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「アナログに迫るデジタル再生」

驚異の100万タップをいかに実現させたのか ー CHORD「Blu MKII」の詳細を開発陣が語る

編集部:小澤貴信

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2017年07月31日
CHORD「Blu MkII」(関連ニュース)は、100万超タップという驚異的な演算処理を用いて、CDデータを705.6kHzへアップサンプリングして再生するCDトランスポートだ。CHORD Electronics社のロバート・ワッツ氏とジョン・フランクス氏が来日した際に本誌に語った、Blu MkIIの開発背景について本記事で紹介したい。

ロバート・ワッツ氏(左)とジョン・フランクス氏(右)

基幹技術「M-Scaler」の起点となったA/Dコンバーター

ーー CDトランスポート「Blu MkII」は、ハイエンドモデルとしてはD/Aコンバーター「DAVE」に続くモデルとなりますが、開発はいつ頃から開始されたのでしょうか。

ロバート・ワッツ氏(以下ワッツ氏) 実はこのBlu MkIIの開発に先行して、2015年頃からA/Dコンバーターの開発を行っています。コードネームは「DAVINA」と言います。「DAVE」は男性の名前ですが、この名前を女性形にするとDAVINAになるのです。

このA/Dコンバーターのために開発されたのが「M-Scaler」です。これはいわゆるサンプリングレート・コンバーターで、“M”は“メガ”を表しています。このM-Scalerによって、Blu MkIIでは1,015,808タップという驚異的な演算数によるアップサンプリングが可能となったのです。

CHORD「Blu MkII」

ーー どのような過程を経て、M-ScalerがCDトランスポート「Blu MkII」に搭載されるに至ったのでしょうか。

ワッツ氏 A/Dコンバーターは開発試作というべきものですが、このM-Scalerでは素晴らしい性能を実現できたので、これをコンシューマー向け製品に投入できないかと考えました。そこで持ち上がったのが、CDトランスポート「Blu」にM-Scalerを投入して、現代に即した形にアップデートできないかというプランでした。

100万タップを実現するという困難なチャレンジ

ワッツ氏 私は以前から、CDのポテンシャルをもっと引き出すことができるはずと考えておりました。そして、M-Scalerによるアップサンプリングを用いればそれは可能になると確信しました。DAVINA用のM-Scalerの技術を流用して、2016年の4月頃にベースとなる基板を起こし、FPGAにアルゴリズムを落とし込みました。

2016年8月の段階で、約50万タップの演算数でBlu MkIIを動かしてみました。Blu MkIIで実現した最終的なタップ数の半分とはいえ、この時点では前例のないタップ数です。タップ数を増やすことがどれほど音質に貢献するかの検証でもあったのですが、その効果は想像以上でした。

ーー 50万タップでタップ数を上げていくことの効果を確認した上で、100万タップという最終的な数字に挑んだわけですね。

ワッツ氏 1980年代、まだ誕生したばかりだったデジタルオーディオに、私は限界を感じました。その頃、もしデジタルオーディオでアナログ相当の音を再現するとしたら、100万タップの演算が必要になるという計算をしていたのです。そして、当時のコンピューターの処理能力では、100万タップという数字は絵空事でした。しかし、Blu MkIIの開発段階で約50万タップの音を聴いて、100万タップを実現すれば、CDに納められた16bitの音楽データを完全な形で再現することができると改めて確信しました。

私たちはBlu MkIIで100万タップという目標にチャレンジすることに決めました。100万タップという演算数は現時点においても巨大なもので、実現には非常な困難を要しました。フィルター設計をもう一度ゼロから行い、メモリーを有効活用できるアルゴリズムを検討してFPGAの最大効率を引き出すことで、はじめて100万タップという演算を実現したのです。

DAVEではあえて実現されなかった100万タップ。ノイズ対策がカギ

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