新製品批評
Phile-web >> 製品批評 >>伝統と革新−マランツ「SA-11S1」「PM-11S1」徹底レポート

SA-11S1(上)とPM-11S1(下)。いずれもフロントパネルは3ピース構成で、マランツのアイデンティティーであるブルーのイルミネーションが柔らかに本体を照らす

マランツ社のハイグレードコンポーネントは1992年以来、同一デザインをとり続けてきた。ニューモデルSA-11S1/PM-11S1の開発に伴い、新たに導入されたニュープレミアムデザインは、12年ぶりの改新となる。この新デザインは幾多の試行から決定され、そのテーマは“マランツを意識させるデザイン”というものである。インテグレーテッドアンプではフロントパネルの中央にシンボリックに配置された円形ウィンドウのメーター、ブルーの光で演出されたフロントパネルなどが特徴となる。アンプのベーシックなイメージは往年の銘機Model 9に通じ、フロントパネルの両翼を縦に貫く半円形の溝にブルーLEDの光が反射し独特の雰囲気を演出している。ピュアオーディオプレーヤーとしては、同社初のセンターメカニズム配置のシンメトリカルなフロントパネルビューとなり、薄いトレーと角形の表示部が精悍な印象を与える。両モデルともフロントパネルはアルミ無垢材の3ピース構造で、内部シャーシと一体化が図られ再生音の品位向上にも貢献している。

 

PM-11S1の基本特性を支える独自の技術に“HDAM SA2モジュール”と電子制御による“高性能リニアコントロールボリューム”がある。以前より同社のアンプ部にはアナログ回路の主要箇所にHDAMと呼ばれるモジュールが採用されているが、本機では無利得でバッファー専用のHDAM SA2を開発、ほとんどのステージに採用されるが、このモジュールはSC-7S1で開発されたモジュールの小型版である。HDAM SA2による入力バッファーの採用は信号系の低インピーダンス化を徹底させ、忠実度を高めることに効果をあげている。

PM-11S1の背面端子部。RCAライン入出力の他、バランス入力やプリアウトも装備。また電流帰還型回路を搭載した高品位フォノアンプを搭載し、MM/MC両方に対応している。左にはF.C.B.S(フローティング・コントロール・バス・システム)入出力端子と切り替えスイッチが用意される。これは最大4台までのPM-11S1を高速双方向通信によりシンクロコントロールする機能で、コンプリートバイアンプやマルチチャンネルなどにフレキシブルに対応する
PM-11S1の内部。右側にプリアンプ部とボリューム部が配置される。SC-7S1のコンセプトを踏襲し、全ての入力に対して専用の入力アンプを搭載。また、バランス入力には新開発のHDAM SA2を駆使した電流帰還方式のバッファーアンプを搭載している。やや右よりの中央部にはパワーバッファーアンプ部が配置されている。パワーアンプはボルテージアンプ/パワーバッファーアンプの2アンプ構成で、ボルテージアンプ部はプリアンプ前寄りに配置されている。


プリアンプ部の基板と新型ボリューム基板。HDAM SA2を採用したバッファーアンプや新しい高性能リニアコントロールボリュームがPM-11S1の高い特性を支えるキーパーツである

また、主要なアンプ部ではフォノEQに至るまで電流帰還回路を採用しハイスピード化を図っている。リニアコントロールボリュームはSC-7S1で開発された画期的な音量調整機能で、驚異的なチャンネルセパレーション特性実現の一つの要素ともなり、また本機の構成面での特徴となる、理想的なレイアウトを実現する決め手でもある。可変範囲は0〜-100dBを±0。5dBでカバーする高精度タイプである。パワー部の定格出力は100W×2(8Ω)/200W×2(4Ω)でPM-14SAV2と同じだが、瞬時に供給できる電流は倍以上と飛躍的に向上している。MA-9S1の設計コンセプトを踏襲、パワー段の電圧増幅度を12.5 dB と低く抑え、スピーカーからの逆起電力の影響を抑えている。プリアンプ部に電力を供給する電源部には、ソリッドステートアンプでは珍しいチョークインプット型の平滑回路を採用、15000μF×2の電解コンデンサーやショットキーダイオードの採用により、高周波雑音の低減に効果をあげている。チョークコイルを電源トランスと同一ケースに組み込む独自の構成にも注目したい。全入力系にHDAM SA2のバッファーアンプを採用し、バランス入力アンプ、電流帰還方式のMM/MC対応のフォノイコライザーアンプ、4台までのPM-11S1を高速双方向でシステム制御し、コンプリートバイアンプやマルチチャンネルにも対応できるFCBSの採用など、まさに充実した内容である。

 

SA-11S1は、センターメカニズム配置が好バランスの再生音と洗練されたデザインを生み出している。ディスクドライブメカニズムのローダーや機構・読み取り系はD&M社の共通部品だが、駆動エンジンに独自の設計を施す。天板共振防止用アルミ削り出しスタビライザーと銅プレート脚など、機械的な配慮が光る。復調部のDACには、NPC社製のモノラルチップSM-5866ASを採用している。このチップは、CDとSACD再生でクロックが異なる点など扱いが難しいが、シンプルな構成が独特の運用法を可能とする逸品であるためにあえて採用し、CDとSACD専用の±5ppmの高精度クロックで駆動されている。

SA-11S1の背面端子部。アナログ出力はRCAとXLRを各1系統装備。またデジタル出力は同軸と光を各1系統といたってシンプルな構成である。アナログ出力にはI/V変換後のLPF回路にはディスクリート構成のHDAM回路、さらに出力回路には電流帰還型HDAM回路を採用し、徹底した低インピーダンス、ローノイズ化を実現している
SA-11S1の内部。オーディオ専用プレーヤーとして初になるセンターメカニズムを採用。左側にはメイン基盤を配置する
SA-11S1のメカモジュールは空間再現性の向上に重点をおいたマランツ自社開発のもの。メカ上面にスタビライザーを装着するタイプとなっていて、さらに剛性をアップしている


本機のCDパートは、本来16ビットであるCDの信号をDSP処理により24ビットの演算と8倍オーバーサンプリング処理、その後24ビット精度相当のDACにより復調、3タイプのデジタルフィルター選択機能を装備する。後段のローパスフィルターによる位相回転をキャンセルする独自のPEC回路も内蔵する。SACDはDAC内蔵型のフィルターに拠るDSDのFIRを採用、ダイレクト出力を含む3段階のフィルター選択が可能。もちろん、I/V変換、ローパスフィルター、アナログ出力などに専用の各種HDAM回路が使われている。

プリメインアンプPM-11S1の開発に携わり、今回の取材で解説をしてくれた日本マランツ(株) オーディオ企画開発グループ HiFi開発チームの更科泰弘さん
SACDプレーヤーSA-11S1の開発に携わり、説明をしてくれた日本マランツ(株) オーディオ企画グループ、OPT企画技術部 マネージャーの小椰哲也さん