似た動作となるケルトン方式にたどり着いたのだ。

当初はFXZシリーズと同じ“ストリームウーファー”構造をそのまま取り入れてみたそうであるが、まだまだ中高域成分が落とし切れていなかったため、バスポートの内径を太くするとともに、ケルトン方式にダブルバスレフ方式を加えた構造にしたという。
“LIVE BEAT”シリーズの設計に携わった、JVCケンウッド商品企画統括部商品設計第三部参事である三浦拓二氏によれば、「HA-SZ1000/SZ2000」開発において目指したサウンドのイメージは「JBL 4343」のような38cmウーファー搭載4ウェイシステムであったという。大型モニタースピーカーの音をヘッドホンで実現する、その思想から導かれた技術が“ストリームウーファーDB”であり、ヘッドホンの限られたスペースの中で低域のリアルな量感とスムーズな音の繋がり、中高域の解像感の両立という難しいテーマを見事成し遂げた。

ネットワークを用いないアコースティックな設計で巧みに300Hz周辺(ちなみにキックドラムやベースのアタック感は約100Hz周辺なので、決して低域だけウーファーが担当しているわけではない。300Hz周辺はエレキギターやボーカルの低い成分なども集中する重要な帯域だ)でクロスオーバーさせるという手法によって、詰まりのないすっきりとした音伸びと音像の分離感が得られている。

HA-SZ2000(左)、HA-SZ1000(右)。SZ2000のみ、ハウジング部には高級感のあるハンマートーン仕上げを施している


HA-SZ2000(左)、HA-SZ1000(右)。ヘッドパッドには、両モデルとも合皮素材を採用。SZ2000は内側にメッシュ素材を使用し通気性に配慮している


HA-SZ2000(左)、HA-SZ1000(右)。イヤーパッドは耳を優しく包み込む低反発クッションを採用。SZ2000は吸放湿性が高くムレを低減するプロテインレザーを使っている


HA-SZ2000(左)、HA-SZ1000(右)。どちらも折りたたみ機構を有している


HA-SZ2000(左)、HA-SZ1000(右)のプラグ部。SZ2000のみ金メッキ仕上げ。どちらもリケーブルには非対応

●「HA-SZ1000」の音質チェック
制動良い中低域の厚みとヌケ良くソリッドな中高域の際立ちを同時に味わえる

それではまず「HA-SZ1000」について見ていきたい。“ストリームウーファーDB”機構を盛り込んだつくりもあり、オーバーヘッド型の中でもかなり大柄なスタイルである。特にハウジングのアルミ製リングがアクセントとなり、独特な存在感を醸し出している。折り畳みに対応するほか、キャリングポーチも付属し、片出しケーブルは1.2mで程よく使いやすい長さであり、持ち出ししやすい。しかしその半面、昨今発表されたヘッドホンの中では重量級となる450gという重さであること、イヤーパッドも低反発クッションを用いているものの、側圧が比較的高めであることから長時間のリスニングでは少し疲れを感じた。

サウンド面(試聴には「iBASSO AUDIO HDP-R10」を使用)では“ストリームウーファーDB”の効果もあり制動良い中低域の厚みとヌケ良くソリッドな中高域の際立ちを同時に味わえる。傾向的にはウォームな音色となっており、各音像は明瞭良く聴こえてくるが、音場そのものは奥行きが浅く、余韻が残る印象も受けた。しかしながら高域方向の倍音をバランスよくまとめてくれるため、ピアノやギターの輪郭感にメリハリを持たせ耳当たり良いサウンドとしてくれる。

クラシックのレヴァイン指揮/シカゴ交響楽団『惑星』〜「木星」(CDリッピング:44.1kHz/16bit・WAV)では管弦楽器の中域成分を厚く押し出すが、粒立ち良い高域のタッチは素直に表現し、音伸びナチュラルなハーモニーが広がる。低域の押し出しはどっしりと豊かに響くが制動感は保たれ、打楽器の輪郭もしっかりと感じさせてくれた。

ステレオ録音初期のジャズ作品、オスカー・ピーターソン・トリオ『プリーズ・リクエスト』〜「ユー・ルック・グッド・トゥ・ミー」(CDリッピング:44.1kHz/16bit・WAV)ではピアノの高域の倍音感が甘く、優しげなタッチを聴くことができる。中域成分も豊かで、余韻はウォームだ。ウッドベースは制動良く腰高な胴鳴りを聴かせるが、量感は豊かで弦のたわみ感も艶良く浮き上がる。ドラムのディティールも厚みを出しながらブラシの小気味よいアタックを粒立ち良く描く。

中低域の厚みをしっかりと感じ取れるハードロック、デイヴ・メニケッティ『メニケッティ』〜「メッシン・ウィズ・ミスター・ビッグ」(CDリッピング:44.1kHz/16bit・WAV)ではリズム隊は膨らみ良く張り出すものの、アタック感をしっかり引き締め、ビートを的確に表現。レスポールの豊かなディストーションは重厚で甘いエッジを見せ、ミュートの刻みも太く立派だ。ボーカルもボトムを厚く支え、口元のハスキーさをハリ良く演出。

打ち込み主体でゴージャスな音づくりをしているアニソン系から、『ラブライブ!』の楽曲(CDリッピング:44.1kHz/16bit)もいくつか聴いてみた。μ’s「baby maybe 恋のボタン」では、キラキラとしたシンセやギターのフレーズが華やかに展開し、ボーカルはからっとヌケ良くソリッドに定位。音像のボディはほんのりと重心が下がり安定傾向だ。ベースは力強いリードを見せ、ディストーションギターも分厚く表現。ボーカルのシャープな鮮やかさとスピード感あるリズムの歯切れ良さについては、にこりんぱな「Listen to my Heart!!」でも顕著であるが、この曲についてはエレキのズンズンと響くユニゾンの重厚な刻みがことのほかマッチしている。

ハイレゾ音源の参考として『Pure2-Ultimate Cool Japan Jazz-』〜「届かない恋」「夢であるように」(192kHz/24bit・WAVマスターデータ)も再生してみると、太く安定したリズムセクションの厚みと、高域にかけて細身の描写となる管楽器の際立ちをバランスよく両立させており、アンビエントの響きも華やかに広がる。ウッドベースのむっちりとしたタッチやウェットで艶やかなボーカルの存在感あるボトムの厚みは“ストリームウーファーDB”が効果的に働いている証拠だろう。


●「HA-SZ2000」の音質チェック
軽やかでリッチな低域と明瞭感ある鮮やかな高域が融合したサウンド

「HA-SZ2000」では先述の通り、ユニットベースにブラス(真鍮)製シリンダーを装着するとともにケーブルも銀メッキOFC線に変更。磁気回路の鉄素材は焼きなますことで歪成分を抑え、より伸びの良い素直な特性を持たせている。イヤーパッドは肌触り良く蒸れにくいプロテインレザーを用いており、「HA-SZ1000」よりも柔らかく側圧も控えめでフィット性が高い。またヘッドバンドの接触面側にはメッシュ素材を採用し、さらに重量を増したものの(480g)、装着時のストレスはかなり軽減されている。外観上の違いとしてはデジタル一眼レフの上位機などに用いられる、艶消しのハンマートーン仕上げが施され、落ち着きのある面持ちとした。

「HA-SZ2000」のサウンドについても「HA-SZ1000」と同じ音源でチェック。機構面やケーブル素材の点で「HA-SZ1000」よりもワンランク上の構成となる本機では、低域の引き締まりや高域のクリアさ、解像感の高いソリッドな描写に磨きがかかっている。余韻の混濁感も解消され、まさに38cmウーファー搭載大型モニターを彷彿とさせる、軽やかでリッチな低域と明瞭感ある鮮やかな高域が融合したサウンドだ。

クラシックの『惑星』では管弦楽器の旋律が爽やかに浮き上がり、ハーモニーは伸びやかで程よい煌めき感も伴う。ローエンドはゆったりと落ち着きがあり、打楽器の量感と制動感のバランスも絶妙だ。ジャズはオスカー・ピーターソン・トリオであるが、ピアノのアタックはエッジをハードに描き、ソリッドな高域感を演出。しかしボディの響きを出す中低域には厚みがあり、伸びやかなトーンを聴かせてくれる。ウッドベースの弦のタッチはハリ艶良く際立ち、胴鳴りもブンブンと響きよい。ドラムのアタック感も芯がはっきりとして立体感も向上しているようだ。

続いてロック音源であるが、「HA-SZ1000」と同様、ディストーションギターにおけるパワーコードのミュートなど、エレキサウンドの重厚なサウンドと相性が良いようで、デイヴ・メニケッティでは輪郭の引き締まったリズム隊のアタック感がラウドなディストーションギターと一体化して迫力あるサウンドとなる。ボーカルもボディの厚みをしっかりと持たせつつ口元をハリ艶良く描写。ソロギターの旋律も熟成した粘りある音色だ。

『ラブライブ!』の音源でもシンセ系フレーズの煌びやかさが増し、ベースラインもキレ良く押し出すため音場の透明度が向上している。9人のボーカルは色鮮やかに艶良く彩られるが、音像には太さがあり、声質の滑らかさもより良く感じられるようになった。解像感も高くなっているが、サウンド全体の安定感も数段増すような印象を受けた。にこりんぱなのエレキフレーズは威勢がよく、ベースのブンブンと力強い旋律も小気味よい。ボーカルはシャキッとヌケ良く鮮やかに浮かび上がり、細やかなフレーズも分離よく見通せる。

最後にハイレゾ音源である『Pure2』を聴いたが、リズム隊だけではなく、ホーンセクションなどの高域にかけて全体的に音像の厚みを感じることができ、非常に安定感がある。ウッドベースのむっちりとしたタッチやピアノやシンバルの清々しい余韻の表現を含め、穏やかながらリッチ&ゴージャスなテイストも感じさせてくれた。ボーカルも肉付きよくウォームな艶やかさを持っており、口元の動きは非常に滑らかだ。

脚色を控えたリアルな重低音と煌びやかな中高域の融合はいわゆるモニター基調のサウンドとは一線を画す傾向にあるものの、音楽をより楽しく聴くためにはベストフィットな味付けとなっている。2ウェイながらも音のつながりが良く自然な音像感を実現できていることも「HA-SZ1000/SZ2000」の大きな特徴である。“LIVE BEAT”の名の通り、低音過多ではなくリアリティ溢れるライブサウンドを実現するためのマッシブな新提案モデルとして唯一無二の存在といえるだろう。

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