次世代ディスク時代の5.1chスピーカー
ECLIPSE「TD307THII」
富士通テン(株) 音響事業部 音響システム企画部
三木好州氏


5.1chスピーカーシステム
ECLIPSE 
TD307THII


ビジュアルグランプリ2007SUMMERで「ホームシアター大賞」を受賞した、ECLIPSEの5.1chスピーカーシステム「TD307THII」。富士通テンがこれまで発売してきた名機と同様、タイムドメインという独自の理論をもとに開発されたモデルだ。

製品は、この4月に発売されたばかりのスピーカー「TD307II」5本と、サブウーファー「316SW」のパッケージとなる。これまで蓄積してきた技術をベースに、さらなるブラッシュアップを図った本機の魅力について、商品企画を担当した富士通テン(株)音響事業部 音響システム企画部の三木好州氏にうかがった。

インタビュービジュアルグランプリ審査委員/オーディオビジュアル評論家 大橋伸太郎
構成:Phile-web編集部


−−まずは「ホームシアター大賞」の受賞、大変おめでとうございます。TD307IIのスピーカーとしての基本性能が向上したことを、審査委員が高く評価したことが、今回の受賞につながりました。

ECLIPSE TDシリーズ スピーカーのテクノロジーの要諦は「タイムドメイン理論」ですが、この記事をご覧いただく方の中には、まだこの理論をご存じでない方がいらっしゃるかもしれません。はじめに三木さんの方から、タイムドメイン理論をあらためてご説明いただけますか。

三木氏:そうですね。通常、スピーカーの性能を語る際に、周波数特性(振幅)が使われることが多いと思います。我々としても周波数特性をおろそかにするつもりはないのですが、たとえば短い時間のあいだに音の高さが変わる「スウィープ信号」などを再生する場合、音が上がる信号と下がる信号とでは、耳で聴くとまったく違う音なのに、周波数特性のグラフではまったく同じ結果になってしまいます。つまり、周波数特性だけでは、スピーカーの性能をすべて表すことができないのです。

そこで我々が着目したのがタイムドメイン理論です。周波数特性だけではなく、時間情報も非常に重視しているのが特徴です。

先ほどスウィープ信号で例を挙げましたように、周波数特性は同じでも信号波形(時間領域)で見れば明らかに異なる場合があります。このような見方をするためにインパルス信号の応答波形を解析することにしています。インパルス信号とはパルス幅の時間が無限小で出力が無限大という波形(図)で全ての周波数成分を含んでいます(周波数特性フラット)。このインパルス信号を正確に再生することができれば、どのような波形にでも対応することができるというわけです。

インパルス信号を通常のスピーカーで再生した例。元の信号が乱れてしまっている インパルス信号をECLIPSE TDシリーズ スピーカーで再生した例。元の信号を比較的正確に再現できている

−−なるほど、よく分かりました。もう一つ、ECLIPSE TDシリーズのスピーカーについては、音の色づけ(=カラーレーション)が少ないという特徴がありますね。これについてはいかがですか。

TD307IIの内部。スピーカーユニットを仮想的に浮かせるユニークな構造だ

三木氏:音の色づけが排除されているのは、タイムドメイン理論を製品に落とし込んだ結果と言えます。たとえば、従来のスピーカーでは、ユニットがエンクロージャーに直付けされていましたが、これではスピーカーユニットの振動がエンクロージャーに伝わり音の波形に影響を及ぼしてしまいます。そのため、ECLIPSE TDシリーズでは筐体内部に「ディフュージョン・ステー」という支柱を設け、これにユニットを取り付ける事により仮想的にフローティングさせています。 

ただし、スピーカーユニットをエンクロージャーから浮かせると、ユニットが動くための足場がなくなってしまいます。そこで、「グランド・アンカー」という重い構造物をユニット後部に接続し、ユニットの動きを安定させます。

また、スピーカー本体がタマゴの形をしていることにも、大きな理由があります。これは、音が同じ方向に何度も反射を繰り返す内部定在波や回折効果を防ぐためのフォルムなのです。共鳴を排除することで、本来の音を「正確」に再現することが可能になります。

−−なるほど。ここで、これまでのECLIPSE TDシリーズスピーカーの系譜を振り返ってみましょう。まず、記念すべき第1弾として2001年に発売されたのが、12cmスピーカーを持つ「512」ですね。同時に、8cmスピーカーを装備した下位モデルの「508」もラインナップに加わりました。その後、2003年には“Lulet”という愛称がつけられた「307」が発売されます。この307が、今回のTD307IIの前身ということになりますね。

また、ハイエンドモデルとして2004年に発売された「TD712z」は、いまだに多くのファンを獲得し続けています。2005年には、10cmスピーカーの「TD510」、8cmスピーカーで508をリファインした「TD508II」が加わりました。そして今年、TD307IIが満を持して登場したということになります。今回のTD307IIが、前モデルの307からどのように進化したのか教えて頂けますか。

三木氏:TD307IIでは、冒頭に仰って頂いたように、スピーカーとしての基本性能を上げることを目指しました。まず、ユニットの支持手法を変えました。これまでの307では、先ほど申し上げたグランド・アンカーが支柱につながっていませんでした。これを支柱に取り付ける事により不要振動を抑制し、音質の向上を目指しました。

これに伴い、容積も上がっています。筐体の直径は前モデルの110mmから130mmに、質量は1.2kgから1.5kgに向上しました。また、前モデルは3本のフットで本体を支えていましたが、今回はテーブルスタンドに変更しています。

様々な図や資料を使ってTD307IIを説明する三木氏

−−ユニットについてはいかがですか。

三木氏:材質はあまり変えていませんが、構造は一新しています。前モデルで少々気になっていた音の色づけをさらに減らすべく、中身の改良を行いました。具体的には、コーン紙の形状見直しや磁気回路のコイルとマグネットの位置関係を変更したり、細かな改善を積み重ねることで、音の向上を図っています。

−−先日、5.1chパッケージの「TD307TH II」を試聴した際、これまでのECLIPSE TDシリーズスピーカーと同様、サラウンドの音のつながりが非常に良いことに感心しました。ステレオで聴いた際もかなりの音場感を再現するスピーカーですが、それを5.1chで聴くと、さらにその性能が際立つという印象を受けました。これだけの能力を持っているからには、購入を検討している方には、ぜひ5.1chシステムを組んでもらいたいですね。

TD307IIは、前モデルに比べて首振りの角度が大きくなった。これにより設置の自由度が増している

三木氏:ありがとうございます。我々としても、音場の再現能力には強い自信を持っています。またTD307IIでは、サラウンドで聴いていただく際にも便利にお使い頂けるよう、セッティングの柔軟さを広げました。具体的には、スピーカーを下方向に25度、上方向に30度の角度まで振れるようにして、天井や壁に設置したときの調整範囲が広がっています。また、左右方向は360度の回転が可能ですから、多くの場所でご利用頂けます。

−−ECLIPSE TDシリーズスピーカーは、多くのミュージシャンに愛用されていることも有名ですね。

三木氏:そうですね。これは、我々のポリシーである「色づけをしない、ソースそのままの音を引き出す」というコンセプトに、多くのミュージシャンの方々が興味して下さっている結果だと思います(編集部注:ECLIPSE TDシリーズスピーカーを使用している著名人はこちらで紹介されている)。

また、色づけをしないという意味では、店舗での使用にも適しています。最近では、自動車会社様のディーラーや、タリーズコーヒー様の店舗などに採用頂きました。会話の邪魔をしない自然な音と、ご好評をいただいております。

「次世代ディスク時代には、映像に見合うだけの優秀なスピーカーが求められる」と大橋氏

−−昨今のオーディオビジュアルの環境を見てみますと、地上デジタルの普及拡大に加え、BDやHD DVDが本格的に起ち上がり、映像のクオリティが格段に上がってきています。それに合わせて音のクオリティも良くなる必要がある、というのが私の持論です。これまではSD映像がメインだったから、ドルビーデジタルやDTSなどの音声が、ある意味で映像のクオリティを上回っていたわけです。これからはそうはいかない。映像のクオリティに匹敵するようなシステムを導入する必要が出てきますね。私は、今回のTD307THIIが、その有力な選択肢になると思うのです。

三木氏:ありがとうございます。フロントサラウンドシステムなども人気を集めているようですが、音のつながりの良さ自然さという意味では、やはり5.1chシステムにかなうものはないと自負しております。

−−最後に、ECLIPSEスピーカーの今後の展開を教えて頂けますか。

三木氏:まず、これまでの音場感をリアルに映し出す性能、そして色づけのない音作りという路線は、変わらず継承していきたいと思います。楽器演奏者の表現力を聴き分けることができる、正確な音の再現能力は、今後もさらに磨いていきたいと考えています。その上で、オーディオファンの方以外にも、ECLIPSEスピーカーをお使い頂けるよう、色々な工夫を重ねていきたいですね。また、サブウーファー「TD725sw」の下位機種を発売して欲しいという声を多くの方から頂いています。これも早期に実現できるよう、開発に取り組みたいと思います。

−−なるほど。今後も、ECLIPSEスピーカーの動向は常にチェックしておく必要がありますね。本日はありがとうございました。

関連リンク
ECLIPSE TD 公式サイト