試聴・文/福田雅光 Masamitsu Fukuda

Signature Diamond は、B&Wの最近のデザイン、構造とは異なる斬新な形態が注目される、ハイエンドランクに提案されたシンプルな2ウェイ構成である。このモデルは、B&Wのエンジニア、そして世界的に有名な工業デザイナーの二人が、40周年を迎え何の制約も受けないで、作りたいスピーカーを作ろうということが出発点になっている。お互いに描いている理想を具体化したという興味深いモデルだ。

それにしてもユニークなデザインである。デザイナーは英国を代表する工業デザイナー、ケネス・グランジ卿。これまでにB&Wではオリジナルノーチラス、マトリックスシリーズを手がけてきた。今年で78歳になる。再生される音とスピーカーデザインからイメージするものとが一致するものにしたいと考えている。

一方、設計エンジニアの描いたスピーカーは、2ウェイ構成がベストという持論であった。このために開発されたウーファーは18cm口径。振動板にケブラーを使うためには、これが強度とのマッチングで最大口径となるからだ。トゥイーターにはトップモデルで採用されているダイヤモンド・ドーム型が導入された。固定するカバーにはイタリア製の天然大理石を切削加工。高剛性、無共振化を満たす豪華な素材である。

デザインを手掛けた、英国を代表する工業デザイナー、ケネス・グランジ卿 B&Wの音を管理する設計エンジニア、ジョン・ディブ博士

試聴してみると、中高域から高域はピュアに澄みきり繊細で低歪、冴えた音で洗練されている。解像度の高さは中低域にもあり、一貫した特徴となっている。音場空間が広く静寂に静まり、教会録音のアルバムでは天井の高さ方向まで再現するような広さがある。こうした表現力は、主に高域特性の優れた帯域の広さやS/Nの高い性能が背景にある。これは素晴らしい特徴だ。中域から超高域の特性は最も難しい帯域である。B&Wが開発したダイヤモンド・ドームの真価が、このモデルで最大に発揮されていた。すでに搭載されている高級機に比べ、高域のクオリティはさらに向上している。S/N、トランジェント、繊細な解像度、帯域特性。倍音スペクトラムの再生は見事な性能である。

フォーカスという定位を表現する性能も極めて明確である。ボーカル系では中央にはっきり集中するような傾向が現れる。この部分が一般にわかりやすいが、左右間に点在する楽器の位置関係などを現す定位も含め、この要素はスピーカーの位相特性が帯域内で一定していることが必要だ。

遠近感という表現がある。スピーカーから再生される音場の中に、楽器の前後の位置関係を感じることのできる聴こえ方である。この再現力も素晴らしい魅力であった。こうした要素を感じるには、ワンポイントマイクによるクラシックの室内楽系のアルバムがわかりやすい。空間の広い再現力や遠近感の得られる再現力は、基本的な表現力にプラスされた性能になるが、ピュアステレオの再生においては高度な性能のひとつになり、一種のバロメーターともいえるだろう。

低音のエネルギー、分解力、全体のトーンバランス、クオリティは、前提となる重要な要素であるが、ダイナミックな表現力の一方で、高級スピーカーでクラシック音楽を主体に楽しむ課題に対して、静寂性といったS/N感、高音の繊細な情報として含まれている楽器の倍音成分の再現力など、微小レベルで含まれている音の再生力も高精度に要求されるようになる。

高音は音楽の幅広いジャンルで大切なニュアンスの情報として重要であるが、高域、超高域へ伸びる信号への再現性を高めるには、トゥイーターユニットに高度な性能が必要である。強調、濁り、くもりのない特性であることだが、現在の優秀機では高純度でトランジェントに優れ高解像度、広帯域が得られる製品が多くなり、中でもSignature Diamondは圧倒的に優れた特性を聴くことができる。Signature Diamondは、解像度を重視し写実性を基調にしたオーソドックスなバランスの中に、高純度に研ぎ澄まされた音を表現する、洗練された表現力を備えたスピーカーである。

中低域、低域についてもコンスタントな特性でバランスされた厚みがあり、透明度が高く、引き締まるダンピングを備え、低音楽器の陰影を明確に表現してリアルな分解力が得られる。38cmの大口径ウーファーに比べれば、エネルギー密度、重厚さは及ばない印象も当然あるが、優れたトランジェントで、中間帯域、高域特性にバランスした性能の高い低域であり、このサイズの口径としては文句のない特性が備わっている。各種のプログラムを試聴して「何の制約も受けずに理想のスピーカーを追求する」という目標が、音楽再生の技術を追求するB&Wの姿勢を実感させ素晴らしい完成度をみせる。

Signature Diamondの音質は、高純度で鋭敏、明晰で、瞬発力に優れたワイドレンジという印象を受けた。そして精度の高い表現によるシンプルなスピーカーであり、ピュアなステレオ再生の魅力を高度に引き出すスピーカーである。

福田雅光 Masamitsu Fukuda

東京三鷹生まれ。大学では電子工学系を専攻した後、報道関係の技術部門に携わる。サラリーマン生活中の1970年から「電波科学」にてオーディオアンプの製作などを執筆。1976年「季刊・オーディオアクセサリー」の創刊に参加。アクセサリーを重視したオーディオシステムの構築、という本誌のコンセプトの確立に大きな影響を与えた。また、オーディオケーブルの重要性に早い段階から注目。検証をベースにした厳しい視点が、読者との信頼関係を結ぶ絆になるというのがポリシー。