巻頭言

原風景

和田光征
WADA KOHSEI


大坪文雄代表取締役専務が松下電器産業の次期社長に決まった。同時に本誌でお馴染みのパナソニックマーケティング本部長の牛丸俊三氏が代表取締役専務に昇格された。親しくしていただいているお二人の就任は感慨一入であるが、果たしてこられた役割を思うと自然の成り行きであり、むしろ大坪・牛丸コンビの登場による、2010年に向かっての成長軌道が楽しみでならない。営業利益10%達成も間違いなく達成されるだろう。次々と攻めの戦略が連打され、驚くことばかりが起こるのではないだろうか。
大坪社長就任記者会見から二週間後に衝撃的なニュースが流れた。中村社長が口にされていた2008年、1インチ5000円の達成が2007年中盤には実現するというのである。2008年の話があった時に、私は2007年年末商戦には用意されているなと、当然のことながら思っていたが、もっと早まるという発表には驚かされた。ここに大坪新社長の意思が既に表出しているのである。その戦略を思い知った業界人も多いのではないだろうか。大攻勢が全部門で展開されることは言うまでもないだろう。
私が大坪さんに初めてお会いしたのはオーディオ事業部長に就任された時で、それ以来のお付き合いである。当時のオーディオ事業部の経営は完全に行き詰まっており、そこに若い事業部長が登場した。まさにお手並み拝見の感がなくもない状況だった。重い組織で人心は硬直化し、若手の上昇志向も削がれる環境にあったように思う。そのことが経営を圧迫していた。
大坪さんは驚いたことに管理職以上をまず他事業部、関連会社に声をかけ異動させた。通常だと良いと思う人材は温存するものだが、大坪さんは公明正大に全ての管理職を俎上に乗せ、自由にスカウトさせた。当然ながら優秀な人材から持っていかれた。大坪さんは次に若手の幹部への大抜擢を断行する。優秀な若い人たちが活き活きと頑張り、事業部はあっという間に立ち直り、軽い組織とハイスピードで若々しい闊達な気風がつくられ、強い商品の連打が始まった。
大坪イズムの凄さは当時から私の脳の奥底へインプットされ、その後は大坪さんの活躍を追い続けてきたと言っても過言ではない。そして、いずれは社長になられる人だと確信し、業界人から聞かれるとかなり前からそう答えていた。中村社長の「破壊と創造」の原風景に大坪イズムを見ていたのである。
社長就任のニュースが世界へ発信されたが、YAHOOでは、2004年の新年号で本誌が実施した大坪さんへの新春トップインタビューがリンクされ、話題になった。あのインタビューで大坪イズム原風景論をお聞きしたが、否定されながらただ微笑まれているばかりだった。
そして、牛丸さん。あの凄いマーケティング力、やはり初めてお会いした時に強烈なインパクトだった。まさに有言実行、そして何よりも明るく、強力なリーダーシップを発揮されていた。
そんなお二人のコンビネーションが楽しみでならないのである。

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