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10/25から3ヶ月連続リリース

『ゴジラ』4Kブルーレイのこだわりが本気過ぎる。高画質化や特典映像の裏側を関係者に訊く

公開日 2023/10/21 07:00 編集部:松永達矢
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■4Kで美麗に甦るゴジラ作品。一番の難所は『怪獣大戦争』


───以前のインタビューではちょうど『モスラ対ゴジラ』の作業中とのことでしたが、一番画質の追い込みが難しかった作品はどのタイトルになりますでしょうか?

加藤 レストア班では特に『怪獣大戦争』が苦戦しましたね。元々傷が多い作品だったので、技術的にも難しく、時間を要する傷消しの作業に手を掛けました。派手な画も多いので大変でした。


『怪獣大戦争』4K リマスター 4K Ultra HD Blu-ray
小池 オリジナルネガ原版に直接ハサミを入れて1971年にチャンピオンまつり版(『怪獣大戦争 キングギドラ対ゴジラ』)として編集するなど、ネガを酷使する作業が多くて傷が付いてしまったんでしょうね。

小森 使用頻度が多いほど傷が入る確率も上がるので、古い作品であるほどその傾向にあります。『怪獣大戦争』については大きな傷が広い範囲に入っていました。

左側がレストア前のカット。右側が4K UHDソフト用にレストアを施したもの/『怪獣大戦争』 © 1965 TOHO CO., LTD.

■唯一の平成作品『ゴジラVSビオランテ』4Kリマスター秘話


───グレーディング作業の観点で難しかった作品はどのタイトルになりますでしょうか?

山下純氏(以下、山下) グレーディングは、私が『ゴジラ』『怪獣大戦争』『怪獣総進撃』『ゴジラ対ヘドラ』の4作、目良が『モスラ対ゴジラ』『三大怪獣 地球最大の決戦』『ゴジラVS ビオランテ』の3作を担当しています。

自分の担当でいうとやはり、初代『ゴジラ』のグレーディングが手強かったです。以前2Kのリマスターが出ていますが、4Kリマスターに際してイチから作業を実施しています。DVDからBlu-rayというようにメディアが変わるとそれだけでも変化が分かりやすいですが、初代に関しては2Kで1度完成されているので、そこに負けないよう、モノクロの階調表現をより意識して作業に取り組みました。


『怪獣総進撃』4K リマスター 4K Ultra HD Blu-ray
目良卓也氏 自分の担当する『ゴジラVSビオランテ』は、当時の本編撮影監督である加藤雄大さん立ち会いの下で作業を行いました。グレーディング前にプリントを見る機会があったので、それを参考にしつつ、頂いた指示を反映して仕上げていく感じですね。

清水 『ゴジラVSビオランテ』については、以前リリースされたBlu-rayでも加藤雄大さんがテレシネに立ち会っていました。Blu-rayではゴジラの体表が赤み掛かったシーンがあるなど、独特な色味が出ていましたが、今回はプリントに近い色合いに目良が整えてくれています。

小池 大阪ビジネスパークで権藤一佐が、ゴジラに抗核バクテリアを打ち込むシーンですね。

清水 周りが赤いので「このカットも赤くしよう」という演出をBlu-ray用のマスター作成時にされたのだと思います。4Kマスターでは加藤雄大さんの立ち会いの下で、オリジナルに近い画調を再現できています!

───前回取材した際に「ビオランテだけフィルムの種類が異なる」という旨をお伺いしましたが、マスター制作で苦慮されたところはありましたか?

清水 レストア班の方でシャープネスを少し足していますね。おそらく昭和時代よりも感度の上がったフィルムを使っていると推測されるので、フィルムの粒状感が元から多く乗っています。そのザラつきを含めてデジタル化したいと思っていたのですが、見てみると「4Kらしさ」のないザラザラな画質でした。

そこで粒状感を保ちつつ、画の崩れや、変化の有無のさじ加減を見ながらシャープに見えるようなパラメーターをレストア班の加藤に研究してもらってます。

加藤 デグレイン処理をし過ぎるとフィルムの粒状感も薄れてしまいます。カットごとにも適用する数値を変えていくことで、全編に渡って画調を統一できたかなと思います。

左側がレストア前のカット。右側が4K UHDソフト用にレストアを施したもの/『ゴジラVSビオランテ』 © 1989 TOHO CO., LTD.

■7作の内6作品がモノラル音源。4Kリマスターにおける整音工程


───各作品の収録音についてはどのような工程を踏んだのか教えて頂けますか?

森本桂一郎氏(以下、森本) 今回発売されるタイトルの内『ゴジラVSビオランテ』のみがステレオで、その他6作品がモノラル録音作品になっています。モノラルの時代のものは磁気テープ由来の音素材が無く、音ネガからの作業になります。

自分の担当は『ゴジラ』以外の6作品になりまして、作業フローについても『モスラ対ゴジラ』以降の物になりますが、まず音ネガから音専用のスキャナーでデータを取り込みます。映像同様にフィルムへの記録になるので劣化に伴う歪や、傷由来のノイズが生じますが、スキャンニングの時点で改善しました。

音ネガは通常プリントを作成(ポジ反転)することで正しいサウンドが再生されます。サウンド専用スキャナー内では、画像処理によりポジ変換することで理想のプリント像でのサウンドが実現できるので、それにより劣化の進んだ音ネガでも正確なダイナミックレンジが再現可能です。

音ネガに刻まれた波形情報の白と黒がハッキリしていないと音のレンジも狭まったり、全体の音量バランスも変わってきたりしますので、プリントから抜き出すよりも理想的な状態で音情報を抜き出せています。

音のレストアについては、由来によって様々なノイズの出方があるので、対応したツールで除去していくのが基本ですね。

『ゴジラ対ヘドラ』4K リマスター 4K Ultra HD Blu-ray

───音ネガも古い素材になると思いますが、一番修復に苦戦したタイトルはどの作品ですか?

森本 おそらく、自分が担当しなかった第1作『ゴジラ』なんじゃないかなと思います(笑)。その他の作品については「Sondor resonances」という、ネガから直接音を取り出せるスキャナーを使用しているので(『ゴジラ』の4Kマスターは複数のフィルムから1本に編集)、その他6作品については、いずれも差が無くキチンと音を抜き出せています。

清水 フィルムは高温多湿の密閉された空間に置いてしまうと、酢酸臭と共に発生するビネガーシンドロームという劣化に見舞われます。ゴジラ映画のフィルムは本上映後も使用される頻度が高くて風通しをされていたために、同時期に撮影された劇場映画と比較すると状態としては健康になります。ただ、その代わり、映写に掛かる頻度が高い分傷は多いです。そういう点ではスキャナーを通る時の苦労はそんなに無かったんじゃないかなと思いますね。

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