HOME > ニュース > JASRAC、包括徴収契約の最高裁判決を受け会見。「非常に残念な判決」

「大量のお金をもらっていたら利権なのか」

JASRAC、包括徴収契約の最高裁判決を受け会見。「非常に残念な判決」

2015/05/08 編集部:小野佳希
  • Twitter
  • FaceBook
  • LINE
日本音楽著作権協会(JASRAC)は、テレビやラジオでの音楽使用における放送事業者との包括徴収契約に関する裁判について、公正取引委員会による上告が最高裁から棄却されたこと(関連ニュース)を受けて記者会見を開催。理事長の菅原瑞夫氏が説明に立ち、「一言で言えば非常に残念な判決だったと思っている」などとコメントした。

JASRAC本部ビル

同裁判は、包括徴収契約について公取委が独占禁止法に抵触するのではないかと指摘し、JASRACに立入検査を行ったことに端を発するもの。公取委はその後、JASRACに対して「排除措置命令」を出したが、JASRACが審判請求し、改めて審判を行った結果、その排除命令を公取委が取り消していた。

そして、この「排除措置命令の取り消し」に対して、イーライセンスが「取り消しを取り消す」ことを求めて裁判所に提訴。この訴えを高等裁判所が認め、「排除命令の取り消しを取り消す」よう判決を出し、これを不服として公取委が最高裁に上告。この上告が棄却され、高裁判決が確定した。「包括徴収契約は独占禁止法違反に当たらない」とした公取委の判断が裁判によって否定された格好で、今後は、包括契約が独禁法違反かどうかが公取委で改めて審判されることになる。

なお、裁判自体はイーライセンスが原告、公取委が被告であり、JASRAC自体は訴えられていない。あくまでも「JASRACに対する公取委の判断が正しいかどうか」を争っていたことになる。今後、改めて公取委で審判がやり直されることに対して菅原氏は「今時点では振り出しに戻ったということ。審判の場で実情、状況を明らかにしていきながら議論していくことが必要だと思っている」とした。

JASRAC 菅原理事長

また、菅原氏は「音楽著作権の管理事業は、一般的な商取引とは少々異なる特性がある」とコメント。「(公取委での)審判の場では、そうしたことも含めて充分に議論した上で審決をいただいたと思っているが、今回の最高裁判決では、そのような理解が見当たらなかった点が残念に思う理由のひとつだ」と語る。

公取委との一連のやりとりについて、「包括徴収契約が独禁法違反かどうかは別として、懸念があるとの指摘があったわけなので、そこをどう解消していくのかは検討して対処してきた」とコメント。「放送現場の実情などを説明して、どうすればいいのかを協議してきたが、結論に至る前に排除措置命令が出た」と説明した。

そして、それと並行する形で、放送事業者とも協議。「NHK、民放連、衛星放送協会なども含めて、我々が著作権管理をしている楽曲の利用割合、いわば放送に対する貢献度といった視点での方策をとろうという協定は締結している」と説明するが、「番組の放送時間も違うし、そこで使用される楽曲数も利用時間もバラバラという放送実態からすると、具体的にどうしていくのかはなかなかすぐに取り掛かれない。そこはまだ具体的方策の協議を続けている」とした。

また、NHK、民放連、放送に関わる音楽著作権管理事業者3者による5社協議を行っていることも紹介。この協議では「具体的な使用割合や金額を話しあうと独禁法の問題があるため、例えば(放送中に使用された楽曲の)利用割合などの算出方法を考えるときに各管理事業者によって基準が異なると放送局側も困るので、言わば事務的なモノサシをどう統一していくかを協議している」という。

なお、包括徴収契約が他事業者の参入を妨害しているとの指摘について菅原氏は「音楽著作権の管理業務においては、まず最初に作詞作曲者などの権利者がいて、その一方で利用者(放送局など)がいるという両面性がある。権利者からどれだけ楽曲の権利をお預かりできるかが競争の部分であり、一般的な商取引の競争とは性格が異なる」とコメント。

あわせて、常務理事の北田暢也氏は「国際的に観ると、ほとんどの国が単一の団体が著作権を集中管理していて、利用者はその団体に許諾を得れば楽曲を使えるというのが効率的で便利だと考えられている」と世界的な状況も紹介。

JASRAC 北田理事

また、「著作権等管理事業法の設立趣旨としては、競争原理を導入しようという目的ではなく、委託者(権利保持者)に選択の幅を持たせようというものだ」とコメント。「参入したい事業者を排除しないようにして権利者が委託先を選択できるようにし、その結果、最終的に単一の団体になるか、複数の団体になるかということ」だとし、「管理事業法、集中管理の趣旨を考えると必ずしも(著作権管理事業は)競争原理とはそぐわない面があるのではないか」と続けた。

そして菅原氏は「放送に利用された楽曲管理については、シンプルに言えば、全使用楽曲が特定できることが大切。そのために、2001年からはNHK、民放連に対して全曲報告をお願いし、さらに、デジタル的なやり方でという取り組みを進めてきた。現在、放送局では9割超くらいが電子的な報告をもらっている」と紹介。

「JASRACが率(利用割合)を算出するとなると、他事業者の管理楽曲が使われた時にどうするか。この部分はJASRACは把握できない。こうした点をクリアするための第一歩として、全曲報告を求めて、だいぶ実現はできてきている。それらをふまえて、5者協議での実務的なものさし作りなどを進めていきたい」と述べた。

そのほか、出席したメディアからは「世間一般のなかには『JASRACが利権を独占している』という認識を持っている人もいるかと思うが、この点についてどう捉えているか」といった質問も。

これに対し菅原氏は「お金を大量に集めているという結果からなのか、確かに色々と言われている。ただ、基本的には(権利者から)お預かりした権利の行使ということ。そうして集積した金額を権利者に分配している」と回答。「個別のケースの情報を開示するのは個人情報などの問題もあるので難しいが、JASRACトータルでは財務諸表も公開している」と、理解を得られるよう情報公開を進めていることを紹介し、「大量のお金を徴収していることだけをもって利権といえるのだろうか」とコメントした。

そして「音楽を利用したい側からすると、できるだけ窓口が少ないほうが便利。著作隣接権も含めて一か所でライセンスがとれるほうがいいだろう。そのことと、複数事業者があった場合の独禁法上の競争ということでの兼ね合いをどうするのかが問題なのかと思う」とした。

この記事をシェアする

  • Twitter
  • FaceBook
  • LINE

トピック