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【連続企画】新世代ブランド「VanCryst」解剖 − AVとPCを融合するプロダクトの原点に迫る

公開日 2011/04/18 13:38 海上 忍
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【目次】
第1回(4月中旬掲載):「VanCryst」ブランド紹介編
第2回(5月中旬掲載):「VanCryst」製品ハンドリング
第3回(6月中旬掲載):「VanCryst」エンジニアに聞く


かつてスティーブ・ジョブズは、家庭に多数あるデジタル機器の中核たる「デジタルハブ」の必要性を説いた。そして、PCだけでなくAV機器も同時にハンドリングできる高クオリティハブの必要性が、いま高まっている。VanCryst製品が実現する、AV+PC融合製品のバックボーンを紹介することにしよう。

AVとPCを自由自在に
つなぐ「VanCryst」


AV分野にデジタル技術が進出して久しい。CDに始まりDVD、Blu-rayと、現在では媒体のほぼ全てがデジタル。機器間をつなぐケーブルもデジタル化が進み、いまやテレビとビデオをつなぐ手段はHDMIがスタンダードだ。

AVフィールドにおいてはPCの存在感も増している。たとえば、ポータブルオーディオは一度PCに取り込んだ音源を転送して聴くことが一般的。USBオーディオのように、PCの周辺機器としてのみ存在しうるAV機器も登場した。PCで録画した番組をテレビで視る、という使い方も珍しくない。

かつてAppleのスティーブ・ジョブズは、Macの進むべき道として、家庭に多数あるデジタル機器の中核たる「デジタルハブ」を掲げた。その後、Macに限らず家庭向けPC全体がその方向へ舵を切ったことに異論はないだろう。

どの家庭でもPCがデジタルハブ化したかというと、答えは否だが、ハブ=集線機器の必要性が増していることは確かだ。USB機器が普及した結果、PCではUSBハブが必須アイテムとなったように、AV機器においてもハブが必要とされるに違いない。特に、PCとの映像/音声データ転送にも用いられるHDMIは、今後急速にハブの需要が高まると予想される。

AVアンプも映像機器用ハブとして機能するが、ハブ専用機とは製品コンセプトが大きく異なる。HDMIパススルーに対応したAVアンプも発売されているが、ハブとしての機能のみ注目した場合、待機時の消費電力量は多めで設置スペースもかさむ。ハブの機能のみ期待するには高価格、という事情もある。

今回紹介するATEN(エイテン)の「VanCryst(ヴァンクリスト)」シリーズは、デジタルビデオ機器にターゲットした製品群だ。HDMIおよびDVIに対応した映像分配器(スプリッター)や延長器(リピーター)、切替器(スイッチャー)を得意とし、SOHOやホームシアターなど個人ユーザーから、医療関連や電子看板(デジタルサイネージ)など法人マーケットまで、幅広い分野に活用できるハイエンド指向の製品を開発している。


HDMI延長器「VE800」
1080pのHDMI信号を最大40mまで延長できる延長器。親子間はカテゴリ5eまたはカテゴリ6対応のLANケーブルを使用
HDMI分配器「VS0108H」
一度に8系統の分配して出力できる分配器(スプリッター)。ホームシアター用途以外にも教育現場などでの活用例も多い
マトリックス型HDMI分配器「VM0404H」
最大4入力/4出力まで対応したマトリックスタイプのHDMI分配器。PC系機器とAV機器のハブとして有効に機能する


このATEN社、KVMスイッチの分野で世界トップクラスのシェアを握る企業でもある。一組のキーボードとビデオ、マウスのセットを使い複数のコンピュータを操作するこの装置は、遠隔地からサーバーを管理するときなどに利用されるが、その性質上トラブルは許されず、安定性と信頼性がものをいう。そこで培ったノウハウをデジタル分野に、映像分配器などデジタルビデオ機器向け製品に投入した成果がVanCrystシリーズだともいえる。

汎用チップだけに頼らずに
カスタム品を自前で製造


台湾に本拠を構えるATEN社は1979年設立、2003年台湾証券取引所に上場を果たした。KVMスイッチの分野におけるリーディングカンパニーであり、ここ日本や中国、米国、英国など6カ国に販売現地法人を置く、従業員数1,600名以上を数えるグローバル企業だ。

製品は、アナログKVMスイッチを中心とした「ATEN」と、エンタープライズ向けデジタルKVM製品群を擁する「ALTUSEN(オルトセン)」、そしてハイエンド向けデジタルビデオ製品から成る「VanCryst」という、3つのブランドのもと展開される。

ATEN社の企業風土は、製品に搭載されるASICからも見てとれる。ASICは、特定用途のために設計されたカスタムチップであり、設計/製造にはノウハウも開発費もかかる。コスト意識を優先させれば、ここに汎用品を採用するところだが、ATEN社はあくまでASICの社内開発にこだわる。開発拠点を台湾と中国、カナダの3カ所に置き、特許を数多く取得していることは、その証明ともいえるだろう。

KVMスイッチの分野におけるリーディングカンパニーが「ATEN」。本拠地は台湾で設立は1979年

独自機能と高信頼性、ハイコストパフォーマンスを実現する、ATEN社開発のASIC

PCとAV機器がデジタル信号のもとシームレスに、かつパラレルにつながる時代を迎え、我々消費者にもパラダイムシフトが求められる。AV機器はAVメーカーのもの、PC周辺機器はPCメーカーのもの、という考え方は過去の遺物だ。HDMIはその一例で、全メーカーがデジタルという平等なフィールドで切磋琢磨できる余地がある。

だから、ATEN社がデジタルビデオ領域を切り拓こうとするのは自然な成り行きといえる。潜在的な需要があるはずのHDMIハブ/スイッチャーという機器は、機器を切り替える間、疑似信号を送るなどして接続を維持するための仕掛けが必要となるため、KVMスイッチの分野で培ったアドバンテージも生かせる。AV機器的視点よりPC周辺機器的視点が重要な意味を持つ製品分野であれば、なおさらだ。

AV機器とPC機器を取り結ぶVanCryst製品。フルHDクオリティの映像とPCプレゼンデータを同時に分配することも可能


一方、ノイズや減衰への対策など、AV機器メーカーはクオリティに対する細かい配慮で消費者の支持を集めてきた。PCのフィールドで獲得したノウハウはその安心感をも凌駕できるのか、その点については実際に試してみないことにはわからない。次号では、ATEN社の「VanCryst」製品をハンドリングする予定だ。

【取材協力】写真左よりATENジャパン(株)の企画部長の栗田正人氏、チャネル営業課の中山雅晴氏、取締役営業本部長の辻智之氏

【執筆者紹介】
海上 忍 Shinobu Unakami
ITジャーナリスト・コラムニスト。コンピューターテクノロジー方面全般での豊富な執筆経験を持ち、Mac OS XやLinux、デジタル家電関連の著作多数。

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