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使うことで実現する利便性は?今後の展開は?

ネットワーク非対応のAV機器をWi-Fi&クラウド対応に変える「Cloud@SD」に迫る

公開日 2012/06/20 11:00 取材・執筆/海上 忍
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デジタル化されたものの、データの受け渡しはいまだにメディア経由、というAV機器も少なくない。そのような状況を一気に変える可能性を持つデバイスが、プロバイダ事業など日本のインターネットのインフラを支えるフリービット社から発表された(関連ニュース)。

同社はいわゆるIT系企業と認知されているが、実はSONY「Cocoon」のネットワーク番組予約機能を技術的に支えた、AV機器とも縁のある企業だ。今回、ネットワーク非対応の機器をWi-Fi&クラウド対応に変える画期的な新製品「Cloud@SD powered by ServersMan(以下Cloud@SD)」の発表にあたり、同社新事業企画室サブジェネラルマネージャーの佐藤 新氏と、R&D部の杜 世橋氏に話を聞いた。


ネットワーク非対応の機器をWI-Fi&クラウド対応に変える画期的な新製品「Cloud@SD」

-- 「Cloud@SD」というデバイスの特徴について教えてください。


フリービット社 佐藤 新氏
佐藤:SDカードにCPUとWi-Fi機能を詰め込んだ小さなコンピュータ、と言えばいいでしょうか。形状はSDメモリカードそのままですから、家電やAV機器にも採用事例が多いSDカードスロットに挿せば、ネットワーク機能がない機種でも直接Wi-Fiにつなぎ、クラウドにアクセスすることができます。

ただWi-Fi機能を持たせたわけではありません。Wi-Fiアクセスポイントを備えたWebサーバとして動作しますから、パソコンやスマートフォンから直接つないでデータを取り出す、といった使い方が可能です。これが「アクセスポイントモード」ですね。パソコンやスマートフォンのように独立した機器としてクラウドに接続する「インフラモード」、端末間で直接通信できる「M2Mモード」も用意されています。

-- では、Wi-Fi非対応のこのカメラ(RICOH CX5)にCloud@SDを挿せば、撮影したカメラがクラウド対応になる、という理解でよろしいのですか?

佐藤:そのとおりです。テレビやビデオレコーダー、プロジェクターなどといったSDカードスロット搭載のデジタル家電に装着すれば、ネットワーク機能を持たない製品でもすぐにインターネットへ接続し、クラウドの機能を活用できます。弊社では、このソリューションを「Plug in Cloud(プラグイン・クラウド)」と呼んでいます。

Cloud@SDを同梱した、新発売のプロジェクター搭載小型カメラ「AHD-X1 with Cloud@SD」。クラウドでデータ共有することにより、PCやスマートフォンで作成した文書をその場で映すことができる

本体側面にあるSDカードスロットに「Cloud@SD」を挿入するだけでクラウドにアクセス可能になる

杜:ただ、SDカードスロットを備えたすべての製品で動作確認しているわけではありません。バッテリー消費量を節約するためか、SDカードスロットへの給電をひと工夫しているデバイスもありますから。その場合、弊社の期待どおりに動作しない可能性もあります。

フリービット社 杜 世橋氏

-- 確かに、CX5で撮影した写真がクラウドに自動アップロードされていますね(PCの画面で確認)。これは、Cloud@SDが特定のフォルダをチェックし、変更があればアップロードを行うということですか?

杜:そうです。デジタルカメラの場合、メーカーや機種により特定のフォルダ名を作成しますよね、RICOH CX5ですと……「ルート:DCIM:101RICOHフォルダ」ですか。そのフォルダをチェックするようCloud@SDを設定しているのです。この部分はソフトウェア制御ですから、機器の仕様にあわせてカスタマイズ可能です。

海上氏私物のデジタルカメラ「RICOH CX5」にCloud@SDを装着、説明どおりに動作するかどうか実際に検証した

結果は大成功。Wi-Fi非対応のCX5で撮影した写真が、十数秒後にはWi-Fi経由でノートパソコンの画面に現れた

-- どのような形態で販売される予定ですか?

佐藤:基本的には、メーカーにOEM供給する形となります。グループ企業のEXEMODEと、中国aigo社との合弁会社Smart Cloud(北京筋斗云科有限公司)でも、Cloud@SDを同梱した製品を展開していく予定ですが、我々フリービットは直接エンドユーザにはアプローチしない方針です。「インターネットをひろげ、社会に貢献する」をモットーに、企業を対象にネットワークプラットフォームを提供する会社ですので、Cloud@SDもパートナー企業向けのOEMを考えています。実際、すでに多くの企業から引き合いをいただいております。

「Cloud@SD」が同梱された第1弾製品として、前述のプロジェクター搭載小型カメラ「AHD-X1 with Cloud@SD」のほかフィルムスキャナー「FS-901」(写真最左)がラインナップされている

-- デジタルカメラユーザに絞って展開するEye-Fi(無線LAN機能を内蔵したSDカード)とは、コンセプトが異なるわけですね。

佐藤:製品に対する考え方が違いますね。Eye-Fiはデジタルカメラに絞ることで、SDカードを抜き差しするのは面倒だという層にアピールする新しいソリューションとして認知されています。一方Cloud@SDは、ネットワークサービスの面白さをいろいろな機器に提供するためのアーキテクチャとしてデザインした、という出発点からして異なります。SDカードという汎用的なデバイスを通じて、ネットワーク機能のない機器をネットワークの世界に招き入れる、そこがCloud@SDという製品のユニークな点だと思います。

-- Cloud@SDは、ハードウェアメーカーにとってネットワーク機能の有効なアウトソーシングになりうる……といったところでしょうか。

佐藤:まさにそこを目指しています。コンポーネントとしてもアーキテクチャとしても一気通貫ですから、ソフトウェア開発のニーズにも応えられます。スマートフォンアプリをどうしよう、という場合には開発キットを提供できますし、カスタマイズなどのご相談にも乗れるはずです。

-- ところで、オーディオ&ビジュアルの分野では、近年ネットワーク対応が急速に進んでいます。LANにつないで使う「ネットワークオーディオ」という新カテゴリも現れ、NASに保存したオーディオソースをワイヤレス経由で聴く、などという楽しみ方が一般化しました。そういった製品で活用される可能性はありますか?


佐藤:あると思います。Cloud@SDは「プラグイン・クラウド」の名のとおり、SDカードスロットに差し込むだけで、あらゆるデバイスがクラウド対応になります。弊社ではクラウド領域込みのサービスを提供できますから、オーディオやビデオといったコンテンツをクラウドに保存しておき、いろいろなデバイスからアクセスする、といった使い方が可能です。ロスレス音源のように容量がかさむファイルも、クラウド領域の割り当てを増やすことで対応できます。

NASも家庭内で使うぶんにはアクセスが高速ですし、ネットワークオーディオに適していると思いますが、いつか容量は足りなくなるうえバックアップの問題がつきまといますよね。クラウドの場合、それがありません。どこにいても同じ音源を楽しめるという点も、大きいのではないでしょうか。

-- コピープロテクトの問題を解決できればという前提になりますが、ビデオレコーダにも応用できそうですね。たとえば、夜に録画したドラマをCloud@SDを通じてクラウド上に自動アップロードしておき、外出先で見たいときに見るとか。

佐藤:できますね。従来の記録媒体としてのSDカードという概念とは大きく異なりますから。この場合、SDカードに記録するのではなく、SDカードの形をした超小型コンピュータを介してクラウド上に転送する、というイメージです。クラウド上の容量が足りない場合には、既存のビデオを自動削除するなどソフトウェア的な方法で対応できるでしょう。

-- AV機器もクラウドに接続することで、新しい使い方ができそうですよね。

佐藤:ただ記録媒体として使うだけでなく、ソフトウェアで機能を拡張できる点が大きなメリットになるのではないでしょうか。たとえば、いいと感じた曲の部分や映画のチャプターを友だちに知らせるなど、楽しさや感動を共有する使い方が可能になると思います。実際、そのような機能を持つスマートフォンアプリがありますよね。ハードウェアをネットワークに対応させるのは、開発部門にとってなかなか大変なことですが、開発支援を含めてすべて揃ったCloud@SDならば強力にアシストできると思いますよ。


【執筆者紹介】
海上 忍 UNAKAMI,Shinobu
ITジャーナリスト・コラムニスト。コンピュータテクノロジー方面全般での豊富な執筆経験を持ち、Mac OSやLinux、デジタル家電関連の著作多数。

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