スーパーオーディオCDはCDの上位フォーマットだ

 CDが登場してから02年10月で満20年を迎えた。と言っても実際にアナログを追い抜いて主役の座に立ってからは15年位。しかもデジタル技術の進歩は早く、CDに替るフォーマットの策定は7年位前から始まっている。現行のCDではアナログオーディオの持つ細かいニュアンス表現を再現することの難しさと、蓄積されたデジタルオーディオ技術を最良のフォーマットで実現させるという意図があった。それはCDの20kHzという再生限界周波数が人間の聴覚以外の感覚でCDの限界を感じ、さらにゆとりあるダイナミックレンジの必要性が高まったためである。CDの開発メーカーであるソニーとフィリップスは「スーパーオーディオCD(SACD)」を提案し、99年5月に市場投入した。

スーパーオーディオCDと現在のCDの比較
項目 スーパーオーディオCD 現在のCD
符号化方式 1ビット・ダイレクト
ストリーム デジタル
16ビットリニアPCM
サンプリング
周波数
2.8224MHz 44.1kHz
再生周波数範囲
(理論値)
DC〜100kHz以上 5〜20kHz

ダイナミックレンジ
(理論値)

120dB以上
(可聴帯域)
96dB
DSD方式では、アナログ入力波形がプラスになればなる程パルス密度が高くなり、マイナスになるほど低くなる。

2層構造の採用で、CDプレーヤーでも再生可能

 SACDの特徴の一つは、既存のCDプレーヤーでも再生できる互換性を持っていることだ。独自の2層構造によって互換性を実現しているもので、従来のオーディオCDの信号記録位置(CD層)に44.1kHz/16ビットのデジタル・オーディオ・データを記録し、それよりも浅い半透過膜層に高密度記録(HD層)されたハイブリッド・ディスクとなっている。発売当初はHD層だけの作品が主流だったが、今後はハイブリッド・タイプが多くなってくると思われる。もちろん2層共にHD層としたデュアルレイヤー・タイプも可能である。
 HD層は3つの領域に分かれ、最内周には直流領域から100kHzに及ぶ超ワイドレンジの周波数特性と120dBに達するダイナミックレンジの2チャンネルステレオのデータが記録される。そして次の広い領域には6チャンネルまでのマルチチャンネル・データが同じレベルで記録され、最外周には歌詞、クレジット、静止画像などのエクストラ・データが記録されるのである。

左はSACDハイブリッドディスクの構造図。スーパーオーディオCDの高密度信号層であるHD層と、既存のCDプレーヤーで読み取り可能なCD層が貼り合わされている。HD層はさらに、2チャンネルステレオエリア、マルチチャンネルサウンドエリアの他に、歌詞やクレジットを収録したエクストラエリアで構成される。
将来のフォーマットにも高精度に対応できるDSD方式

 SACDの核となるデジタル伝送方式がダイレクトストリームデジタル(DSD)だ。ハイクオリティCDとして採用されているDSD方式は、音楽データを高速サンプリングで1ビット化したデジタル情報で記録して伝送するもので、SACDではサンプリング周波数が2.8224MHz/1ビットに設定されている。従来のマルチビットのデジタルオーディオでは、高品位化にはビット数の増加やサンプリング周波数の引き上げで対応していたが、必要とした入力フィルターが量子化ノイズを発生させる問題があった。DSDでは音楽データを直接デジタル化することで録音時点の音の再現性を格段に高めたのである。
 またDSDはSACDのCD層にも活かされており、DSD情報から超高精度のデジタルフィルターとノイズシェーバーを搭載したスーパー・ビットマッピング・ダイレクト(SBMダイレクト)プロセッサーによってダウンコンバージョンされた44.1kHz/16ビットデータが記録されている。さらにDSDダウンコンバージョンは現在のすべてのサンプリング周波数との変換が容易であり、様々なフォーマットからのDSDマスター化、または他のフォーマットへのデータ供給も可能という将来性をも見据えた機能を有している。

ハイブリッドディスクの信号読み取りは2種類のピックアップで行う(上図参照)。2層ともに同じ方向から読み取る。CD層は音楽用CDと同じ位置にある。

違法コピーから音楽を守るウォーターマーク技術採用

 海賊版の流通やパソコンなどによる違法コピーが世界的規模で蔓延している現実に、SACDの著作権保護技術は注目すべきところだ。その技術は専用プレーヤーでのみ識別可能な透かし記号を記録するインビジブルウォーターマーク(PSP‐PDM)が採用され、パソコンでの読み込みが不可能で、コピー出来ても暗号化されているため複数のキーを必要とする。その他、異なるプロテクト技術が採用されているので、仮に1つが破られても他の方法で保護されることになる。

マルチチャンネルがピュアオーディオの世界を拡げる

 モノラルから始まったオーディオ再生の世界は、ステレオとなって初めて立体音場の再現を可能にした。そして広い周波数帯域とダイナミックレンジを持ったデジタル技術が、リアリティの高いピュアオーディオをもたらした。さらにSACDマルチチャンネル・ディスクには最大6チャンネルすべてが、ステレオ・データ部と同じ最高音質で記録されている。そのために元の情報が欠落されることなく高密度に記録され、発せられた音そのものの質感と共に、ホールやスタジオなどで奏でられた雰囲気そのままの膨大な情報を、マルチチャンネルで再現してくれるのである。ピュアオーディオによるマルチチャンネル再生が従来とは異なる次元の感動を呼び起こし、音楽制作者にも新たな創作意欲をかき立てることになろう。

右図は国際機関(ITU-R BS.775)により推奨されている、マルチチャンネルソフトの再生時におけるスピーカー配置である。1チャンネルはLFE(低音域専用)チャンネルとして設定されている。
新たな音楽メディアとしてのSACDの視界が、今まさに開かれようとしている

 高級専用プレーヤーから手軽なマイクロコンポまで、SACDの魅力を堪能できる製品群が続々拡がっている。従来のオーディオシステムにSACDプレーヤーを加えることでも、DVDビデオなどを楽しんでいるホームシアター環境にユニバーサルプレーヤーを導入することで、たちまちCDでは得られなかった質感で音楽を体感できるのだ。部屋が狭いとか音量が上げられないという限られた環境でもSACDマルチがコンサート会場を提供してくれる。
 02年、ローリング・ストーンズの60〜70年代初期作品22タイトルがSACDのハイブリッド仕様で発売され、新録ならずとも新たな魅力の発見にファンの話題を呼んだ。02年末までにSACDソフトは600タイトル以上発売され、ハイブリッドが約250タイトル、マルチチャンネルが約130タイトル含まれている。03年は1月に人気デュオCHEMISTRYがニューアルバム「Second to None」をCDと同時発売させ、2月からはエイベックスも津軽三味線の木下伸市の新譜「承」でSACDに参入。CDマーケットが縮小するのに呼応するかのように、新たな音楽メディアとしてのSACDの視界が今まさに開かれようとしている。

解説/麻野 勉(オーディオ・ビジュアル評論家)

日本大学法学部新聞学科卒。日本ビクターでオーディオ商品のマーケティングを担当後、ワーナーパイオニア(現ワーナーミュージック)勤務を経て、執筆活動を開始する。そのキャリアからソフト業界に詳しく、レコード会社就職を望む若者たちへ向けて上梓したガイド本「音楽業界就職ナビ」(早稲田経営出版刊)は、重版4回を数える。長年執筆を続けているAVレビュー誌でのビデオソフトのクオリティチェックには定評があり、ビデオカセット、LD(レーザーディスク)はもちろん、DVDビデオソフトもほとんどすべてのタイトルを知り尽くす。古物商免許という珍しい一面も持ち、エジソンプレーヤー、SPプレーヤーの収集もしているという。

プレーヤー全モデル紹介 スーパーオーディオCDとは?
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