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ガイドラインやロゴ策定で信頼性を高める

AV用途へ拡がるNASへ「DLPA NAS」を新提案 − デジタルライフ推進協会・三阪英一グループ長に聞く

公開日 2012/07/05 11:00 Senka21編集部
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テレビを中心としたデジタルAVビジネスが大きな岐路に立たされている。その突破口として注目されるキーワードのひとつが「ネットワーク」だ。一筋縄とはいかない大きなテーマに、業界が一枚岩とならなければ乗り越えられない難関も少なくない。そのテーマに、PC周辺機器メーカーとして培ってきたノウハウを活かし、ステージアップの推進力として期待されるのが「デジタルライフ推進協会」だ。

今後、問題が徐々に拡大してくることが予想される、外付けハードディスクに録画した番組の救済サービスについて、いち早く企画・提案を行うなど、文字通り、デジタルライフを推進する取り組みを展開している。そして、テレビを基点に、タブレット、スマホ、パソコンなどのシームレス環境に新たなビジネスチャンスを見出そうとする中で、中途半端な位置付けにあった注目商材「NAS」に、このほど「DLPA NAS」という指針の提案を行った。 これまでの活動が見えにくかったデジタルライフ推進協会が、ホームネットワーク・ビジネスをどのように捉え、いかに加速しようとしているのか。同協会の技術仕様をとりまとめる技術ワーキンググループ長を務める三阪英一氏に話を聞く。




一般社団法人 デジタルライフ推進協会
技術ワーキンググループ グループ長
三阪英一氏
((株)デジオン製品企画部部長)

Profile
1966年3月25日生まれ。宮城県仙台市出身。2003年10月(株)デジオン入社。以降、DLNAホームネットワークの標準化活動、関連製品企画に携わる。2009年3月、DLNAへの貢献がBoard of Directorsに認められ表彰を受ける。趣味はいけばな。好きな言葉は「絶対にあきらめない!」




AV用途のNASに安心と信頼を実現

−−− デジタルライフ推進協会(DLPA)は、2010年2月の設立から早2年が経過しました。これまでの活動内容についてお聞かせください。

三阪 DLPAは、私たちの生活を取り巻くデジタル家電機器をエンドユーザーがより楽しく、簡単に使っていただけるような環境に整えていくことを目的に設立した団体です。技術的な運用・仕様・規格は様々にありますが、これらがコンシューマーまで届いていない、理解していただけていないのが実情です。その裾野をより拡げていくために、技術的な仕様をまとめていくのが技術ワーキンググループの活動内容で、普及ワーキンググループとの二本柱で活動を展開しています。今回の「DLPA NAS」の提案については、ガイドラインを策定し、運用を開始するところまで進んでいます。


−−− PC周辺機器としてBtoBからスタートしたNASですが、AV周辺機器としてのコンシューマー市場の浸透度をどのように見ていらっしゃいますか。

三阪 録画用の「USB HDD」は、対応のテレビやレコーダーも増え、普及が進んでいます。しかし、「NAS」はまだまだ馴染みが薄く、ネットワーク設定などの難易度の高さが敷居を高くしていることを改めて認識しなくてはなりません。それを低くしていく努力が、もちろん必要です。


DLPA が目指す「DLPA NAS」は、AV周辺機器としてのNASになります。これまで、「NASを買ったら何ができるのか」「どのNASを買えばいいのか」といった道標が、AV用途においては皆無に近い状態でした。そこへ、「このロゴマークが付いているものを選べば大丈夫ですよ」という環境をつくりたかったのです。すでに、対応のロゴマークが付いた商品を2月から市場へ導入しています。今後、ロゴマークそのものの認知度も高めていきます。

NASは、ストレージとしてビデオレコーダーの一部機能を代替することも可能です。これまでは「テレビの次はレコーダー」という順列がありましたが、そこへも、レコーダーを追い越して食い込んでいくこともできると考えています。録画したコンテンツを使い回す場合には非常に便利ですし、また、DTCP‐IP()に対応しているPCやモバイル機器での再生もできますから、PCよりは小さく、レコーダーよりは安いサーバー機器として、新たな用途を掘り起こすことも可能です。

※IPネットワーク内で、著作権保護技術(DRM)によって保護されたコンテンツを、伝送するための技術規格。主に家庭内LANなどでの映像配信などに利用される。





−−− NASはバッファローとアイ・オー・データ機器の2社を合わせると非常に大きなシェアとなります。両社が足並みを揃えてDLPA NASを訴求することには、大きな意義があります。

三阪 DLPA NASのマークがついたものであれば、ユーザーが期待される機能がすべてカバーされている。そうしたレベルへ、商品の機能とお客様の認知を高めていくことが狙いのひとつとなります。レコーダーからコンテンツをムーブし、配信することは、昔は特定の機種に限られていました。しかし、現在では基本機能として認識されるところまでに拡がって来ています。すなわち、1対1の関係ではなく、多対多の関係にある。それなのに、お客様が商品を選ぶ際に、何の指針も示されていない状態だったのです。このことは、メーカーにとっても、商品を販売・宣伝する立場から無駄があっただろうし、その合理化にもつながると確信しています。

DLPAのロゴマーク


モバイル機器の伸長がネットワークの意義を深化

−−− ロゴマークの浸透に合わせて、売り場でも、わざわざPC周辺機器コーナーに探しにいくのではなく、AV用途のDLPA NASについては、テレビ売り場に常に置いてある状況にしていきたいですね。

三阪 NASはまだ、テレビ売り場やAV売り場に置いていただけていないケースが多いのが実情です。しかし、USB HDDが徐々に浸透していったように、「こんなこともできる」「もっと便利になる」といったお客様目線に立てば、NASやネットワーク機器のルーターが必然になってくると思います。もちろん、導入のハードルをさらに下げていくメーカー側の努力も必要です。

−−− DLPA NASでは、機能別にレベル1〜3まで規定されました。先行して発売されているアイ・オー・データ機器の商品やバッファローが7月上旬に対応予定しているものは、著作権コンテンツの書き出しまで可能な、最上位の「レベル3」になりますが、レベル分けの決定までにはかなり議論があったのでしょうか。

三阪 レベル2と3の機能差はわずかですし、ゆくゆくはすべて「3」になればと思います。また、環境の進化に対応し、今後、レベル4、5へと拡張していく可能性は十分にありますし、すでに検討を行っています。

−−− 今、ネットオーディオ市場が急速に拡がりはじめています。その中で、関連機器とNASとの相性の問題も出てきています。現在はAV機器中心の視点ですが、これらオーディオ機器への対応についてはいかがなのでしょう。

三阪 既にネットワークの仕様として策定された「DLNAのガイドライン」はオプションの塊のようなもので、必須の項目が凄く少ない。それが、こちらの商品ではできるのに、あちらの商品ではできないといった要因になっています。この点は、DLNAでも課題として認識しており、オプション項目をどんどん必須化していくことで、相互接続上の問題を少なくしていく流れにあるようです。現在表出している様々な問題も、そうした動きに伴い、順次解決されていくものと考えています。

−−− しかし、テレビひとつとっても、ネットワークにつながるのにつながっていない。さらに、せっかくつなげられても、結局はあまり利用されていないといった課題がありますね。

三阪 「こんなに便利になりますよ、楽しくなりますよ」という、つながる先を見せた宣伝活動が必要なのですが、一方ではまた、そうしたことが理解され、導入にまつわるハードルを下げられたとしても、果たして、どこの家庭にも出番があるものなのか、という疑問があるのも事実です。しかし、その存在感・可能性をこれから高めていくものとして注目されるのが、スマートフォンやタブレット端末などのモバイル機器の普及です。

たとえば、ベッドやソファで寝ころんで見られるとか、これにより、コンテンツの価値観が大きく変わってきます。視聴スタイルが変化し、多様化していく。それをカバーしてくれる技術のひとつがDLNAというわけです。DLPAでも今年は「モバイル機器との連携」をテーマとして、いろいろ検討を開始しています。今年度中に何らかの成果を示していきたいと思います。


鍵を握るのは消費者目線の徹底

−−− これまでは、個々の商品の価値を伝えていけばよかったのですが、これからは、スタンドアローンでは成立しなくなってきます。そのことをお客様にいかに伝えることができるかですね。

三阪 DLPAという団体だけではもちろん限界はありますが、そういった環境が整ってきたことをお客様に実感いただけるよう、そのための態勢をつくる支援や後押しを、できる限り行っていきたいと思います。

−−− リンク機能の登場を皮切りに、ブランドごとの“つながるワールド”の輪は、AVだけでなく、セキュリティなどへも拡がってきています。その一方で、DLPA NASなどの提案が浸透していくことで、ブランド間に横たわっているハードルを低くすることもできるのではないでしょうか。お客様にとって、デジタルライフの世界観が、より一層身近に感じられるようになると思います。そのための、売り場におけるホームネットワークの取り組みについても、まだ緒に就いたばかりですね。

三阪 昨年くらいから、量販店でも「ホームネットワークコーナー」が見受けられるようになり、力を入れている様子が伺えます。ただ、お客様のお宅に導入するためのセットアップや操作は、これまで以上にハードルの高いテーマになり、それをわかりやすくお客様に伝えることも容易ではないと思います。これからは、スマートフォンやタブレットなど、さらに、売り場の垣根を超えた商品がつながってきます。そこで、お客様がどのようなことを望んでいらっしゃるのか。消費者目線を大切にして、販売店様と一緒になって、新しい売り場づくりを進めていければと思います。

また、DLPAとしてはもちろんですが、バッファロー、アイ・オー・データ機器というメーカー単位でもまた、積極的な提案を行っていかなければならないテーマであると認識しています。

−−− 一層のご活躍が期待されますね。

三阪 私の会社(デジオン)では、メーカー向けのソフトウェア開発を行っていますが、最近は自社製品のみならず、他社製品との接続性も求められるようになっています。特に、「スカパー!HD」や「ひかりTV」などのキャリア系サービスとの接続性を求める製品の需要が高まってきました。

何かを提供するにあたり、ホームネットワークが前提条件になってきている。そこには必ず相手があり、しかも、その相手がどんどん拡がっています。しかし、そうしたプロセスを経たものでないと、これからはユーザーの心に届く商品にはならないのではないかと思います。

一ソフトウェアベンダーとして見れば、それはコストアップの要因にしか過ぎないのですが、DLPA NASのように集約することができれば、延いては、参加している会社のコスト削減にもつなげることができると思います。

−−− 突破口を切り拓くためにも、今の延長線上では通用しないということですね。

三阪 業界をあげて、お客様目線での魅力あるものづくり、魅力ある売り場づくりを行っていかなければなりません。そうした地盤があってはじめて、DLPA NASといった商品の魅力も啓発していくことができると考えています。

−−− “モノ志向”から“コト志向”への転換がよく指摘されますが、お客様にとっては“コト”を実現できればいいわけですから、その前提となるホームネットワーク環境も、いわば“黒子”のような存在で構わないわけです。しかし、商品や売り場、家庭のデジタルライフが大きな変化に直面している今、DLPAとしても黒子に徹するだけではなく、伝えるべきことはもっと声高に伝えていくことが、お客様が豊かな生活を実現するためにも、また、市場を活性化するためにも必要なことだと思います。

三阪 今回の「DLPA NAS」についても、肝心なことは、それをどのようにお客様や家電メーカー様、販売店様に対してコミュニケーションをとり、啓発を進めていけるかだと考えています。それがきちんとできるスキームの構築を、DLPAのこれからの課題のひとつとして認識しています。

−−− 「あっ、DLPA NASのロゴマークがついているから、これなら安心だね」という会話が売り場から聞こえてくる環境づくりですね。

三阪 その通りです。DLPAの活動そのものに広く共感いただけるよう、メーカー様、販売店様と一緒になって、頑張っていきたいと思います。

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