受賞インタビュー

(株)東芝
デジタルメディアネットワーク社 TV技師長
(株)東芝
テレビ事業部 TV商品企画部 部長

 田辺 俊行
TOSHIYUKI TANABE

 徳光 重則
SHIGENORI TOKUMITSU

次のステップへ向けて
高画質をアピールし続ける

新ブランドREGZAを立ち上げ、新たな映像処理回路メメタブレイン・プロヤを搭載した高画質を武器に、液晶テレビの市場に打って出た東芝。ビジュアルグランプリ2006SUMMERにおいては、ハードディスク内蔵のREGZA H1000シリーズが金賞を受賞した。高画質を追い続ける液晶テレビの新たな取り組みについて、同社デジタルメディアネットワーク社TV技師長の田辺俊行氏、テレビ事業部TV商品企画部部長の徳光重則氏にお話を伺った。

インタビュアー ● 音元出版社長 和田光征


すべての中心は高画質
メタブレイン・プロが鍵

―― 今回ビジュアルグランプリ2006SUMMERで金賞を受賞されたのは、液晶テレビのREGZA ハードディスク内蔵のH1000シリーズ。REGZAの中で最高画質をうたっているZ1000シリーズから、映像処理回路メメタブレイン・プロヤを踏襲しています。画質の引継ぎ点については、どういったポイントになっているのでしょうか。

田辺 我々はテレビについて、3つの開発方針を持っています。1つはHDstyle。高品位、高画質を大きな柱としてフルHDを業界でいち早く導入致しました。2つ目はgigastyle。ハードディスクをいかにユーザーに有効的に利用していただけるか。これがH1000シリーズのコンセプトです。3つめはNetstyle。Z1000シリーズを代表としたネットワークですね。
 これらすべての中心になるのが高画質です。きれいでこそテレビである、というコンセプトで取り組んでおります。我々は基本的に、REGZAの全シリーズで同じエンジンを使っています。ネットワーク搭載モデルも、ハードディスク搭載モデルでも、基本的に画質については最高です。

―― メタブレインは、SEDをにらんで作られたとお見受けしています。

田辺 今回我々は、進化させられるというコンセプトで開発をしました。通常は、ファインチューニングしたらそれ以上は先がありません。今回我々の使っているICは、進化するというのがキーワードです。どいうことかといいますと、一つはライブラリ的なものを増やしていけるということ。例えば洋服屋で、1000着のストックから自分に合ったものを選ぶとします。それがメタブレインの場合、ストック数を2000でも10000でも増やしていけるのです。ですから、将来SEDに対応して変えていける、さらに増やしていけるということです。
 もう一つ、従来は画像処理を8ビットで行っていましたが、今回は14ビットにしたのも、SEDを意識し、妥協しないでやったということです。我々が想定したスペックの中で、一番上を結果的に選んだのです。SEDが出た時に力を100%発揮できるようにしたつもりです。

―― ユーザーからの評価はいかがでしょうか。

田辺 まず店頭でご覧いただいて、わかっていただけるのが嬉しいですね。今回特にそれを実感しています。

―― 画質のチューニングについて、記憶色や感動色などの頭の中にある色をテレビで表現しようとする方向もあれば、ナチュラルに入ってきた信号をそのまま出す方向もあります。今回はどのような感じでしょうか。

田辺 基本的には、従来から一貫した思想を踏襲しています。ベースはやはり自然に近いということです。もちろん、モニターのように完全にフラットではないですが、あまり強調するようなことはしていません。ご覧いただくとお分かりになると思いますが、素直な画づくりになっています。

―― 今回の商品で、新たな取り組みをされたことは何でしょうか。

徳光 液晶テレビのインターフェースはデジタルですから、階調についてビット数が有限です。メタブレイン・プロは入ってきた信号をリアルタイムに解析しています。これをうまく使うことによって、一枚一枚の画の中で最適な階調表現ができるのです。
 例えば、液晶のコントラスト表現では、一画面ごとに画素の分布表をつくり、その分布の中で一番適したものを選んでいます。暗い画面が多いところでは、黒に階調を多く持たせるようにしています。

―― HD DVDの登場と地上デジタル放送が始まるということで、入ってくる映像がSDの場合とHDの場合と違うと思います。その時メタブレインは違う動きをするんでしょうか。つまり「洋服のストック」は変わるのでしょうか。

田辺 その通りです。HD DVDの場合にはそれにあわせて最適なものにします。既製服を出すのではなく、その都度オーダーメイドで服をつくる、という考え方ですね。SEDが出てきたときにはSEDに合ったものをまた広げていきたい、と考えております。


ハードディスク内蔵で
様々な視聴スタイルに対応

―― H1000シリーズのもう一つの柱はハードディスク内蔵という点です。テレビで録画できるというのは、一つの潮流ができてきていると思いますが、ユーザーの反応はいかがですか。

徳光 今回、チューナーをデジタルとアナログそれぞれダブルで搭載しました。従来はデジタル一つ、アナログ二つで、アナログ放送は別番組の裏録もできたわけですが、デジタルの方ではそれができませんでした。そこで今回、市場の声もとりあげて、デジタルもアナログもダブルで搭載して観ながら録画も可能ということにしました。

―― DVDレコーダーの方も、VARDIAブランドで進められていますが、テレビのハードディスクとニーズがバッティングするということはないのでしょうか。

徳光 バッティングするということはないですね。DVDレコーダーを購入されるお客様は、DVDに焼くという目的もありますし。最近、お客様の視聴スタイルが変わってきている傾向があります。お客様の生活リズムがさまざまなので、その時々にリアルタイムで観るだけではなく、観れなかった番組をあとで観るとか、タイムシフトで観るという使い方をしていただけます。一時保存というコンセプトですね。そして、録画を残しておきたいような大事なコンテンツについては、DVDレコーダー側でやっていただくという形です。DVDレコーダー側は編集機能を重視していますし、そういう形で共存していけると思っています。また、テレビ側の録画は非常に簡単です。そういうところでも、アピールしております。

―― 今回リモコンにはどのような工夫があるのでしょうか。

田辺  H1000シリーズでは、リモコンをさらに使いやすくしています。重要なボタンは大きくし、使用頻度の低いものはふたの内側に入れ、重要な機能をワンタッチで使えるようにしています。リモコンは店頭でもお客様に触っていただけますから、今まで以上に重要になってきています。

―― 「ちょっとタイム」という言葉がだいぶ浸透し、テレビ内蔵ハードディスクも認知されてきた感がありますが、お客様から、アーカイブをメディアに取り出したいという要望はありませんか。

徳光 それは確かにあります。この先の商品の一つのフィーチャーとして、アーカイブにもケアをしていく必要があるというのは、我々も認識しています。こういったことも含め、常に新しいチャレンジをしていこうと考えています。

―― 今後、ハードディスク内蔵を他のシリーズで展開するといったような計画はおありですか。

徳光 内部的にはいろいろと検討しています。ハードディスクについては、先ほど申し上げたようにgigastyleということで3つのキーワードの柱の一つですから、そこはぜひ今後も重視していきたいと考えております。

―― ハードディスクの容量については、いかがですか。

徳光 今容量は160GBです。それだけあれば、キャッシュ保存としての使い方には十分対応できると思います。アーカイブ保存ということになると、さきほどの話題のようにDVDレコーダーとの棲み分けをもう少し検討していく必要があります。しかし容量の問題そのものについては、市場の声もとりあげてこれから検討していくべき課題の一つではありますね。もっと増やしていく考えもありますが、もしかしたらもっと少なくて拡張性があった方がいいのかもしれない。これから検討していくところですね。


映像と対で感動を生む
音にもさらなる注力を

―― あれもこれも実現しようとなると、機器そのものがどんどんマニアックになってしまいます。いかに簡単に使えるか、ということではH1000シリーズは完成された形であると思います。

田辺 H1000シリーズの大きな特長のひとつに、ハードディスクがユーザー交換できるというものがあります。そういうところもユーザー指向で検討した項目の一つです。ハードディスクはある意味精密機械ですから、テレビと同じ寿命を保てるかどうか、現時点では絶対とは言い切れないところがあります。もしハードディスクが壊れたら、サービスマンを通じてということより、お客様がご自分で交換できた方が便利だろうと考えました。H1000シリーズを購入されたお客様からは、本当に満足したという声があがっていまして、大変嬉しい思いです。ハードディスク内蔵の流れはもっと広がって欲しいですね。使ってみると実に便利ですから。

―― ユニバーサルデザイン、環境対応など、各社さまざまな取り組みをされていますし、年々競争が激しくなっていますね。

田辺 まさに競争ですね。画づくりでも競争しますし、機能面でも競争です。昨今は環境対応でも競争。けれどもすべて大事な要素です。それが、日本に限らず世の中の要望ということですから。そこを避けては通れません。

―― 筐体のサイズについてはどういう傾向にあるのでしょうか。

徳光 従来の、居間に置くアナログのテレビの標準は32インチが主流でしたが、液晶テレビになると従来の32インチサイズで37型液晶と同等のスペースになっています。液晶は主軸が32から37型、さらに42、47型と従来のブラウン管になかった大型がどんどん出てきています。37型というのが、今後居間に置くテレビとしては中心になりつつあるのかな、と実感しています。
 画面のサイズとしては、今後大きいものも小さいものも展開していきたいと考えています。機能についても、もっと広げていく方向もあれば、限定したもので低価格なものが必要になってくるかもしれません。いろいろな意味での面展開も考えていきたいと思います。

―― デザインは、今後どのシリーズも統一する方向にあるのでしょうか。

徳光 基本コンセプトは統一させています。ただ、Z1000シリーズは特に高級感を持たせています。今後面展開する上では、デザインのバリエーションも課題になると思います。しかしREGZAというブランド名がついたものは高画質、高級感を追求していますので、画面が主役のデザインで統一しています。そのために昨年から新しいスリットスピーカーを導入しまして、液晶の下の部分をスリムにしてよりシンプルにしたいというコンセプトで技術開発を進めています。

―― 薄型テレビの普及に併せ、音に対する独自性も各メーカーが出してきています。そういう面での今後はいかがでしょうか。

田辺 スリットスピーカーも、オンキヨーさんと一緒にやらせていただきました。いい音なくしていい評価は得られません。また、フラットパネルディスプレイに合うメBAZOOKA(バズーカ)ヤを作ってみたいという気持ちもあります。映像+音と言うのは、対で感動を与えるものです。大画面になればなるほどのめりこみますよね。音についても、今まで以上に注力したいと考えております。

―― 本日はありがとうございました。

◆PROFILE◆

TOSHIYUKI TANABE

1978年(株)東芝入社。テレビ事業部テレビ開発技術部担当。95年深谷工場 映像情報技術第二部 部長。02年デジタルメディアネットワーク社 TV技師長に就任。現在に至る。

SHIGENORI TOKUMITSU

1981年(株)東芝入社、テレビ事業部深谷工場にてニューメディア機器の開発を担当。02年、デジタルメディアネットワーク社テレビ事業部TV商品企画部長に就任。現在に至る。