●DLP方式との相性は?

ヤマハ(株)のDLPプロジェクター、DPX-1(発売中、88万8千円)。900対1の超ハイコントラストでフィルムライクな高画質を実現するだけではなく、静音対策などもきっちりと行い、ホームシアターでの視聴に配慮している(詳細はこちら 今回の視聴では、シアターグレイと260G(ビーズタイプでピークゲイン2.6のスクリーン)、マリブで同時に画質の比較を行った。

「シアターグレイ」は液晶用として開発されたのだが、固定画素方式のプロジェクターの主流はDLP方式になろうかという勢いがある。それとの相性はどうだろうか。ここではヤマハのDPX-1にてチェックしてみた。DLP方式はマイクロミラーデバイスを使った反射方式であり、光の損失が少ないことや、コントラストや黒浮きの点で液晶方式より有利とされている。

●「マリブ」との比較

ならば特別なスクリーンで暗部階調を補整する必要もないのでは? これが常識的な判断なのだが、実際はどうだろうか。

「マリブ」で見ると、DPX-1の標準設定のままでは黒が少し浮くというか、彫りの深い絵にならないのでRGB調整で黒を少々沈め気味にする。もちろんガンマ特性も暗部階調を重視するように選ぶ。これで滑らかな階調性と暗部の締まりが得られるようになった。

一方、「シアターグレイ」では、無理に黒を沈める必要がないし、各種調整はほとんど標準状態で力強い表現力が得られた。ビデオ撮り映像で投映サイズが小さい場合は黒が締まり過ぎに見えることもあるので、少しブライトネスを上げるといい。

こうして見ていくと、特に映画ソフトの白黒映像で真価が明らかになる。最暗部がびしっと引き締まったまま微妙な暗部の陰影表現が見えてきて、フィルムらしいというか、時にはそれ以上にダイナミックな表現力となるのだ。

「グラディエーター」の強烈な陽射しと月世界風の縁取りの明快な陰影の対比も忘れられない。もっとソフトな黒にも調整できるのだが、「シアターグレイ」の奥行きを演出する能力にしばし見とれてしまうのだ。

●黒より黒い世界の表現域

一方「めまい」のような往年のテクニカラー作品は、暗部階調は元々それほど精密ではなく、その代わりに色が濃厚だ。そのむせ返るような色のきらめきがズバッと表現されるのは意外なほど。黒よりも黒い暗黒の領域が底辺に控えているからだろう。

元祖テクニカラー方式は、三原色の色素像と白黒還元銀像による墨版が重なる「四原色」の世界だ。色のない暗黒部がぐっとひき締まってこそ、濃厚に調色された色彩美の世界が開花するのだと思う。人工的に味を濃くしたこの世の似姿。これ以上濃厚になると網膜が麻痺するようなあやうい官能の世界が眼前に出現する。これはやはりフィルム以上の味だと思う。