JEITAに聞く「コピーナイン」の真実(後編) − EPNからコピーナインに変わった経緯

2007年08月22日
8月2日に総務省の情報通信審議会第17回総会で提出されたコピーワンスの見直し案「コピーナイン」。前回の記事では、家電メーカーを代表する立場としてJEITA(社団法人 電子情報技術産業協会)の田胡修一氏へのインタビューを行い、決定した内容の詳細のお伝えした。

後編となる今回は、決定の経緯とメーカーを代表としてJEITAがどのような点に力を入れてコピーナインに取り組んできたをお伝えしていこう。

●インテルによるCOGの提案によって議論が始まる


取材協力:(株)日立製作所コンシューマ事業グループ コミュニケーション・法務部部長 田胡修一氏
2005年にコピーワンスの見直しの議論が始まり、昨年にはコピーワンス見直しに関する報道が行われたことは記憶に新しい。昨年に行われた第3次中間答申においてコピーワンスの運用をEPNに変えるという見直しの提案と、他の代替案を検討することが決定された。そこで情報通信審議会では、『デジタル・コンテンツの流通の促進等に関する検討委員会』『地上デジタル放送推進に関する検討委員会』という2つの委員会を作り検討を開始した。

これら委員会で繰り広げられた議論は、メーカーなど消費者寄りの立場は「コピーをかけるのはおかしい。私的利用の範囲だ」という主張であるのに対して、権利者側は「何らかの制限は必要だ。海賊版対策も必要だ」という議論が繰り広げられ、ある意味平行線を辿ったままの状態が続いていたのが昨年の状況だ。

この対立関係を打破したのがインテルの提案だ。

「委員会における議論のなかで、インテル社から『例えば、HDDにDTCPのCOGフラグで記録しておき、そこを起点として外に出すようにすれば世代制限はできる』という提案がありました。この案で問題となったのは、世代制限はできるものの無制限にコピーができてしまうということです。そこで回数制限が可能かどうかということが技術的な課題として残りました」(田胡氏、以下同)。

この提案を受けて、4月15日の情報通信審議会において主査の村井純・慶應義塾大学教授によって現時点の選択肢は「1.現在のコピーワンス」「2.EPNを使った運用」「3.COGを使った世代制限」「4.COG+回数制限」の4つの案として示され再検討が行われる。

その上で、「4.COG+回数制限」の案を「技術的に可能であるかどうか」「ライセンス的に可能であるかどうか」を検討する非公開の技術検討ワーキンググループが設けられ、メーカー側の委員も含めて技術検討が行われた。

検討の結果は、回数制限をかけることは可能でライセンス的にも問題はないというものであった。この結果を受けて、慶應義塾大学教授の村井純主査の取りまとめにより現在の「コピーナイン」と呼ばれる案が発表され、消費者団体、権利者団体、放送事業者、メーカーすべての立場が温度差はあれど、受け入れを示したのが現在までの経緯である。

●スピード重視で現実的なコピーナインの決定を受け入れたJEITA


今回の決定を受けて、JEITAは既に実用化に向けて活動を始めている。以前はEPN案を推進したJEITAが今回の案を呑んだ背景には、「メーカーとしてはコピーワンス見直しの議論は買い控えにも繋がる要因なので、早く決めたいという方針を持っていました。2011年の地デジ完全移行に向けていち早く製品を発売するためにも、スピード感を持ってやらないと間に合わないという実感もあり、それで村井さんの提案を尊重して受け入れることとしました」という現実的な判断がある。地上デジタルへの完全移行Xデーとなる2011年が念頭に置かれている。

スピード重視、それが今回の決定にあたってJEITAが最も重視した部分だ。

コピーナインの特徴に、基本的に既存のライセンス(DTCP、AACS、CPRMなどの国際的に定められた各種の著作権保護技術)に手を加えることなく実現できることが挙げられる。

「今回の案の特徴は、使用する技術のライセンスを一つも変えることなく実現できることです。このため、変更する内容はARIBなど日本国内の運用規定だけの範囲に収まっています。仮にJEITAから既存の技術のライセンスの内容を変えてもらうということになると、ハリウッドを始めとする国際的なステークホルダーたちとの交渉が必要になり実現までの時間は恐らく10年以上にもなります。そうなると2011年という期限に間に合うはずもない。そこで、ライセンスを変えずに実現できる見直し内容にするということが大前提としてありました」。

とは言え、今回決定したコピーナインの見直しについては従来JEITAが推進してきたEPN案とは異なり、基本的に新しい運用方法を導入することになる。技術的な問題点はなかったのだろうか。

「技術的な要件については、5月15日、6月15日にJEITAで行われた非公開ワーキンググループによって内容の確認が行わました。コピーナインの案で問題となったのは、コピーナインの前提条件となっているDTCPのCOGステータスでHDDに保存した番組を出力するときに、録画するのか、視聴するのか、これをきちんと区別する仕組みを組み込む必要があることです。これは、DTCPのムーブモードを使用することと、その使用方法がライセンス上も問題ナシであるという確認が取れ技術検討としてはすべて問題なしという結論が出ました」。

取材時点で進められている最新の状況は、この技術検討としてJEITAで実現可能であるという確認が取れたという段階である。

これから放送事業者と話し合いもしながら機器の技術仕様として確定をお小海、また、デジタル放送の放送波によって複製制御をコントロールする信号についても、従来の信号のほかに「回数制限コピー可」であるということを識別する信号の定義も必要だ。

「ARIB標準をいじらないといけないし、D-PAの方も変えなくてはならない。時間としては数ヶ月、出来れば9月いっぱいまでにはやってしまいたい。メーカーとしては急いでいるので、いくらでも汗を書いて、仕様はこちらでも書く。こちらはボランティアで動いているという状況です」。

これらの変更はもちろん検討と手間のかかるものになるが、それでも国際的なライセンスを変更するのと比べれば日本ローカルの規格であり、メーカー側が急げば現実的なスピードで進められる。

とにかく2011年までにデジタル放送に全面移行するためには、コピーワンス見直しも早く進めなくてはいけない。実際に製品を発売するメーカーとしては、より早く確実にコピーナインに対応した発売したい。この思いは、いち早くコピーナインに対応した安心して購入できる製品を待つ我々ユーザーの期待にも応えるものだろう。

答申で「12月中までに対応する機器の登場に期待する」という文言が盛り込まれ、前回は取材に応じていただいた田胡氏の個人的な意見として「来年4月くらいまでには」との目安が示されている。早期実現に期待して待つとしよう。

●コピーナインは大きな前進。更なる自由化にも期待

さて、最後に取材の余談部分を紹介したい。コピーワンス見直しについて筆者はJEITAに取材したのは今回が初めてではないのだが、今回の取材でも以前に取材した際にも、コピーワンスに反対する立場として強いメッセージを受け取っている。

今回のコピーワンスの改善案として決まった「コピーナイン」。一方で、コピー制限が緩くなるということは、ある程度の違法行為が行いやすくなることも否定できない。これについてJEITAの田胡氏は、「海賊版を極滅するためには、監視と法的措置の両面から阻止していくしかないんですよね。普通の複製でコピーして売るという人は、大したボリュームではなく、大量に複製して販売する業者の存在だけが問題なのです。知識のない消費者の方がオークションで販売してしまうような事は海賊版ではないですし、我々としては一般のユーザーを対象とした制限は考えていません。善良なユーザーを捕まえて、海賊版、海賊版と人のことを盗人扱いするだなんて、失礼にも程があるでしょう」と、コピーワンスの制限自体にも反対する立場を取ってきた。

今回導入されたコピーナインの回数制限という形は完全にJEITA側の意見が通ったわけではないものの、今回のコピーナインに至るまで、こういった反対意見を持って交渉を続けてきたと知っておいても良いだろう。

ちなみに、今回のコピーナインの見直しは暫定的な措置として改正が行われており、万が一コピーナインを悪用してオークションで録画した番組を販売するような人が現れてきた場合には再度見直しをすることが示唆されている。「再度検討が行われ、コピーワンスに逆戻り」などという事態にならないためにも、見直し後も私的利用の範囲に留めての活用を心がけてほしい。

今回の「コピーナイン」の見直し決定内容について、読者の皆様はどのような感想を持っただろうか。筆者の個人的意見としては、2011年までの現実的な導入というJEITAの思惑も考えれば、ある程度納得できる案にまとまったという感想を持っている。今後は、今回決定した内容をもとにして、時間をかけてでも、より自由度の高い運用が行える環境が整備されることを期待したい。

(折原一也)

執筆者プロフィール
埼玉県出身。コンピューター系出版社編集職を経た後、フリーライターとして雑誌・ムック等に寄稿し、現在はデジタル家電をはじめとするAVに活動フィールドを移す。PCテクノロジーをベースとしたデジタル機器に精通し、AV/PCを問わず実用性を追求しながら両者を使い分ける実践派。

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