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哲学者と宗教学者がオーディオを語り尽くす

黒崎政男×島田裕巳のオーディオ哲学宗教談義 Season 2「存在とはメンテナンスである」<第1回>

公開日 2018/10/10 06:00 季刊analog編集部
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LP12をバージョンアップしていくと同じ音楽が変わったものに見えてくる

島田裕巳氏(左)と黒崎政男氏(右)

黒崎 えっとですねえ、ざっくりと今回のテーマの概要を言ってしまえば、ですねえ。「物事」、えらそうに言うと「存在」ですが、存在は進歩していくのか、劣化していくのか、あるいは、メンテナンスされて初めてその存在を保つのか、さらには、存在のバージョンアップって何か、という問題群なのですね。

今かけたLPレコードは、ファーストプレス、初版のレコードなのですが、売れるレコードは、何度もプレスし直して再発売されます。そして、再版のレコードだと劣化しているように私には感じられるんです。つまり、最初が一番よくてだんだん劣化する。普通は新しい方がよい、って感じがするじゃあないですか。前回、Season1のテーマは「オーディオは本当に進歩したのか」でしたけど、これだって、初期のヴィンテージが良くて、あとは劣化していくのか、あるいは、最先端がやはり最高である、と考えるかを巡って、対話を重ねてきた。

島田 ヴィンテージにはメンテナンスが不可欠だというのは分かりやすいですが。

黒崎 「存在はメンテナンス」という考えには、大きく分けると、右上がりの「進歩し豊かになっていく」と、右下がり「存在は劣化していく」の2つがあると考えられる。前者だと「バージョンアップ」後者になると、「存在とはメンテナンスである」と、まずは、捉えることになる。

島田 この話の背景として、LP12のバージョンアップ問題があるっていうわけ?

黒崎 そう。ものすごく関係します。今、LP12の最高峰、KLIMAX LP12で聴いていただきましたが、私もベーシックなLP12を中古で手にして、この2年の間に数回バージョンアップしました。電源をLINGOに替えるとこう変わる、さらに、ACモーターからDCモーターに替えると音が変わる。サブシャーシだとこれが聴けるようになる、カートリッジをMMからMCに替える。アームを替えるとこう……って喜びの連続だったんです。

リンのKLIMAX LP12

島田 少し前に、もうこれでいい、ベーシックで十分だって言っていましたよね? 

黒崎 そう。……でしたよね……(笑)

島田・一同 (笑)

黒崎 前にも言いましたけれども、かつて、音楽ってソロ楽器、編成が少なければ少ないほど、私の魂に触れるものだったのです。「無伴奏」というのが私にとっては最重要の深い音楽だった。それが、LP12をバージョンアップするたびに、弦楽四重奏が最高だ、室内楽が最高だって……。

島田 編成が大きくなっていった。

黒崎 昨年、後期ブルックナーの音楽をオーディオで聴いて、何か深い宗教的体験をしたという感じを受けました。ブルックナー、マーラーは同じ後期ロマン派。マーラーが少し後ですが、こじつけるなら、LP12をバージョンアップしていく中で、ついに、ブルックナーをマーラーが超えた、というか。ブルックナーの音楽は、迫りくる、分厚い森のような音が綺麗に見渡せるようになる。マーラーは、さらに、木管楽器のソロのように聴こえていたのが、実は(例えばクラリネットとファゴットの)2つの楽器が重なっていたんだ!とか、個々の楽器まで明確に<見える>のが本当に面白くてたまらない。

島田 どっちが先なの? 機械をバージョンアップしたことでマーラーをもう一度認識したのか? マーラーを聴いて物足りなさを感じたからバージョンアップしたのか?

黒崎 いや〜、やっぱりテクノロジーが先です。バージョンアップするとマーラーが意味深く聴けるようになる。

島田 URIKAは?

黒崎 URIKAというのはLP12に内蔵できるLINNのフォノイコライザーですが、LP12の導入を考えた時から実は入れたかった。自分でアンプを作っていましたから、なるべく信号の初期段階(アームとフォノイコライザー)の結線は、直付けしたい、接点を減らしたい、そしてフォノイコライザーを内蔵してプレーヤーからの出力は600Ωのライン出しになるのが理想だったわけです。

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