新製品批評
Phile-web >> 製品批評 >>MARANTZビデオプロジェクター VP-12S4

 
マランツのショールームで視聴を行う山之内氏
ここで、試作機が映し出した映像の印象を紹介しておきたい。まず、筆者がいつも画質評価に使っている『アメリカの夜』をDVDで見る。F・トリュフォーが映画作りの舞台裏を自ら監督を演じて描き出した傑作だ。

最初に気付くことは、ノイズが圧倒的に少なく、色数が驚くほど豊富なことだ。そして、一番感銘を受けたのは、DVDを再生していることを忘れてしまうほど、まさに映画らしい映像を再現するという事実だった。中間から暗部にかけて階調の差が実にきめ細かく、人物のクローズアップでは柔らかく立体的な質感が、ため息が出るほど美しい。夜の撮影現場のシーンは、黒の深みと柔らかく温かい照明の対比が見事で、トリュフォーが好んだテンポ感のある編集の巧みさが、コントラストの違いから浮かび上がってくる。数え切れないほど繰り返し見たシーンなのに、いくつもの新鮮な発見があった。

いまをときめくソプラノ、アンナ・ネトレプコのミュージックビデオでは、白側の階調の豊かさに感心した。日が差したときのネトレプコの顔と、自動車の革張りシートの柔らかいタッチ。どちらも普通は白くつぶれがちな部分だが、VP-12S4はテクスチャーを忠実に再現している。ノイズ成分がたいへん少ないので、質感がいっそうリアルに浮かび上がってくるのだろう。

圧巻はDシアターの素材で確認した『マスター・アンド・コマンダー』の暗部階調の豊富さである。グレーのなかの微妙な明暗差をここまで描き分けて見せたプロジェクターはほかに知らない。一切の誇張を排したきめ細かく自然な描写は、映画を楽しむための器として、ハイビジョンがいかに適しているかを証明してみせた。

マランツのDLPプロジェクターは、映画本来の映像美に対する、開発者の感性を伝えてくるところに良さがある。VP-12S4は、その感性をこれまでで一番強く感じさせる製品である。