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同社のマーケティングディレクターが来日

Bluetoothでの24bit伝送を実現する「Qualcomm aptX HD」。その技術と展望を担当者が語る

公開日 2017/11/09 14:29 鴻池賢三
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かねてからのハイレゾブームを受けて、ワイヤレス音声伝送も高音質化が求められている。中でも身近で利用者が多いBluetoothは、音質向上が喫緊のテーマと言えよう。

Qualcomm Technologies International. Ltd. Director, Product Marketing Jonny McClintock氏

そうした状況下で、最右翼技術のひとつとして注目を集めているのが、Bluetoothの高音質コーデックとして定評を得てきたaptXの“高密度版”とも言える「aptX HD」である。aptX HDが注目を集める理由とは?

今回は、クアルコム社でaptX HD関連のマーケティング・ディレクターを務めるJonny McClintock氏にインタビューを敢行。同技術の系譜や技術的なアドバンテージおよび、現在の市場における立ち位置や状況を伺った。「aptX HD」がもたらす未来のオーディオの姿とは?

30年余りの歴史と他分野にわたる採用実績を持つ「aptX」

「aptX」の名が浸透したのは、ここ数年のBluetooth対応スピーカー、イヤホン、ヘッドホンの台頭が背景にある。限りあるBluetoothのデータ転送レートを考えると、コーデックの出来が音質を大きく左右するのは明らかで、SBCやAACに比べ、「aptXは高音質」という評価を得てきた。そうした経緯もあり、多くのメーカーが製品の特長として「aptX」を掲げ、ロゴを全面に使ってきた。結果、その存在が消費者に知られるようになったと思う。

aptX HDに対応したオーディオテクニカのヘッドホン「ATH-DSR9」とAstell&KernのDAP「AK70 MKII」。aptX HD対応のオーディオ機器は続々と増えている

McClintock氏によると、そもそもaptXはBluetoothに紐付けられたものではなく、音声圧縮コーデックとしてaptXが登場したのは30有余年前。MP3よりも長い歴史を持つという。aptXはイギリス・北アイルランドの首府であるベルファスト市にあるクイーンズ大学 ベルファスト校で誕生し、後にAPT社の技術として、放送業界やプロスタジオのブース間伝送などで広く採用されて行く。

この時点で一般ユーザーである我々はAPT社やaptXについて知る由もなかったわけだが、日本でもほとんどのラジオ放送局などで採用された実績があり、McClintock氏は「日本でも古くから、多くのリスナーがaptXの音を聞いているんですよ」と自信を覗かせた。

aptXの歴史について説明するMcClintock氏。aptXは高音質を実現できる圧縮コーデックとして、放送や音楽制作の場で長く活用されてきた

aptXがエンドユーザーに直接触れたのは、「DTS」フォーマット登場時に遡る。あまり語られることはないが、DTSはaptXを用いたサラウンドフォーマットだったのだ。

ホームシアターファンなら百も承知だろうが、家庭用ソフトとしてDTSが最初に採用されたのは1993年にLD版で発売された名作「ジュラシック・パーク」。デジタル時代のフルディスクリート5.1chフォーマット登場は画期的だったが、DTSによる大幅な音質向上が話題になった。筆者は当時、あるオーディオメーカーで商品企画を担当していて、AVアンプにDTSデコード機能を採用するか否かの検討に関わっていたが、デモンストレーションで空から雨粒が落ちて来るリアルな感覚に驚愕したのは、今でも鮮明に記憶している。aptXの名を知らずとも、ホームシアターファンなら100%、aptXを体感し、恩恵を受けているのだ。

aptXの歴史を示す図。その端緒は80年代まで遡り、以降、放送分野から映像パッケージのマルチch収録に至るまで幅広く採用されてきた

ちなみにaptXはその後、CSR社、そして現在はクアルコム社が買収して技術を引き継いでいるが、開発の拠点は今もなお同技術誕生の地であるベルファストに在り、McClintock氏もAPT社時代から一貫してaptXに関わってきたという。

「聴覚心理を用いない」という、aptXのアドバンテージ

そもそもaptXはなぜ音が良いのか。オーディオファンとしては気になるポイントである。まず、音声圧縮は、データを間引かないロスレス方式と、人間が知覚し辛いとされる成分を間引くロッシー方式の2種類に大別できる。

aptXはMP3などと同様にロッシー方式に分類されるが、MP3などとはコンセプトが異なる。例えばMP3は、人間が知覚できないとされる”音”(大きい音の直後の小さな音や高域など)を間引く「聴覚心理」に基づき、大幅なデータ圧縮を狙っている。

一方のaptXは、PCM由来のADPCM(適応的差分パルス符号変調)をベースとした技術で、聴覚心理は用いず、自然界の音は波形が連続しているという特性に着目し、比較的小さな「差分」を数値化することでデータ量を元のPCMの約1/4に圧縮する。データとして完全な可逆性はないが、音の再現性は極めて高いということだ。

インタビューを行う鴻池氏。実際にaptX HDのデモで音質を体験しつつ話を聞いた

また、ADPCMに対するアドバンテージは、周波数帯域で4分割して独自の信号処理を行う点。低域の波形は穏やかで、高域の波形は急峻であることから、音質をより高品位に保ちつつ高効率なデータ圧縮が可能になる。

ほか、aptXは低遅延もアドバンテージだが、この特性は「聴覚心理」を“利用していない”ことに基づく。聴覚心理を用いて音を間引くには、一定の期間音を分析する必要があり、その工程でコーデック遅延は避けられない。こうした観点からも、aptXは素性の良い技術と言えるだろう。

余談になるが、製品がaptXのロゴを掲示するには、クアルコム社による厳しい認定テストに合格する必要がある。接続性などで品質保証されているのもaptXの特長と言える。つまり、aptXは高音質というだけでなく、購入したユーザーすべてにそのクオリティーが体感できることを約束しているのも頼もしい。

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