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<山本敦のAV進化論 第143回>

2次元大勝利! ソニーのバーチャルアナウンサー「沢村碧」に会ってきた

公開日 2017/08/30 09:30 山本 敦
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「AIのシステムは大別すると『ユーザーの発話を認識して意味内容を理解するところ』『情報をデータベースとマッチングさせるところ』、さらには『キャラクターとして表現するところ』の3つのパートに分かれています。今回のアバターエージェントサービスは最後の“表現をするところ”に対してものすごく開発エネルギーを注いだサービスです。ここで培った要素技術は、今後別のアプリで使えるかもしれないし、見せ方としてもサイネージ以外に色々使える可能性があると考えています。お客様にお披露目した後も、前向きなフィードバックをたくさんいただいていますので、具体的な展開をこれから詰めていく段階と捉えています」(倉田氏)

例えばPlayStation VR用のゲームにバーチャルキャラクターが登場することはあるのだろうか。倉田氏はグループ他社の事業に関わることなのでコメントは控えたいとしながら、「可能性としては有り得ることだし、ソニーとして培ったノウハウを様々なビジネスカテゴリーとスムーズに共有できるよう準備は整えている」と述べている。

筆者はもし、テレビのブラビアシリーズに沢村碧のようなキャラクターが搭載されたら、メインキャスターを務めるニュース番組が見られたり、ときどきインタラクティブに会話しながらおすすめのテレビ番組など情報を伝えてくれて、毎日のテレビ視聴が楽しくなりそうだと妄想を張り巡らせてしまう。倉田氏は「Android TVのプラットフォームであれば、技術的には難しくないだろう」と前向きな展望を語ってくれた。

「今回発表したアバターエージェントサービスのツールは動画を作ることに特化したものです。もしこれを応答システムを持つインタラクティブ型のサイネージにする場合は、ハードウェアとして持っているカメラやマイクと連動したり別途アプリケーションに合わせた作り込みが必要になります。でも実はもうイベントでは画面を縦にしたブラビアにキャラクターを表示してインタラクティブ体験の展示をお見せした実績もあります。そして技術を応用したインタラクティブ系のサービスとしては、既にAndroidアプリの『めざましマネージャー』をイメージに近いかたちで提供していると言えるかもしれません」(倉田氏)

インタビューで何度も話題に上った『めざましマネージャー』は、現在Androidデバイス向けにアニメ『ソードアート・オンライン』のヒロイン・アスナをフィーチャーした「めざましマネージャー アスナ」(CV:戸松遥)、アニメ『アクティヴレイド -機動強襲室第八係-』のバーチャルキャラクター、Likoを再現した「アクチヴィレイド めざましマネージャー Liko」(CV:黒沢ともよ)と、アニメ『冴えない彼女の育てかた』のヒロイン・加藤恵が登場する「一択彼女 加藤恵」(CV:安野希世乃)の3種類のアプリが配信されている。

アニメとのコラボを実現している『めざましマネージャー』

ソニーのアバターエージェントサービスを軸にしたキャラクタービジネスが広がる可能性を担当者はどのようにみているのだろうか。

「Xperia Earは通常版製品の声を寿美菜子さんに担当していただいてますが、他にもキャラクターバリエーションとして“SAO”とコラボして、ヒロイン・アスナの声でコミュニケーションをサポートしてくれる『Xperia Earプラグイン(アスナ)』を展開しています。声優はもちろん戸松遥さんに担当していただきました。同じく“冴えカノ”バージョンも安野希世乃さんのサポートをいただいて実現しています。基本的な音声合成などの仕組みは一緒なので、Xperia Earでの色々なバリエーション展開は可能と考えています。“冴えカノ”バージョンは原作サイドの方々から発話の監修など強力なバックアップをいただきました。ご要望をうかがいながら今後も色々なコラボを形にしたいと思っています」(城井氏)

やさしい声でユーザーとインタラクティブに会話してくれるソニーのAIスピーカーなどはどうだろうか?

SAOや冴えカノといったコンテンツとのコラボなど、色々なケースを考えているとのこと

例えばいま注目されているAIアシスタントを搭載するスマートスピーカーもこのアバターエージェントと非常に相性が良いデバイスではないだろうか。海外でスマートスピーカーがブレイクしても、日本人はシャイなので音声による操作は浸透しないだろうという見方もあるようだが、もし自分の好きなアニメのキャラクターがコンシェルジュになってくれて、インタラクティブに会話を楽しみながら便利な生活をサポートしてくれたら、機械に向かって話しかけてる違和感も瞬時にふっとびそうだ。

もしソニーがそんな“キャラ立ち”の際だったスマートスピーカーを商品化してくれたら大きな話題を呼ぶに違いない。あるいはスピーカーとしての実体がなくても、アニメ『PSYCHO-PASS サイコパス』のヒロイン・常守 朱の部屋で活躍するホログラフのコンシェルジュ“キャンディ”が現実のものになるのであれば、筆者もすぐにでも飛びつきたい。倉田氏、城井氏にインタビューしながら色んな妄想が膨らんできた。

皆に愛される沢村碧を大切に育てていきたい

ただし、アバターエージェントの技術と特定のイメージを持つキャラクターをつなごうとすると、それなりにクリアしなければならない課題もあるという。バーチャルアナウンサー・沢村碧を開発する際にも色々な試行錯誤があったと倉田氏が振り返る。

「沢村碧をお客様に提供するにあたって、彼女の使用ガイドラインを細かく決めなければなりませんでした。例えば、名前を変えてはならないとか、イメージが崩れるようなNGワードを発言させてはいけないとか。メディアに登場する際には、同一時間帯での“裏かぶり”も気をつけていただいたりと、ある意味では現実のタレントと同じ運用面でのルール作りが必要になることが見えてきました」(倉田氏)

倉田氏は「ソニーにとってバーチャルキャラクターをタレントとして展開するのはこれが初めての機会。今後も様々な業界のしきたりをヒアリングしながらガイドラインを整えて、高品位なサービスをパートナーの方々と一緒につくっていきたい」と、“生みの親”として沢村碧を大切に育てていく決意を語った。

ソニーのアバターエージェントサービスは法人向けをうたっているが、個人が使ってはいけないという縛りは特に設けられていない。城井氏は「実際に個人の方々から問い合わせもいただいています。潜在的なニーズはあらゆるところにあると思っていますが、当社としてはしっかりとしたキャラクターマネージメントのルールを一緒にご提供しながら、ひとつひとつをビジネスとして形にできるのか検討しているところです」と、今後はユーザーのターゲットについても視野を広げていく必要があるとしている。

「アバターエージェントサービスの目標の1つには2020年の東京オリンピックがあります。海外から多くの方々が東京に訪れる機会に、皆様に情報を提供するデジタルサイネージの需要が高まると見込んでいます。その時に沢村碧が活躍するのか、あるいはほかの人気キャラクターが誕生したり、もしかすると人とインタラクティブに対話もできるようなサービスになっているかもしれません。私たち開発者も、これからアバターエージェントにはAIスピーカーも含めて様々な可能性があると思っています。今回はエンターテインメントとして表現する方向から第一歩を踏み出しましたが、次から次へと展開していきたいという期待を抱いています」(城井氏)

アニメーションや、洋画の吹き替えを担当してきた歴代の声優が築いてきた文化は日本が世界に誇れるものだと思う。これから世界中で音声UIがブレイクするだろうと言われているが、抑揚のないさばさばとした声で機械とやり取りするだけじゃ、とても味気なくて興味が長続きすると思えない。アバターエージェントをフルに活用したソニーのサービスや製品が、音声UIにおけるキャラクター性という価値観に多くの目が向くきっかけになることを筆者も大いに期待したいと思う。

(山本 敦)

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