JEITAに聞く「コピーナイン」の真実(前編) − 具体的な運用はどうなる? いつスタートする?

2007年08月11日
総務省の諮問機関である情報通信審議会は8月2日、第17回総会を開催し、デジタル放送の著作権保護方式である「コピーワンス」の見直し案を答申として取りまとめ、総務大臣に提出した(関連ニュース)。

このコピーワンス見直しについては、各種報道機関で広く報道され、9回という回数について読者の方々も様々な意見をもって受け止めたことだろう。


取材協力:(株)日立製作所コンシューマ事業グループ コミュニケーション・法務部部長 田胡修一氏
家電メーカーの代表として、この「コピーナイン」案の登場にいたるまで意見を取りまとめてきたのがJEITA(社団法人 電子情報技術産業協会)だ。今回はその代表として、コンテンツ保護検討委員会で委員長を務める(株)日立製作所コンシューマ事業グループ コミュニケーション・法務部部長 田胡修一氏への取材を実施した。本稿ではその取材速報として「コピーナイン」の詳しい内容をお伝えしよう。

●「コピーナイン」の決定に繋がった5つの前提条件

今回「コピーナイン」として決定した基本的な内容は、「デジタルコンテンツ流通促進等に関する検討委員会」において、主査を務める慶応義塾大学の村井純教授が決定した5つの前提条件が元になっている。

 1.デジタルチューナーとHDD一体型を想定
 2.COGステータスでHDDに保存
 3.COGでストアされたコンテンツは出力する回数に一定の制限を設ける
 4.回数の定義は基本的にシンプルで単純化したものであること
 5.新たに購入する機器での実現を前提

以上が見直しの元となった条件を簡単にまとめたものである。この条件として設定されていた制限の回数が、村井純教授によって9回という案が出され、「コピーナイン」という見直し内容が案としてまとまったのが現在の状態である。

今回の「コピーナイン」案については、家電メーカーや放送事業者といった委員会のメンバーは合意しており、この方針で制限が緩和されることが決定している。

今回の決定内容の技術的な特徴は、HDD一体型デジタルチューナーを使ってHDDにDTCPルールの定めるCOG(Copy One Generation)ステータスを付加した状態で記録され、出力先の機器に応じて制限が行われるようになることだ。また、個数制限コピーとして9回までコピーできることが「コピーナイン」などと呼ばれている所以だ。

●必ず9回コピーできるとは限らない −機器ごとに違う「コピーナイン」の記録制限

「コピーナイン」のルールでは、現在運用されているコピーワンスと異なり先に挙げたハードウェアにも前提条件が定義されている。これを実際に使用する機器ごとに当てはめると、機器や記録メディアごとに違ったルールが適用されることになる。

現在流通している各種の機器に当てはめて考えてみよう。

【HDD一体型デジタル放送チューナーの場合】

今回の「コピーナイン」で基本となる機器の形態がHDD一体型のデジタルチューナー、いわゆるハイビジョンレコーダーだ。

デジタル放送をHDDに録画してDVDや次世代ディスクに保存した場合には、9回という個数制限でコピー(1世代の世代制限はアリ)を行える。ちなみに10回目は従来と同じムーブとなる。アナログ出力については、世代制限アリの状態で何回でもコピーできる。

ただし、ややこしいのがHDDに記録せずに直接DVDや次世代DVDに録画してしまった場合だ。メディアへの直接記録では、HDDと異なり「コピーナイン」の適応範囲外となる。このため現在と全く同じコピーワンスで記録され、コピーもムーブも一切行えない。

現行のコピーワンスの場合。DVDや他機器へはムーブのみ。アナログ接続でのコピーもできない


コピーナイン導入後は、DVDや他機器へ9回までコピーが可能になる。アナログ接続でのコピーも制限付きながら可能になる

【デジタル放送チューナー + アナログHDD&DVDレコーダーの場合】

デジタル放送の単体チューナーとアナログ放送向けのいわゆるDVDレコーダーをアナログ接続して録画した場合には、HDDに録画した場合であっても従来と同じコピーワンスのルールが適用され「コピーナイン」のルールには当てはまらない。DVDに直接録画をした場合もコピーワンスのルールが適用される。ちなみにHDD内蔵ではないテレビはデジタル放送チューナーとして位置づけられるため、番組表などでの表記もこの内容が適用されることになる。

アナログチューナー搭載のHDD・DVDレコーダーの場合。コピーナインは中段の「COG蓄積とした場合」となり、現行のコピーワンスと変わらない

【デジタル放送チューナー + VTRの場合】

デジタル放送の単体チューナーとVTRを録画した場合。これは実は現時点でもコピー制限はとくにかけられていない。このルールは特に変更はない。

アナログチューナー付きVTRの場合は、コピーナインとなってもコピー制限はかからない

簡単にまとめると、実際に使い勝手が向上するのはHDD一体型デジタル放送チューナーを使ってHDDに録画する場合に限られ、それ以外の機器では従来のコピーワンス制限が残り続ける。また、DVDや次世代DVDなど記録したメディアからの書き戻しは、いずれのケースでもできない。

今後の主流になるであろうHDD一体型のデジタルチューナー、いわゆるハイビジョンレコーダーでの使い勝手が大きく改善しており、これは歓迎したい内容だ。ただし、それ以外は基本的に変更がないことも合わせて告知行わないと、後々の誤解に繋がる恐れもあるだろう。

●既存の機器の対応は? 放送によっては「コピーワンス」も残る?


今回の「コピーナイン」見直しに向けた内容の前提条件として、「新たに購入する機器での実現を前提」とすることは既存のレコーダーユーザーにとって気になる条件だ。すでに世の中に出回っているレコーダーへの対応はどのようになるのだろうか。

基本的には、「コピーナイン」の内容は既存の仕様にはないため、従来からのユーザーはこれまで通り「コピーワンス」のまま使用することになる。既存の機器については、ファームウェアの更新などで対応できる可能性は残されているものの、正式な技術仕様書のできていない現時点で断言できるものではない。ただし、JEITAとしては技術検討の内容を共有しており、今後発売される機種については内部的に対応の準備を進めて開発することは可能だろう。

「コピーナイン」は現行のコピーワンスのルールに追加する形で個数制限という新しい運用の規定が導入されている。このため、ルール上は放送局が番組個別に使い分けも行えるようになっている。つまり「コピーナイン」にならない放送も存在する。

現時点の見通しとしては、地上デジタルなど無料の放送はすべて「コピーナイン」で運用されると考えて良い。衛星放送などの有料放送については、権利者との契約などにより従来通りのコピーワンスの制限がかけられる可能性が濃厚だ。また、放送事業者側の運用によっては、番組ごとにコピーワンスとコピーナインを使い分ける、といった対応もあり得る。

既存の機器の対応、そして放送ごとに違うということも「コピーナイン」開始後に混乱に繋がらないよう、確実な告知が求められる。

●「コピーナイン」運用開始に向けてのスケジュールは?

今回「コピーナイン」という案が提示されたわけだが、実際の運用はいつ頃スタートするのだろうか。

現時点での「コピーナイン」案の進展状況は、提案の内容(どのような運用ルールにするか)が定義されたという段階である。実際の運用に向けては、この運用ルールを実現するために、どの技術を用いて技術的にどのような個数制限のカウントを行うのか、各出力に対してどういった著作権保護の技術を適応するのかといったことを家電メーカー、放送事業者といったメンバーで検討して、技術仕様として確定することが最初のステップとなる。

JEITAのスタンスは「なるべく早く決めたい」ということで、「向こう数ヶ月、出来るなら9月中、8月中、もっと早ければ早いほど良いというスピード感を持って仕様の策定を進めている」という。

また、実際の運用スタートに向けては、デジタル放送の規格と運用規定についてARIB(社団法人 電波産業会)とD-PA(社団法人 地上デジタル放送推進協会)によって定められているため、これらの運用ルールを改訂する手続きも必要だ。そして最終的には、放送局の使用しているデジタル放送の送り出し設備の改修も必要になる。

コピーナインに対応したレコーダーの発売については、情報通信審議会の答申では「12月中までの登場が期待される」という旨が盛り込まれている。実際に「コピーナイン」での放送がスタートするスケジュールは、最終的には放送局の設備改修がいつ行えるか次第だ。しかし、来年夏には北京オリンピックも控えている。それまでに間に合わなければ、レコーダー主要メーカーは大きな損失を被る。田胡氏も、個人的な意見と前置きしながら、「来年4月までにはスタートさせてほしい」と語る。

今回は取材した内容を元にして、「コピーナイン」導入に向けた主な変更内容と今後のスケジュールを中心にまとめてみた。

後編では、今回JEITAの代表として取材に協力いただいた多胡氏への取材を振り返りながら、今回の「コピーナイン」の決定の経緯を技術的な要素をまじえて解説する。

(折原一也)

執筆者プロフィール
埼玉県出身。コンピューター系出版社編集職を経た後、フリーライターとして雑誌・ムック等に寄稿し、現在はデジタル家電をはじめとするAVに活動フィールドを移す。PCテクノロジーをベースとしたデジタル機器に精通し、AV/PCを問わず実用性を追求しながら両者を使い分ける実践派。

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