違いのわかる大人のためのカーオーディオ。ボルボ・XC90とB&Wが奏でる豊かなハーモニー
派手さは一切ないものの、触れると分かる上質さ。触れる度に思わず「違いのわかる人の……」というCMのコピーが口を紡いでしまうのがボルボというクルマだ。
違いのわかる人には、ボルボの音も上質であることがわかるだろう。なぜならB&Wが手掛けているのだから。今回はボルボのフラグシップSUVに搭載されているカーエンターテインメントシステムを紹介する。
プレミアムブランドと手を組み上質なサウンドを届ける
Bowers & Wilkins(B&W)のカーオーディオを採用する車種は、筆者が知る限りBMWの上位モデル、アストン・マーティン、マクラーレン、そしてボルボと、そのグループ傘下であるポールスターの5ブランドに留まる。ハーマン・カードンやBOSEに比べると、その数はとても少ない。
だが連ねた名からわかるように、これらのモデルは全てプレミアムブランドだ。いかなる部分において、価格に似合う高いクオリティを求める「違いのわかる人」の手に渡るがゆえに、手を抜くことは許されない。
残念ながら筆者はアストン・マーティンとマクラーレンに触れる機会はなくわからないが、BMWのカーオーディオシステムの音は、カーオーディオの分野でもB&Wはリファレンスであることを想わせる、実にハイレゾリューションでクールな音触だったことを覚えている。
本稿で紹介するB&Wシステムは、総出力1410Wの15チャンネルパワーアンプと19スピーカーからなる「Bowers & Wilkins ハイフィデリティ・オーディオシステム」(45万円)というメーカーオプション。このオプションはボルボの60シリーズと90シリーズという上位モデルにのみ用意されるようだ。ちなみに標準ではハーマン・カードンのシステムを搭載する。
19基のスピーカーで空間を満たす
車内に入ると、シンプル・イズ・ベストを地で行くスカンジナビアデザインのインテリアに心が躍る。最近のドイツ車で見かける派手な電飾もなく、パッと見た感じ素っ気なく思うだろう。
中央には大型のインフォテインメントシステムのタッチパネルを配置。システムはGoogleの手によるもの。今では他社でもGoogleを搭載し、エアコン操作やナビの目的地入力が音声でできる車両が増えてきたが、ボルボはかなり初期から手を組んでいたようで使い勝手はかなり良好。スマホに慣れている人なら、直感的に使えるだろう。
フロントドア、リアドアともに3ウェイ構成。どちらも貼り合わせガラスが採用され、車内はかなり静粛だ。さらにXC90 Ultra T8 AWDはPHEV(プラグインハイブリッド)であるため、アイドリング状態にしなくても音楽が愉しめる。もちろんバッテリー残量によっては、エンジンを駆動せずとも走行可能だ。
トゥイーター口径は25mm。ノーチラスダブルドームトゥイーターとアナウンスされており、その詳細は不明。ただし見た感じアルミドーム型のようで、BMWのダイアモンドトゥイーターと差別化がなされている。
ミッドレンジはコンティニュアムコーンで、100mm口径が3基、80mmを4基搭載する。ドアに取り付けられているのは80mmだろう。トゥイーター、ミッドレンジともにステンレス材による保護ネットが設けられている。
では100mmミッドレンジはどこにあるのか、と捜してみたところ、リアの荷室側天井に2つと、ダッシュボード上のオントップトゥイーターの近くにある模様。
ドアのウーファーは前後ともに170mm。振動板素材などは一切不明だが、普通の車載用ユニットに比べると、少し大きいように感じた。
サブウーファーは250mmで、どうやらリアラゲッジに置かれている模様。どこにあるのか捜したのだが、こちらも見出すことは難しかった。
イェーテボリの有名コンサートホールのモードも
サウンド設定はシンプルで、バランス(左右)とフェーダー(前後)の調整を一体化したかのようなフォーカスと3バンドのトーンコントロール、そして9バンドのイコライザーのみ。他社に比べたら調整箇所は少ないように思えるが、これだけあれば十分な気もする。
サウンドモードはスタジオのほか、サラウンド、屋内ホール、ジャズクラブを用意。サウンドプロセッシングにはハーマン・インターナショナルの車両向け音響技術であるQuantumLogic SurroundやVehicle Noise Compensation Technologyが用いられているとのこと。
ユニークなのは屋内ホールモードが「イェーテボリ・コンサートホール」、ジャズクラブモードが「ネフェルティティ(Nefertiti)ジャズクラス」という、どちらもスウェーデンの有名スポットの音響をシミュレーションしているところ。
イェーテボリ・コンサートホールに行ったこともなければ、「ムジークフェラインザールで収録したウィーンフィルの音に、イェーテボリ・コンサートホールの音響をシミュレーションしたら、いったいどのホールの音になるんだ?」といった疑問を抱かなくもないが、面白い機能とコダワリを感じさせる。
丁寧かつ優しいリファレンスの音
それではボルボXC90 Ultra T8 AWDとB&Wが奏でるハーモニーに耳を傾けることにしよう。
ハイレゾ音源を入れたUSBメモリーを車両と接続したが認識しなかったため、試聴はソニーのDAPであるNW-A300シリーズを用い、XC90 Ultra T8 AWDとBluetooth接続で行った。
まずはスタジオモードにして、マイケル・ジャクソンのスタジオアルバム『デンジャラス』から「ヒール・ザ・ワールド」を選択。イントロで流れるピアノとストリングスの描き方がとても丁寧かつ優しい。B&Wらしいリファレンス系の音だ。だがBMWが搭載するそれと違うのは、暖色系の音色ということ。マイケル・ジャクソンが想う優しい世界と協調し、室内に穏やかな空気が流れる。
英国のマルチプレイヤー、ジェイコブ・コリアーの「シー・プット・サンシャイン」は、車両そのもののS/Nの高さが印象的。それによりハイレゾリューションでハイスピードなサウンドがより活き、作りこまれた音世界の魅力をリスナーに伝えてくれる。強烈な低域を混濁感少なく再現できるのは、車両そのものが剛体であることと、ウーファー(とサブウーファー)ユニットの出来がよいからだろう。
驚いたのは2列目(後席)での音の良さだ。定位感もよさもさることながら、リアドアも3ウェイにしたことによるバランスの良さが活きている。XC90 Ultra T8 AWDは3列シートSUVなので、3列目も聴いた。さすがに狭いうえに、スピーカーが天井のミッドレンジのみであること、そしてサブウーファーに近いことから、高域が足りない印象を受けたものの、音場はしっかりと表現していたことに感心した。
香港フィルハーモニック管弦楽団による「メタバース・シンフォニー」で、サラウンドモードを試した。天井面にスピーカーを配置していないため、ドルビー・アトモス対応車種のようなエアー感は薄いものの、自然な響きで聴き応えがある。他社のサラウンドモードとは少し異なる表現方法に面白さを覚えた。
いっぽうジャズクラブというサラウンドモードは、楽曲を選ぶようだ。というのも残響時間がポップス系にとっては長く、クラシック系にしては短めである上、周波数特性もカマボコ型のバランス感が強まるからだ。
既出のマイケル・ジャクソンやジェイコブ・コリア―のような作りこまれた録音よりも、THE FIRST TAKE版の中島美嘉「雪の華」のようなシンプルな構成が合致するように思う。演奏を聴きながら、白いスタジオではなく、スモーキーでオトナの雰囲気が漂うクラブで歌う姿が浮かんだ。
冒頭に書いた通り、ボルボは明確な個性を打ち出している自動車メーカーではない。だが触れるにつれ良さがわかってくる。言い換えるなら「飽きづらい」クルマだ。それが同社の哲学であり、それゆえB&Wのシステムを選んだ理由でもあるように思う。この両者に触れながら、真の意味での大人の余裕を感じた。
