HOME > インタビュー > 第13回:松木恒秀さんが語る「ピットイン」との長くて深い関係 <後編>

【連載】PIT INNその歴史とミュージシャンたち

第13回:松木恒秀さんが語る「ピットイン」との長くて深い関係 <後編>

公開日 2010/08/31 09:18 インタビューと文・田中伊佐資
  • Twitter
  • FaceBook
  • LINE
誰かをサポートしている方が性に合っていると思う
一生黒子がいいと。リーダー作がないのはそのため


バンドとは別に、とにかくリズムがゴキゲンなものをやりたいと思って
山下達郎と一緒にやっていた



山下達郎の「六本木ピットイン」のライヴ盤「IT’S A POPPIN’TIME」では、松木恒秀さんが、気持ちよさそうにバックでギターを弾いてガンガン弾いている
佐藤:人気バンドでしたからね、それはとても残念でした。それで「六本木ピットイン」は、フュージョンはもちろんのこと、ソウル、ラテン、ブルースなど4ビート以外のインスト系音楽はぜんぶカバーしようと思っていたわけだけど、ここで何でもプレイできちゃう松木さんとばっちりリンクするわけです。松木さんのホームグランドになった。坂本龍一、山下達郎、吉田美奈子と一緒にやっていた。

松木:知り合ったきっかけがあるんですよ。ルネ・シマールという歌手が74年の「第3回東京音楽祭」で優勝したんです。アルファでレコードを作るというのでスタジオに行ったら、コーラスが3人いた。それがまだ無名だった達郎と美奈子と大貫妙子だった。後に、松木バンドで「六本木」に出ていた頃「よかったら遊びにおいで」と言ったらやって来て歌ってもらったりした。そういう縁から、達郎たちの初期のアルバムは松木バンドがバッキングしてます。

佐藤:達郎の「六本木ピットイン」のライヴ『IT ’S A POPPIN ’TIME』は松木さんがバリバリ弾いてますね。そうかと思えば、渡辺貞夫さんや日野皓正さん、ジョージ大塚さんのバンドでも活躍していた。ありとあらゆるところに出没していたね。もちろん自分のバンドでも演奏していたし。
松木 ザ・プレイヤーズとは別に、自分の好きなことをやりたかったというのもありましてね。

佐藤:好きなことというのは?

松木:とにかくリズムがゴキゲンなのをやりたいということです。

佐藤:リズムね。となるとドラムは誰?

松木:最初は田中清司や村上 ”ポンタ“秀一の頃もあった。ポンタはうちに居候していたことがあったんですよ。石川晶さんが「面倒見てやってくれ」と連れてきた。彼によると「そんなことは言っていない」らしいけど(笑)。その後は、ザ・プレイヤーズから付き合いのある渡嘉敷祐一で、現在までかれこれ30年以上一緒にやってますね。

佐藤:そしてベースが岡沢章さん。彼とは稲垣次郎さんのソウルメディア時代からだから、親交は最も長い。みんなとは完全に一心同体ですね。

松木:もうずいぶん昔になりますけど、あるシンガーから松木さんのバンドでツアーしたいというのでオーケーしたら、別のドラマーをなんの断りもなしに入れていましてね。それでは自分のバンドではなくなるので降りたことがありました。

佐藤:松木さんはスジを一本通すからね。

松木:何事も二言があっちゃまずいでしょ。

佐藤:職人気質というのかな。

松木:どうですかねえ。まあ、ただその一件もあって、自分のバンドで活動するよりも誰かをサポートしている方が自分は性に合っているなと思ったんですね。一生黒子がいい。リーダー作がないのもそういうことなんですよ。

1991年12月19日に移転前の新宿ピットイン。一時閉店のための特別イベントでステージに立つ松木さん

六本木ピットインではゲストとして竹内まりやも出演。もちろんバックでギターを弾くのは松木さん


ゲストとして登場した山下達郎のバックでギターを弾く松木恒秀さん。これも六本木ピットインのステージ

良武さんから声をかけてもらって今のWhat is HIP?が誕生
同じメンバーで18年間続いている


佐藤:「ピットイン」にはしばらく出なかった時期があったよね。

松木:そうです。そしたらある日「いま何やってんだ」と良武さんから電話がかかってきた。会ったら「バンドやりなさいよ、『ピットイン』を練習場に使っていいから」と力添えしてくれた。それでいまのバンド、What is HIP?ができた。

佐藤:松木さんは「ピットイン」にとっても大事な人だから、放っておくわけにはいかなかったんですよ。そのメンバーが岡沢章、渡嘉敷祐一、野力奏一に松木さんね。


2009年8月17日に行われた新宿ピットインでのWhat is HIP?のライブステージでの松木さん。秀逸なギター演奏が観客を魅了していた。新宿ピットインでステージに立つのは年に6回のみだ
松木:岡沢、渡嘉敷はずっと一緒にやっていた。野力については「いいなあ、こんなピアニストいないなあ」と思っていて、彼から「リズムのいいバンドやりましょうよ」と持ちかけられていたから、すんなり決まった。

佐藤:初めてバンドを披露したのが91年1月の「六本木ピットイン」です。当初バンド名はただのHIPだった。

松木:What is HIP?になったのは92年10月。

佐藤:松木さんはリズムを刻ませたら世界一です。日本一とかのレベルじゃなくてね。ライヴ活動してもらわないともったいない。

松木:ありがとうございます。それにしても良武さんからバンドやれと言われてうれしかったなあ。

佐藤:あれからもう18年にもなるんだね。ここまで続くとは思った?

松木:ええ、この4人でずっと続けたいとは思った。このバンドは、きっちりこのメンバーなんです。誰かが代わりに入るとか、別の楽器が加わるとか一切ない。そういう要望があったときは、What is HIP?という名前を降ろします。

佐藤:やっぱり一徹だね、松木さん。それにこれほど有名なアルバムにたくさん参加しているのに、控えめだよね。

松木:自分はトップになるタイプではない。そういうのが持ち分として心得ています。

佐藤:それを徹底しているから、余計に存在感が増しているんだよ。弾きまくるギタリストはたくさんいるけどね。ところで今後はどんな活動をしていくのかな。

松木:このまんまだろうね。自分がゴキゲンになれるWhat is HIP?でしか仕事をしない。


今は「ピットイン」で年6回ライヴを実施
バンドはライヴが命なので録音はしない。CD作るとしたら良武さんへの1枚だけ


佐藤:でも「ピットイン」で年6回のライヴだけでしょ。隔月というのもね(笑)。

松木:いいペースですよ。

佐藤:いまこの絶好調のときに「ピットイン」のライヴ盤は作りたいけどね。前々からお願いしているけど、やっぱりまったく気乗りがしないのかな?

松木:レコードを出したからなんなの、というのがあるんだよね。バンドはライヴが命だし、過去の作品を振り返るのが好きでないんだよね。小学生だった頃の自分の写真を、誰かが大事に持っているというのはイヤなもんだよ。

佐藤:でも、録るだけ録っておこうよ。

松木:良武さんだけにプレゼントする目的ならやりますよ。作るのは1枚だけ。その時は「マイ・ワン・アンド・オンリー・ラヴ」を弾きますよ。誰もやったことがないようなアプローチをする。

佐藤:いや、これはまいった。ありがたいなあ。「ピットイン」を40年以上やっていた甲斐があったねえ。

写真:君嶋寛慶


「analog」の購入はこちらから




松木恒秀さん Tsunehide Mtsuki(ギタリスト)


1948年8月8日東京生まれ。1963年、渋谷宮益坂サイトウ楽器にてギター購入、アマチュアバンドのほか、幾つかのバンドに参加。その後、1968年に稲垣次郎ビッグソウルメディアに加わり新宿PIT INNに初出演。佐藤允彦、益田幹夫、村上 寛らと経験を積み、鈴木宏昌とコルゲン・バンド(後にプレイヤーズ)に加わった。以後、日野皓正、ジョージ大塚マラカイボ、渡辺貞夫バンドなどに参加しながら、同時平行して自己の松木バンドで活動を行う。また数々のライブセッションや山下達郎、竹内まりや、吉田美奈子、トゥーツ・シールマンス等、数々のレコーディングのスタジオレコーディングに参加するなど活動の幅を広げていった。また、ナンシー・ウィルソン、阿川泰子、伊藤君子など多くの歌手と共演。TV「今夜は最高」にレギュラー出演し、タモリ、渡辺貞夫らのレコーディングにでも活躍した。その他、作編曲、プロデュースの他、岡沢章、和田アキラ、他数多くの才能を発掘し、近年では、2004年〜2008年にソニージャズレーベルの高田みちこのCD制作にスーパーバイザーとして加わり、「What is HIP?」でレコーディング。現在、岡沢章、渡嘉敷祐一、野力奏一、松木恒秀の4人によるバンド「What is HIP?」は、原点でもある新宿PIT INNで年6回のライブを行っている。

ホームページアドレス http://www.t-matsuki.com/

前へ 1 2

この記事をシェアする

  • Twitter
  • FaceBook
  • LINE

トピック: