巻頭言

水源は「未来」

和田光征
WADA KOHSEI

オーディオ銘機賞の審査会が秋晴れの中、5時間に亘って開催された。目出度く金賞を射止めたのは、アキュフェーズのパワーアンプ「A-65」。そしてTADの異次元ともいえるパワーアンプ「TAD-M600」が特別大賞に輝いた。

今回のオーディオ銘機賞には過去最高となる500モデルもの新製品がエントリーし、厳しい審査のもとでそれぞれの賞が決定されるに至った。このオーディオ銘機賞の授賞結果が売れ筋と直結していることは、流通からのメッセージでも、小誌巻末の「市況報告」売れ筋ランキングデータでも明らかである。発表形態も小社刊のピュアオーディオ誌「季刊オーディオアクセサリー」、全国販売店およびメーカーに情報発信する小誌「Senka21」、そして100万人以上のAVファンが常駐する小社運営のサイト「ファイル・ウェブ」で全世界に発信することから、その権威も年々高まって来た。

ある輸入商品の例がある。輸入商社はエントリーしなかったが、審査員によってある商品が選ばれた。製造元であるヨーロッパから確認の問い合わせがきたこともあり、その後その輸入小社にとってもオーディオ銘機賞のエントリーは常態化することとなった。

今や世界に向けオーディオ銘機賞、ビジュアルグランプリ、デジタルカメラグランプリは発信され、注目を浴びているといっても過言ではないといえよう。

私は今回、エントリーからの盛り上がりを見るにつけ、オーディオが浮揚しつつあることを実感している。当然ながら“サブプライム”以来の不況は依然として継続中であり、デフレ現象は加速する傾向にあることから超高級品は厳しいが、値ごろ感のある商品は動きはじめているのが実態である。

故に、年末商戦に期待を寄せているのである。

オーディオ銘機賞は1978年(昭和53年)、小社の創業30周年記念事業としてスタートし、今回で31周年を迎えた。

「業界の建設的な発展に寄与する」という創業来の社是を守り、全くぶれることなくたんたんと着実に、しっかりと歩いて来た。この歩みは今後も全く不変である。幾度か記したように、小社は賞に対する普遍性を重んじ、主催誌名は冠としない。そのことが歴史の中で生かされるという哲学は、すでにこれまでに証明されていると言えよう。

私はかつて「人間百年スポットライト」ということを本稿に書いたが、その思いは不変である。ここにきて「時間川」、「百年橋」ということを考え、「人間百年スポットライト」をより分かりやすく厚みを帯びたものにすると思っている。

人間が生きている時間、そしてスポットライトが当たっている時間は百年である。百年の中で、人は誕生し土に帰る。それを百年毎に繰り返しながら人類は営々と生き続けている。スポットライトが当たっている百年という時間を無限の観点から見ると、あたかも橋のように見える。橋の下に水が流れるごとく、時間が未来から過去へと流れている。

その橋こそ「百年橋」であり、時間の流れこそ「時間川」である。地球が存在する限り、人類における「百年橋」、「時間川」は変わることなく続いて行く。

小社は61周年を迎え、「時間川」の水源である未来を見据えて、踏み出して行きたいと思う。

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