試聴・文/山之内 正 Tadashi Yamanouchi

これまでSignature Diamondを試聴する際はハイエンドクラスのセパレートアンプと組み合わせてきた。スピーカーの価格を考慮してのことだが、大口径ウーファーを積む大型スピーカーならともかく、Signature Diamondはシンプルな2ウェイ構成なので、プリメインアンプと組み合わせてもそのパフォーマンスを十分引き出せるのではないか。それを確かめるために、今回はマランツとクラッセのプリメインアンプを用意し、実際にSignature Diamondを鳴らしてみることにした。セパレートアンプとの組み合わせに比べるとサイズがコンパクトで、設置スペースがスリムになるメリットも見逃せない。
今回は2つのブランドのCDプレーヤー、プリメインアンプを用意し、Signature Diamondと組み合わせた。

クラッセは同社の最新の技術力を結集したプリメインアンプCAP-2100を選んだ。この製品はプリアンプCP-500とパワーアンプCA-2100を一つにまとめた新製品であり、クラッセのエントリークラスに位置付けられる。プレーヤーは同社のCDP-202を組み合わせ、こちらの再生系ではCDを試聴する。

左がプレーヤーの「CDP-202」、右がプリメインアンプの「CAP-2100」

マランツは最上位モデルのPM-11S1ではなくミドルクラスのPM-13S1をあえて選択し、ソース機器はSACD再生にも対応したSA-13S1をつなぐ。2モデルとも上級機のノウハウを投入した本格派の製品だけに試聴が楽しみである。

左がプリメインアンプ「PM-13S1」、右がSACDプレーヤーの「SA-13S1」

まずクラッセのCDP-202とCAP-2100の組み合わせを聴く。美しい曲線を描くクラッセのデザインと今回試聴したミニマリストホワイトは視覚的にも違和感なく溶け込んで実に美しい。
試聴中の筆者。プリメインアンプでもSignature Diamondの魅力を引き出すことができた、と感心しきり

この組み合わせで聴く、高音域の輝かしさと透明感が微妙なバランスで融合したピアノの音色に惹かれない人はいないだろう。その澄んだ響きは周囲の空気を一変させるような静謐さがあり、左手の低音域が刻むリズムには曖昧さが一切感じられない。エレーヌ・グリモーの演奏に内在する運動感を引き出しながら、過剰な力感やダイナミクスで縁取ることはなく、あくまで上質なタッチをキープしていることが印象的だ。オーケストラは弦楽器のセパレーションの良さと粒立ちの美しさが際立っている。

ジェーン・モンハイトは高音域のなめらかな質感とニュアンスの豊かさが聴き手をとらえて離さない。パーカッションに余計なアクセントがつかないのは音の立ち上がりが速いためで、サックスのリアルなサウンドを軽いタッチでサポートする。

クラシックギターはナイロン弦特有の柔らかさと低音域の温かい響きが耳に心地よく浸透し、Signature Diamondの歪みの少なさに気付かせてくれた。倍音領域まで素直に再現しているからこそ、音色の広がりがここまで豊かに伝わってくるのである。

ヘンデルの『メサイア』では言葉の発音の美しさに耳を傾けたい。音を取り巻くS/Nの良さが際立っているためだと思うが、言葉を一つ発するごとに空気がフワリと動く感覚が新鮮だ。独唱から合唱に主役が移ってもその明瞭さに変わりはなく、空間の見通しも澄み渡っている。

ここでアンプとプレーヤーをマランツに交換し、同じソースを聴く。ベートーヴェンのピアノ協奏曲『皇帝』は深い低音の響きを支えにして明るく芯のあるピアノが伸び伸びと歌い、この演奏にそなわる疾走感がまっすぐに伝わってきた。ミドルクラスのプリメインアンプで鳴らしているにも関わらず、スケール感や低域の安定感に不満をいだく瞬間はまったくない。むしろ力のみなぎった充実感や低弦の実体感など、セパレートアンプを彷彿とさせる瞬間があり、大いに驚かされたのである。

ジェーン・モンハイトがホーン楽器をしたがえて歌う曲では、そのダイナミックなエネルギーの噴出にまたもや驚嘆することになる。テナーサックスの太い低音域や息の勢いがここまで熱気を帯びて鳴るというのは正直言って意外だったのだが、このスピーカーにそなわる忠実度の高さがストレートに現れてきたと考えれば納得がいく。

クラシックギターはアルペジオの音の連なりがなめらかにつながると同時に勢いに満ちていて、音が小さいと言われるこの楽器の意外なダイナミクスの大きさを思い知らせてくれる。演奏のスケールの大きさやテクスチャの豊かさを引き出すという意味でも、プリメインアンプで鳴らしていることを忘れさせてくるようなゆとりを実感することができた。

Signature Diamondはハイエンドのセパレートアンプでなければ十分に鳴らせないのではないかという心配が少しだけ残っていたのだが、今回の試聴でその懸念はすっかり消失したといっていい。特に、プレーヤーと合わせても50万円というお手頃価格の13S1シリーズがここまで力のある表現を引き出すとは予想していなかった。今回の組み合わせでは、コンパクトでしかも高性能という、ハイエンドオーディオの一つの理想形に一歩近付くことができたと思う。

山之内 正 Tadashi Yamanouchi

横浜市出身。東京都立大学理学部卒。在学時は原子物理学を専攻する。出版社勤務を経て、音楽の勉強のためドイツで1年間過ごす。帰国後より、デジタルAVやホームシアター分野の専門誌を中心に執筆。趣味の枠を越えてクラシック音楽の知識も深く、その視点はオーディオ機器の評論にも反映されている。