山田 昇氏

持続的な成長、発展のために
常にイノベーションを発揮する
(株)ヤマダ電機
代表取締役会長 兼 代表執行役員CEO
山田 昇氏
Noboru Yamada

売上高2兆円を達成した家電量販店トップのヤマダ電機。同社の創業者である山田昇氏が本誌に初登場となった。
国内家電販売はもとより、中国への出店、そして昨今注目されているエネルギー問題に取り組んだ「スマートハウジング」への新展開など、さらなる成長に向け精力的に拡大を図る同社、その方向性と意気込みを聞く。

 

ソリューションビジネスで
利益創出の構造を変えてきた
スマートハウスもその取り組み

新たなビジネスで
差別化を図る

── 山田会長は、本誌に初めてのご登場となります。どうぞよろしくお願い致します。まず昨今の家電をとりまく状況について伺いますが、テレビ販売の前年比が激減しています。

山田 確かに家電業界では、テレビが大変な状況にあります。しかしそれだけ多くのテレビが売れたということであり、市場がシュリンクして需要がなくなったわけではないと私は考えています。テレビは耐久消費財であり必需品ですから、いずれは通常に戻るでしょう。

家電業界は新しい商品が常に出て恵まれていますが、モノの作り方は変わりました。テレビなどパッケージ化されたデジタル商品は、生産技術、モノをつくるという技術をあまり必要としなくなり、一極集中してEMSメーカーがつくることもできますから、本来のメーカーは儲からない構造になってしまっています。テレビに関しては、今や世界ナンバーワンのシェアを持っているメーカーさえも利益が出ていません。デジタル商品はどうしても先行利益がとれず、サイクルも非常に短くなっています。メーカーさんも新しいビジネスモデルを工夫する必要がありますね。

テレビに限らず、デジタル商品を差別化することは非常に難しくなってしまいました。ビジネスモデル自体が儲からない構造になってしまっているのです。だから当社は、量販店の中において差別化とは何かを追求してきました。お客様にとって一番の差別化は価格ですから、私どもはリーズナブルな価格をご提案してきました。それは低価格とは違い、お客様のご納得価格ということです。

商品自体はどこの店で買っても同じですから、それで収益を上げるためのビジネスモデルを考えないと流通もやっていられません。当社はチェーン展開を始めたときから、意識的に利益創出の構造を変えて来たのです。それが我々の言うソリューションビジネスです。

先日ハウスメーカーであるエス・バイ・エルとともに環境ビジネス「スマートハウジング」の取り組みを発表させていただきましたが、これもその一環です。ソリューションビジネスから得られる利益について、同業者と比較すると、当社では経常利益の約4割のイメージですが、同業者は1割くらいだと思います。この業界でテレビに代表されるような利益を出すのが困難な構造があったとしても、私どもは慌てていません。絶えず新しいビジネスに取り組んでいますから。

住まいを丸ごと手がける
環境ビジネスへの取り組み

── 「スマートハウジング」の展開についてお聞きかせください。

山田 この取り組みでは住宅を手がけ、それによって家電専門店としての究極のサービスが実現すると考えています。空調、環境・快適など、電機製品は住空間の中心をなすものですが、我々のサービスでそこに専門性が提案できます。今回の取り組みでは設計の段階からそれを提案できることになり、お客様にとって非常にいいことだと思います。

当社はもともと環境ビジネスという事業領域をもっており、そのメリットが出せると考えます。スマートハウス、それを発展させスマートタウンとしてコミュニティを提案していくというスケールで考えております。北海道から沖縄まで約3300ヵ所の店舗ネットワークのインフラを活かし、当社ならではの取り組みができると思います。

── 地域密着のネットワーク活用というお考えもありますね。

山田  通常ハウスメーカーさんは展示会場で集客、営業展開するという手法ですが、それに対して当社は地域密着の考え方です。先日連結子会社化を発表させていただいたエス・バイ・エルは全国64ヵ所の直営の営業所をもっていますが、それだけでは全地域をカバーできません。私どもではそもそも郊外型を含めて地域ごとに密着した営業を強みとし、サービスネットワークが全国にあります。そこから地方の工務店さんと手を組んでいく。彼らのお客様と我々のお客様は共通であり、双方にメリットがあって相乗効果を発揮できます。できるだけ早く工務店さんとの協力関係を構築するべく、今動いているところです。

── 店を中心に何ができるのかを考えますと、お客様の紹介ビジネスがあります。しかし今回のように地域密着ネットワークを活用し、いきなり大きなスケールで展開するというのは驚きですね。

山田 これまでチャンスがなかっただけだと思います。当社は中古住宅をスマートハウス化して販売するということもやっていましたし、そこにたまたまエス・バイ・エルという友好的なM&Aの案件があったのです。約6年前にウエストホールディングスと業務提携してから、リフォームの事業も手がけてきました。そうしたことが下地となったから今があるのであり、突然の業務拡大ではないのです。

当社の経営理念は「創造と挑戦」「感謝と信頼」です。持続的な成長、発展のために常にイノベーションを発揮し続けるということです。一度ナンバーワンになったらいずれは衰退するという理論があるようですが、私どもはそういうことにはならない経営をやっていかなくてはなりません。すべてそういう考え方です。

── ヤマダ電機の店舗にモデルハウスを建てるのですか。

山田 エス・バイ・エルの直営の営業所はすでに全国64ヵ所ありますが、必要とされるところがあれば作ろうと思います。我々の店舗網を使ってお客様にローコストでご提案できるのが我々の強みでもあり、そうなればお客様の選択の幅も広がります。かつての系列店と同じですね。ただ現状ではそこまでのことは考えていません。まずはやるべきことをやっていこう、我々の強みを発揮していこうと取り組んでいます。

住宅産業では、地方の工務店が市場のシェアを8割もっています。大手ハウスメーカーさんのシェアはすべて合わせても2割程度。ですから地方の工務店、地域密着の事業をやっているお店は強いのです。家電業界で言えば、地域店が強いということ。30年前と同じような状況です。我々が地域密着の営業を中心とした展開ができるのなら、そこに可能性があります。

── このような取り組みは、ナンバーワンでなければできませんね。

山田 家を売るということは、35年の長期ローンを組まなくてはならないほどのものを扱うわけで、信頼が必要とされます。ヤマダ電機がエス・バイ・エルと一緒になるのであれば心配ない、と言っていただけるだけのブランドの強さが必要です。

いいかげんなことをやっていては信頼していただけなかったでしょうが、おかげさまで家電販売のシェアは27〜28%いただいています。そうした信頼のもとにあるということが前提であり、当社でなければできないと思います。そうした経営力をお客様もよくご存じです。

山田 昇氏電機にも伸長の余地あり
住宅産業にはさらなる可能性

── 電機業界の商品群で御社は売上げ2兆円ですが、これをその倍にもっていくにはやはりこうした新規事業の展開も必要ですね。

山田 私は、家電だけでまだシェアを伸ばす余地はたくさんあると思っています。当社では、都市型、郊外方に加え、小商圏人口が3万人の商圏にまで店舗を出せるコスト力がついています。地域密着のコスモス・ベリーズも傘下にあり、あらゆるお客様のニーズにお応えできるサービスを提供できるということです。

国内でこういうことができるのは当社だけですが、海外にもこうした店舗展開の例はありません。ということは、もっと伸ばせる可能性があるということです。当社はそうした下地がある上で、スマートハウスビジネスを展開するのです。

当社は創業37年目で売上2兆円になりました。しかし1兆円に到達してから2兆円になるまでは5年しかかかっていません。住宅産業はやり方によっては、電機産業よりも大きな可能性があると思っています。民間の建物、住宅産業のマーケットは電機の約2倍。この魅力的なマーケットで大手ハウスメーカーさんが2割しかとっていないということ。ここを加えていけば、ヤマダ電機の可能性がさらに広がります。住宅産業だけでも今までの売上げをすぐに超えられるのではと思っています。

── 電気自動車の取り組みもいち早く始められました。

山田 電気自動車は単純に車と捉えているのではなく、スマートハウスの中の蓄電池と考えます。しかし車を扱うわけですから、下取りの問題も出て来ます。そういう車販売に必要なシステムはすでに我々も構築していますから、電気自動車を売る、お客様の車を下取りし、それをヤマダの販売網で再び売るということができるのです。そして電気自動車はスマートハウスのバッテリーとなり、我々はまたそこで使う家電商品を提案し販売するということです。

バッテリー単独の商品は、2.5kWhくらいの電力量で価格は170万円前後ですが、三菱自動車さんの電気自動車は16kWhのバッテリーを搭載し、補助金を活用すれば200万円台で買えます。これが装備されれば、一般家庭でも太陽光発電を絡めてエネルギーの自産自消が実現します。太陽光発電システム、蓄電池、省エネ家電、深夜電力の有効利用で光熱費を大きく抑えられるのです。

事務所用、一般家庭用として必要な電力は約60%、あとの40%は産業用ですが、この60%分を再生可能エネルギーでまかなうことができれば原発の問題も解消するでしょう。発送電の自由化が実現すれば40%を使う産業界も頑張るでしょう。そうなると原発を新たに造らずとも十分ということになります。国も地方自治体も動いています。エネルギー問題は大きな関心事であり、我々にとっては追い風です。

── 非常に壮大な取り組みですね。

山田 太陽光発電や蓄電池といったビジネスは、業界ではおそらく我々が一番早くに動き出したと思います。そこに東日本大震災が起き、計画停電が実施されるなどエネルギー問題が浮上して、一気に世間の関心が高まったのです。

太陽光発電システムはいろいろなクレームが生じやすく、お客様としてはやはり安心できるところで購入し、設置したいわけです。当社では保守契約のサービスも同時に行っており、ハードを購入いただいたら必ず保守サービスも提案するという考え方で、メンテナンスなどのビジネスも充実させていきます。太陽光発電を含めたビジネスだけで、今期470億円を目標に掲げていますし、先日発表させていただいた「スマートハウス関連ビジネス」の成長イメージは2014年度3140億円の売上げを目指しており、これはぜひ必達でいこうと思います。当初はネットワークや体制づくりに1年間は時間がかかると思いますが。

1番店戦略を活かし
中国展開へチャレンジ

── 中国戦略についてお聞きします。瀋陽に第一号店を出され、最近天津に新店を出されました。今こそチャンスとおっしゃっていますね。

山田 チャンスというのは、まず流通業として出店形態は独資がいいということ。数年前までは合弁でなくてはならず、成功するにせよ失敗するにせよ、独自の経営ができなかった。そういう意味では進出しやすくなったのです。さらに中国は国策で需要喚起を行っています。GDPも日本を抜いてどんどん伸びており、将来非常に大きな可能性のあるマーケットを無視して他の国にいくというわけにはいきません。

法律もどんどん整備されています。運用面でのギャップはありますが、安定してから行っても遅いと考えます。今こそ出るタイミングです。そして我々から見れば、現地法人は、まだ顧客第一の経営をしていません。我々がその先駆けとして順調にいければ市場も変わっていきます。だから私は、日本の同業者もどんどん中国に出店すればいいと思います。

ただ初年度は利益が出ません。減価償却も日本と比べ短い期間で処理しなくてはなりませんし、税法上も含め様々な違いもあります。かといって小さな店で出れば非効率になります。当社がなぜできるかというと、都市型店舗展開のノウハウをもっているからです。1000万人口商圏の1番店戦略でやっていますから、差別化ができるのです。こうして厳しい環境の中でも、3年計画でやっています。1年目は利益が出ませんが、2年目でイーブン、3年目で利益を出せばいいという計画です。

── 上海や北京のような主要都市で展開するのは難しいのでは。

山田 瀋陽と天津、1月に南京と計画的に出店しています。民力ということでは、瀋陽が一番低く、そして天津は瀋陽の1.5倍です。南京は瀋陽の1.7倍ほど。地方都市はは単価が低く、立ち上がりに時間がかかります。逆に都会へ行けば行くほど軌道に乗りやすいということです。瀋陽がうまく立ち上がれば、どこへ行ってもうまくいくのです。中国は今発展していますから、今後は国際協調でやっていかなくてはならず、私はそこを期待しています。

従業員満足を充実させ
顧客満足につなげる

── CSR経営についてのお考えをお聞かせください。

山田 当社では5つのテーマを展開しています。コンプライアンス、労働環境、従業員満足(ES)、地球環境、顧客満足(CS)です。私はまずESがあってCSがあると考えており、従業員の満足なくしてお客様は満足できないということです。ESの最たるものが労働環境改善であり、休みをとりやすくする、結婚や出産、育児に伴う対応などいろいろな環境づくりに注力しているのです。ホームページでも発表させていただいていますが、退職率の低さは業界ナンバーワンとなっており、これは経営者として指針となる数字だと思っています。

またCSについてですが、すべてのお客様にサービスを、と考えます。量販店としてテックランドとLABIがありますが、それだけでは十分なサービスができません。特に高齢化社会となれば、店に来られないお客様もたくさんいます。そこで地域密着の店舗展開でそれをカバーする必要があり、コスモス・ベリーズを傘下にしたのです。我々も地域店も共生していこうという考え方、これが地域密着店展開のもうひとつの目的でもあります。こうしたことでもCSを達成するということです。

ひと言でCSといっても、幅広い考え方があります。よく話題にされるのは接客のことですが、本当のCSはそれだけではないのです。なぜお客様はヤマダ電機に来てくださるのかというと、まず身近にサービスを受けられる店舗があるからです。すぐに行ける、店からすぐに来てくれて便利だ、これが量販店にとって何よりのCSだと考えます。だからこそ当社は店舗開拓を積極的に行っているのです。それから品揃えや価格、ポイント制といったことが続きます。これらを量販店のニーズとして整え、それをしっかりと踏まえて経営をしているのです。

── 5年間で1兆円伸びたという急成長の間は、組織がいろいろな面でついて行きづらくなることもあるかと思いますが。

山田 確かに人をたくさん採用すれば、その分社員教育をしっかりとやらなくてはなりません。しかし至れり尽くせりでサービスすればコストがかかります。お客様は一方で安さを求めているのであって、コストをかけすぎれば価格に影響してしまう。そのバランスが問題なのです。量販店として求められるサービスがあり、とことんサービスすれば価格に影響するのは当たり前ですから、どうバランスをとっていくかです。

私は地域店の経験もあり、至れり尽くせりのサービスもしてきました。それが地域店の特徴でもありますが、量販店でそれをやったら、安い価格を提供することはできません。私どもはそのバランスをとって、「リーズナブルな価格」を提供しているのです。

── お客様が来やすい立地に店舗があって、お客様が欲しい商品がある、ということが量販店のCSの大前提ですね。

山田 ここまで来るには当社もいろいろな経営をしてきました。大店法が変わっていち早く大型店舗を手がけたのも、郊外の大型店舗にいち早くパソコンを展開したのもヤマダ電機です。パイオニアの大型プラズマテレビ第1号モデルをいち早く店頭に置いたりもしました。他社がやらないことでどんどん市場開拓してきたのです。当社独自のサプライチェーンのシステムをつくって、今やそれが業界のスタンダードになりました。

いろいろなことをやってきて、経営努力の結果、2兆円規模の会社になったのです。普通にやっていてもこうはなりません。経営資源の最適化、最大化を常にイノベーションを発揮しながら図っていき、今の経営システムをつくったのです。誰から教わったのでもなく、独自でやってきたことです。

── さまざまな方向での大きな可能性を感じます。一層のご活躍を益々期待しております。ありがとうございました。

◆PROFILE◆

山田 昇氏 Noboru Yamada
1943年2月11日生まれ、宮崎県出身。1973年4月 ヤマダ電機を創業。翌年5月同代表取締役社長に就任。経営理念に「創造と挑戦」「感謝と信頼」を経営理念に掲げ、絶えずイノベーションを発揮。お客様第一の目線でのサービス向上を図り、斬新な経営改革を推進、売上高2兆円を超える業界のリーディングカンパニーへと成長させた。

back