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日本コロムビアロングインタビュー

<特別インタビュー>“音”から見るアイドルマスターの新たな魅力

岩井 喬
2014年12月26日
「アイドルマスター」という作品に登場する音楽は、作曲家やエンジニア、ディレクター、プロデューサー、キャストなどなど、実にさまざまな人達によって作り上げられている。それぞれに共通するのは、自身が作品を愛し、理解しているひとりのファンとして、より良い作品にしたいという想いを限りなく込めていることだ。そうして意見を出し合い、昇華し、キャラクターや作品の世界ができあがり、「アイドルマスター」になっていく。本項では「アイドルマスター」、「アイドルマスター シンデレラガールズ」の音楽作品をディレクションする日本コロムビア(株)の柏谷氏と、作品のレコーディングに携わるエンジニアの野田氏にお話をうかがった。アイドルマスターの音楽は、どのようにして生まれ、そして“音”においてはどのようなこだわりのもと制作されているのだろうか?

−− まず、アイドルマスターに登場する多くの音楽は、どのようにして作られていくのでしょうか?

柏谷: ゲーム用として作られたり使われる曲もあるので、バンダイナムコさんと一緒に話し合いながらやっていますね。最近の作品ではレコーディング時のエンジニアを野田さんにやって頂いています。

野田: 最近と言っても結構長いですよ。7年くらいはやらせてもらっています(笑)

日本コロムビア(株)A&C本部コロムビアハウスアニメ・ビジネスユニット プロデューサー 柏谷智浩氏(写真左)/(株)エムアイティギャザリング エンジニア 野田隆之氏(写真右)

柏谷: そうだっけ(笑)取り組みとして面白いのは、普通は作家さんの方もビジネスとして取り組まれることが多いのですが、バンダイナムコさんは社内の方が作家をやっていらっしゃるので、ビジネスの枠を超えて向き合われるケースが多いです。そこが一般的に作家さんにお願いするパターンとは違うかもしれません。また、ゲーム用に作られるものと、初めからCDやアニメ用に作られる楽曲があります。ファンの方からゲームで使われた曲のフルサイズを聴きたい、という要望と共に、新曲を聴きたいという声も多いです。シンデレラガールズに関しても、アニメが始まるので、いまどんどん作っている最中です(笑)既存曲も人気のある良い曲が多いですが、アニメ新曲は、その使用シーンの演出に合わせて作っていっています。

−− アイドルマスターならではの制作上のポイントはありますか?

柏谷: 10人以上で歌う曲がありますが、そこでキャラクター性の出し方が難しいですね。他のキャラクターの声や楽曲と調和させつつ、それぞれが個性を出さないといけない。ソロミックスのCDを出した時に、キャラクターが出ている必要もあります。

野田: 逆にひとりのキャラクターがその曲を歌う、というだけならいいんですが、それを全員で合わせるとなると難しいんです。キャラクターによって程よい音符の長さ、というのがあるんです。けれど合わせる時に音符の長さが変わってしまうとバラバラになってしまうので、そこも気をつける必要があるんですよ。

−− さまざまな楽曲がありますが、録音の際の苦労はありますか?

野田: 生楽器の収録に関しては、歌がメインと考えていますので、なるべく歌の帯域を邪魔しないように配慮しています。また、レコーディングの時にオーダーがあることがあります。例えば、ちょっと豪華にして下さい、といった形ですね。そういう時はマイクの立て方を考えてみたり、本数を増やしてミックスの際にバランスを取りやすくしたり、といった工夫をしますね。


柏谷: 生楽器があると絶対に良いというわけではなく、入れることで良くなる曲は入れる、というスタンスでやっています。あと、ゲームで使われる前提で考えている部分はありますね。ドラムスを生で録音すると、リズムゲームで使われた場合、生こその揺れやズレを修正する必要がでるケースもあります。またCD用の場合は大体5分以内にまとまるのが一般的ですが、作家さんがもっと長い方が良くなると考えれば6〜7分で作られることもあります。アイマスの音楽チームはアイドルマスターが大好きなので、世界観なども理解されていて、それに沿った楽曲を作っていらっしゃいますし、2分程度のゲームでの使用尺も考えた上で作る事もあります。

−− 音質に対して、より良くするための取り組みはありますか?

野田: マイクプリはヴィンテージのものを使うと、情報量が限られてしまうことが多いように思います。最近の機材の方が、情報量という面では優れているかなと。実際、48kHz/24bitでは見えなかったアラが、96kHz/24bitだと分かってしまうことがあるんです。録音されている音が、音楽的であればそれでもいいことは多々あるのですが、なるべく録音してからミックスまでの間にこだわるより、元々の録った音の良さが重要だと思います。

柏谷: 2013年にベスト盤を出した時ですが、それをリマスターする時に、かなり前の曲ならともかく、機材的にはそれほど変わっていない1〜2年前の曲の音をどういう風にするかをマスタリングエンジニアと詰めました。結果として、アイドマスターという作品と共に音楽が確立していったこともあり、昔より“音の聴こえ”を変えようということになったんです。リスナーの方も良い機器を使うようになってきたので、それに対してしっかり聴いていただけるように。解像度の部分で言うと、当時に良かれと思って制作していたものが、いまの感覚とは違うことがあります。

劇場版の曲はBDオーディオ同梱で出したのですが、このBDオーディオの音のアプローチは評判が良かったんですよ。これはどんな環境でも聴けるようにしたマスタリングというより、良い機器で音楽を聴くことに集中する環境を想定したんです。音圧がある方が迫力が出て派手に聴こえるので、それは残しつつ解像度を確保する、このバランスが難しいです。聴かれる方の環境の変化も考えて制作をしています。

−− オーディオに関するお話があれば、ぜひお聞かせ願います。

柏谷: そうですね、制作時には、あえて低価格帯のヘッドフォンを使って確認しています。あまり良くないモデルでは低音が割れてしまうこともありますが、それも確認できるようにですね。また、いわゆるドンシャリ型のヘッドフォンでも確認することが多いです。それで割れてしまったら困りますし、そういうモデルを使っているリスナーが比較的多いと思いますので。個人的にデノン(AH-D1000)が好きなんですけど、アイマスの音楽チームにもデノン好きが多いですね。

野田: ぜひ、お好みの環境で聴いてもらえれば、とは思います。ただ、できる事なら、僕達も空気を介して聴いた音をもとにバランスを取っていますので、スピーカーで聴いてもらえると、伝えたいものに近づくかな、と。空気感の話としては、この間ヘッドフォンの密閉タイプを聴きにいったんです。そうしたら、空気感がこもらないように色をつけているものが多いように感じてしまって。オープン型の方が好みに感じますね。ゼンハイザーのHD800が良かったんですが、少し高くて(笑) あと、解像度が高いものより、ある程度デフォルメされたモデルの方が聴きやすさはあるかと思います。

柏谷: アニソンを聴いている方は微かな息遣いまで聴きたい方も多いですから、解像度優先という選び方もあると思います。キャストさんは本当に細かい部分にまでキャラクターらしさを出しているんです。そういったニュアンスは良い機器の方が感じやすいですね。

−− ハイレゾという形式については、どうお考えですか?


野田: 48kHz/24bitに比べて96kHz/24bitは高音が綺麗に聴こえる傾向にあると思うので、マイクはなるべく高音域に癖が無いものを選ぶようにしていますね。倍音を綺麗に録りたいので、ノイマンのU-67やU-47TUBEなど真空管マイクを使ったり。ただ、歌の場合は機材の特性でキャラクターの良い部分が薄れてしまわないように気をつけています。

柏谷: ミックスの時に96kHz/24bitだと作業が難しいことがあるのですが、最近は設備が整ってきて、ようやく始められた形ですね。アイドルマスターの場合は、歌が作品の大きなファクターになるじゃないですか。だからできるだけ良い音で、マスター音源を残しておきたいんです。ただ、やっぱり人数が多い曲だとトラック数が大変なことになったりして、作業が困難になります。マシンパワーが追いつかない(笑) トラック数が少なく、弦楽四重奏のみの『初恋組曲』は96kHz/32bitで録っていますね。歌モノも、いずれハイレゾ用にマスタリングした上で出すかもしれません。ただ、どういう形でファンにお届けするのがベストなのかは簡単には決まらないと考えています。

先ほどちょっと話ましたが、アイドルマスターの音楽をBDオーディオに収録してみたりもしました。アニメファンであれば、BDプレーヤーからの再生で、ハイレゾや5.1chサラウンドも聴くことのできる方は多いんじゃないか、という考えもありました。これもCDとは別の聴こえ方になるので、同じ曲でも違う楽しみ方ができる。ミックスも、いまのアイドルマスターの感覚にしているので、昔といまでは違うというのもあります。元々トラックが多い曲であった場合に、5.1chであれば拾い上げることができる音が出てくる、というのもあります。大人数の曲だからこそ、サラウンド環境が活きるというアプローチです。

−− 今後の展望についてはいかがですか?

柏谷: バンダイナムコさんやアニプレックスさんと話し合いをしながらですね。ただ、『アイドルマスター』という音の共通性を持たせつつ765プロとシンデレラガールズは違うように作り上げているので、音の面でも作品自体がどんどん広がって、良い意味で特徴となって出ているんだと思います。

野田: レコーディングの際には、その特徴を最大限に活かすことを考えたいです。それを感じ取ってもらえる環境が整ってきているということは、プレッシャーでもありながら、嬉しいことですから。

−− ありがとうございました。


【お詫び】
本記事は「アニソンオーディオVol.2」の60〜61ページにて掲載されておりますインタビュー記事に誤植がございましたため、訂正記事として掲載させていただきます。皆様にご迷惑をお掛けしましたこと、謹んでお詫び申し上げます。


(アニソンオーディオ編集部)