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Phile-web >> 製品批評 >>MARANTZビデオプロジェクター VP-12S4

 
MARANTZ「VP-12S4」\1,260,000(税込)
映画表現に定評のあるVP-12シリーズの第4世代機。映像表示デバイス、レンズ、ビデオプロセッサーなど主要構成部品を全て更新し、単板式DLPプロジェクターの頂点を目指す。ビデオプロセッサーGF9350の搭載は世界初の快挙
家で映画を見る楽しみはとても奥が深いものだ。大スクリーンと立体音響に囲まれ、映画館で作品に集中するときと同じぐらいか、場合によってはそれ以上に深く没頭できることもある。

だが、家庭のスクリーンから深い感動を得るためには、それなりのこだわりが必要だ。映画フィルムは明暗の差をビデオよりもきめ細かく再現し、細部を描き分ける能力もはるかに優れている。その膨大な情報を、DVDや放送の映像からどこまで引き出せるかが、カギをにぎっているのだ。

たとえば、薄暗いシーンでも人物の表情が見えるかどうか。モノクロの映像でも目で語る表情や顔色の微妙な変化が読み取れるかどうか。そこまで求めるこだわりと、映像の本質を引き出す優れたディスプレイがあれば、映画を存分に楽しむための条件はクリアしたも同然。あとはじっくり映画の世界に浸る充実した時間が待ち受けている。

ところで、ディスプレイのなかで、画面サイズ、階調再現力、オリジナルに対する忠実度のすべてを満たす機器といえば、DLPプロジェクターが一番近い存在といってよい。

なかでも、映像の美しさを素直に実感できるプロジェクターとして、筆者はマランツのVP-12シリーズが最初に思い浮かぶ。第一号機のVP-12S1から始まり、現在は第三世代のVP-12S3に進化しているが、まもなく第四世代のVP-12S4が登場するという。発売にはまだ少し時間があるが、試作機ができたと聞き、早速出かけてみた。

先に結論だけ言うと、最新機種の映像には強い感銘を受けた。いままでの画質改善のなかでも、一番大きく本質的な変化といっていい。その詳細を書く前に、まず今回のモデルチェンジについて、具体的な中身をいくつか紹介しておこう。

写真からすぐわかる通り、外見は従来機とほとんど変わっていない。注意深く見ると仕上げ色が明るいホワイト調になり、レンズが少しだけ長くなっている。実際にレンズは本機のために新設計されたもので、従来より焦点距離を長くし、ズーム比とレンズシフト量もそれぞれ拡大したという。天井が高い部屋でも天吊りが容易になるなど、設置しやすさはさらに磨きがかかっている。

ズーム比は1.45倍になって投射距離の範囲が拡大し、レンズシフトは上方向に画面の高さ分まで移動できるようになった。いずれも普通ならレンズ性能に影響を与える変更だが、今回は定評ある画質を確保するために非球面レンズを新たに導入するなど、コニカミノルタのレンズ設計陣が尽力したという。なお、投射距離を短くしたい場合は、従来型レンズを継承したVP-13S1を選べばよい。

そのほか、外見からわかる変化はデジタル映像入力がDVIからHDMIに進化したことだが、HDMIの方がコネクタが細いので、これも設置しやすさに貢献する改善といえる。

ビデオプロセッサーGF9350
マランツがジェナム社と共同開発した最新ビデオプロセッサー。ハイビジョンとDVDの両方で最高水準のパフォーマンスを発揮する希少なデバイスとして、映像機器メーカーが熱い視線を寄せる
TruMotion HD技術でプログレッシブ変換を最適化処理すると、従来のアプローチ(下写真)より輪郭が出て、解像感も上がる(上写真)

さて、VP-12S4の最大の注目点は、画像処理の「頭脳」ともいえるビデオプロセッサーに、強力無比の最新素子を投入したことである。ビデオプロセッサーとは、プログレッシブ変換や解像度変換など、重要な画像処理を一手に受け持つLSIのことで、その性能がプロジェクターなど映像機器の画質を大きく左右するとされている。

本機は、カナダのジェナム社製の最新ビデオプロセッサー「GF9350」を搭載しているが、このプロセッサーは、マランツとジェナム社が3年をかけて共同開発を重ねてきたものだという。ジェナム社のプロセッサーを選んだ理由について、本機の開発を担当した横尾氏は「ジェナム社は放送機器向けの高度な技術をもつ企業で、優れた技術開発力を感じました。その可能性にかけたわけです」と、3年前を振り返る。

GF9350の技術的特徴は、ハイビジョン信号に対応したIP変換やフル10bit処理など多岐にわたるが、それらはまさにマランツが長年求めていたものだった。放送機器領域から家庭用機器分野への業務拡大を計画していたジェナム社と、完成度の高いビデオプロセッサーを探していたマランツ。その両社の3年前の出会いがなければ、本機が生まれることはなかっただろう。

ところで、GF9350を採用することによって、映像にはどんな違いが出てくるのだろうか。他のプロセッサーに比べてどんな利点があるのか、ジェナム・ジャパンの三浦氏に尋ねてみると、「ハイビジョンも含めた自然な映像再現力、輪郭のギザギザを目立たなくすること、ノイズを効果的に抑えることなどが、目に見えて優れている利点です」という答えが返ってきた。どれも画面が大きくなるほど効果がわかりやすく、動きへの応答性が優れたDLPプロジェクターでは、特に目立ちやすい内容ばかりだ。映像調整の項目が豊富で、それを登録するメモリーが18個も用意されている点も、こだわりの強い映画ファンには嬉しい機能といえる。

 

GF9350の4つの基幹技術<VXPテクノロジー>
1. Reality Expansion 階調表現にすぐれた10bit映像処理技術
2. TruMotion HD 高解像度プログレッシブ変換技術
3. Fine Edge 輪郭補正、輪郭強調、適応処理技術
4. Fidelity Engine 細部の強調とノイズリダクション技術

取材にご協力いただいた方々
   
VP-12S4開発者
日本マランツ(株)
ビデオ技術開発本部
統括部長
横尾 泰氏
ビデオプロセッサーメーカー担当
ジェナム・ジャパン(株)
セールス&アカウントマネージャー
三浦義一氏
ビデオプロセッサーメーカー担当
ジェナム・ジャパン(株)
アプリケーションマネージャー
三田喜久夫氏