試聴・文/藤岡 誠 Makoto Fujioka

B&Wの「Signature Diamond」は2ウェイスピーカーシステム。実物を見れば、従来のスピーカーシステムの形態に対するイメージが揺さぶられる。それは写真からも理解出来るだろう。昨年のインターナショナルオーディオショウでデビューし、独創的な形態とケレン味のない音質、音調で大きな話題を提供した。それは現在も続いている。高価な製品だし、世界限定1,000ペア(各色500ペア)の生産という条件付きだが、オーディオファンのみならず音楽ファンも注目する逸品である。

具体的な内容については既に紹介されているのでここでは省略するが、採用されたユニットやキャビネットの内部構造、そしてクロスオーバーネットワークのチューニングと使用部材などには、B&Wが築き上げた様々な技術とノウハウが集約されている。

このスピーカーの音質・音調については、これまで様々なシーンで聴いているが、すべて微妙、あるいは大きく印象が異なる。つまりSignature Diamondは、反応が鋭敏なゆえ、組み合わせるアンプによって音の表情が変化する。もちろん、聴く部屋の音響条件も無視することはできないが、音質・音調にこだわるならアンプとの相性に注目する必要がある。

そうは言っても、普遍的な音の傾向はある。高音域は繊細かつ穏やかでワイドバンド、中音域周辺は巧みなクロスオーバーの処理によって、2ウェイ方式のデメリットをかなりカバーしている。低音域はウーファー口径やキャビネット内容積から想像する以上の量感がある。全体的に、万人が心地良く好きな音楽を楽しめる音質と音調を実現していると言うことが出来る。

加えていえば、ピンポイント的な音像イメージと、広く自然な音場空間の表現が卓越している。微小レベルでのバランスの崩れがないことも大きな魅力である。

そこで今回は、日米欧の有名メーカー3社のセパレートアンプを組み合わせ、Signature Diamondがどのように聴こえるかをチェックすることにした。使用する3種類はゴールドムンド(スイス)、アキュフェーズ(日本)、エアー(アメリカ)である。ゴールドムンドを除けばそれぞれのブランドの最高級モデル、もしくは準じるモデルだ。Signature Diamondの格調からいえば相応しい組み合わせと言えよう。

レファレンスとしたプレーヤーはマランツSA-7S1。インターコネクトはサエク「SL-4000」(RCAアンバランス)、スピーカーケーブルはスープラの「SWORD」でシングルワイヤリング。聴く音楽ジャンルは多岐に渡るが、大半はクラシックである。それでは以下、価格順に聴いていくことにしよう。

周知の通り、ゴールドムンドのセパレートアンプは上を見たら途方もない。そこで編集側の配慮が働き、同社の製品の中では比較的リーズナブルなモデルが選択された。具体的にはプリアンプが「MIMESIS 27.3L」、パワーアンプが「TELOS 150L」だ。

プリアンプ「MIMESIS 27.3L」¥1,029,000(税込) パワーアンプ「TELOS 150L」¥819,000(税込)

雑味の一切を排除し、何を聴いてもどこまでもナイーブなサウンド。ソプラノやバリトンを聴くと自然な声に感心させられる。また、伴奏ピアノとの溶け込みも素晴らしい。この音域には軽薄さはまったくなく、声の肉質感とピアノの滑らかさにうっとりしてしまう。コーラスの全体的バランスも申し分がないのだ。その一方、オーケストラやジャズ系は、低音域がソフトで高音域方向も穏やかに感じられ、何となく引いた印象を持った。流麗な音調だが、どちらかというと“静的"な聴こえ方である。低音域方向の制動力や高音域方向のエナジーが抑え気味で、Signature Diamondとは合わないような気がする。

ただし、中音域周辺のふくよかさは良質で独特な雰囲気があり、聴感覚に徹底的に優しい聴こえ方は、この組み合わせの素性の良さの証明であろう。

アキュフェーズの組み合わせはプリアンプ「C-2810」+パワーアンプ「P-7100」だ。現在、同社の試聴室のモニタースピーカーシステムがB&Wということも微妙に関係しているのかも知れないが、Signature Diamondとの相性は、今回の3種類のセパレートアンプ中で一番だと思った。

プリアンプ「C-2810」¥1,207,500(税込) パワーアンプ「P-7100」¥1,155,000(税込)

エナジーバランスが見事に整っていて、聴こえもフラットレスポンス。スピーカー側のソフト気味な低音域方向を強力な制動力と駆動力で制御し、高音域方向はエナジーを伴いながら、ダイヤモンド・ドーム・ユニットを繊細にドライブしている。中音域周辺も屈託なくストレートな印象。これによって全体として開放感が音楽ジャンルを問わず感じられるのだ。分解能、透明度といった項目にも優れており、ダイナミズムがある。もしかするとこれはSignature Diamondの設計者の意図する音質、音調ではないかも知れないが、たとえそうだとしても、実際にこの組み合わせで聴けば、一つの方向性として必ず納得するだろう。大音量時でも破綻はまったく感じられない。

当初の計画では新しいフラッグシップモデルのKX-R+MX-Rだったが、組み合わせ価格が600万円超となり、やや高価すぎるため、プリアンプ「K-1xe」とパワーアンプ「V-1xe」のコンビで聴くことになった。それでも今回の中で最高価格である。

プリアンプ「K-1xe」¥1,522,500(税込) パワーアンプ「V-1xe」¥1,942,500(税込)

一聴して高密度感があり、声や様々な楽器の音像が明るくシャープに結ばれる。Signature Diamondのクロスオーバー(3.8kHz)周辺も明確となり、2ウェイの弱点を補完している。

低音域方向は強力な制動力を発揮し曖昧さがまったくない。高音域方向はストレートで繊細かつ伸張しており音場空間が自然。これらによってステージ・イメージがリアルになる。少し気になったのは音圧を上昇させた時のピークマージン。ハンドベルや大太鼓のピークの伸びが抑えられ気味になった。制動力は広帯域に渡って強力だが、駆動力とは一致しないということになる。もちろん、小・中出力時では気にならない。S/N感は最高水準であるだけに、この点での相性はうまくマッチングしているとはいえない。しかし、この組み合わせでのリアルなステージ・イメージは素晴らしく、艶やかな音調もまた魅力的である。

藤岡 誠 Makoto Fujioka

大学在学中からオーディオ専門誌への執筆をはじめ、40年近い執筆歴を持つ大ベテラン。低周波から高周波まで、管球アンプからデジタルまで、まさに博覧強記。海外のオーディオショーに毎年足を運び、最新情報をいち早く集めるオーディオ界の「百科事典」的存在である。歯に衣を着せず、見識あふれる評論に多くの支持者を得ている。アマチュア無線を長年の趣味としており、極めて若いコールサインを持っているのが自慢。