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【特別企画】ノウハウを注ぎ込んだ2013年フラグシップAVアンプ

パイオニア「SC-LX87」開発者インタビュー ー 進化したクラスDアンプとESS製DACが実現する「驚嘆の音」の舞台裏

公開日 2013/10/17 12:00 インタビュー:山之内 正/構成:ファイル・ウェブ編集部
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山之内氏:世代を重ねて進化したクラスDアンプと、ついに搭載が叶ったESS製DAC。マッチングはどうだったのでしょうか?

平塚氏:試作の段階から素晴らしかったですね。通常、新しいDACは使いこなすのが大変なものですが「もう何もやらなくていいんじゃないか」と思うほど素性が良かったです。ただ、素晴らしい組み合わせであるぶん元ソースのよし悪しがよく分かり、見えて欲しくない部分まで見えるようになってしまいました。「これは逆に大変だ、でも使いこなしたらすごい世界があるのでは」と思いましたね。

山之内氏:違いがちゃんと出てくるということは、アンプ側にもポテンシャルがあったということですよね。

平塚氏:ボトルネック的な枠は、アンプにもまだまだ余裕がありました。そしてDAC側にも、改良するとまだまだ良くなる部分がありました。とにかくものすごい可能性を持っている組み合わせなので、思いつくことは徹底的にやってみようと思いました。


DACチップを取り囲むようにオペアンプを配置することで、デバイスとの距離がほぼ等間隔に。これが音質向上にもつながったという
まずDACですが、専用基板を用意し、DACチップを取り囲むようにオペアンプを配置することで、全てデバイスとほぼ等距離になっています。I/V変換は非常に重要な"キモ”になる部分ですから様々なレイアウトを検討したのですが、等距離配置がいちばん音が良かったですね。こういったところでもパイオニアの「マルチチャンネル・ステレオフォニック・フィロソフィー」が生きたなと思っています。

山之内氏:アンプ側で何か変えないといけない部分はあったのでしょうか?

平塚氏:「ダイレクト エナジー HDアンプ」は、アンプ段の入口までアナログ信号で伝送しています。ボードのなかでアナログ信号を位相比較器にかけてデジタル変換するのですが、ここのクオリティが最終段のスピーカーまで直結するのです。SC-LX86から87になるときは、この変換過程を大きく見直しました。

アナログアンプと比較したデジタルアンプのアドバンテージのひとつに「音の立ち上がりの良さ」があります。我々はローレベルリニアリティと言っていますが、デジタルアンプだと0/1で駆動するので、このリニアリティを確保できるのです。そしてESSを乗せることにより、さらに一歩踏み込んだレベルに到達できました。

山之内氏:ローレベルのリニアリティが変わると、音楽の聞こえ方としてはどう変わるのでしょうか。

平塚氏:たとえばオーケストラのなかでも、楽器の前後関係や、直接音と反射音の関係がより分かるようになります。

山之内氏:つまり、音場がより立体的になるということですね。

平塚氏:はい。空間の表現力がとても良くなったと感じています。


山之内氏:アンプの基板で、目で見て分かる変更点はありますか?

平塚氏:まずはスピーカーリレーでしょうか。リレー回路は音楽信号が通るところですので、音のクオリティに直結します。入手しうるものを全て試して決定しました。これまでのものと大きく違うのは、接点の状態。オン抵抗が低いですし、接触面にも工夫を凝らしています。MOS-FETや位相変換器などの構成や配列はSC-LX86と同じです。ただ、中味のパターニングやパーツなどは結構見直していますね。

回路の検討など、性能面と音質面を両立するためのノウハウを日々積み重ねていっています。また次の製品が出る時も、大きな進化を遂げるはずです。


山田氏:実は私は「SC-LX86」を購入したユーザー。SC-LX85から86に変わったときも大きく進化したと思いましたが、86からSC-LX87への変化も実に飛躍的なものでした。嫉妬を覚えるくらいです。

SC-LX87は、色々な音の情報量がワッと押し寄せるのではなく、それぞれの要素のまま聞こえてきます。たとえば『レ・ミゼラブル』の、群衆のなかでメインキャストたちが歌っているシーン。カメラのパンニングに合わせて定位やレベルが変わっていることまで分かります。クリエイターやサウンドデザイナーの意図がしっかりと伝わってくるのです。これはAVメーカーにとって、とても大切なことだと思っています。

パイオニアが売っているのはAVアンプですが、ソフトに込められたクオリティを忠実に再現し、作品の世界をより深く理解することで得られる「体験」を売っている、とも言えると思っています。SC-LX87を使うと、いままで何度も見た作品に改めて出会うことができるかも知れません。

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