ソニーマーケティング(株)
取締役 執行役員常務
コンスーマーAVビジネス担当

鹿野 清
Kiyoshi Shikano

デジタルハイビジョンと
家庭内ネットワークが
新たな価値をもたらす

薄型テレビ市場が拡大する中、新ブランド「ブラビア」の地位を不動のものとし、ハイビジョンハンディカム、ブルーレイディスクレコーダー、デジタルカメラなどハイビジョンクオリティの商品群を次々と市場に放って、昨年中のソニーは大きな話題をもたらした。その活躍を踏まえ、いよいよ団塊世代が動き出す2007年に同社が注力するもの、照準を合わせていくものは何か。新春の意気込みを、ソニーマーケティング(株)取締役 執行役員常務の鹿野清氏に聞く。

インタビュアー ● 音元出版社長 和田光征

オーディオへの再チャレンジは
今年のもうひとつのテーマ
ソニーらしいこだわりで取り組む

鹿野氏

鹿野 若い時代にウォークマンを楽しまれた方がこの世代になって、もう一度じっくりと音楽を聴く楽しみを持ちたい、という希望を持つことは極めて自然です。しかし、30年前と同じものを復刻生産しても評価されることはないでしょう。一方で、ソニーの基本的な音づくり、画づくりは変わりっていません。それをこの時代にアジャストしながら取り組んでいかなくてはならない、ソニーにとってまた新たな挑戦であり、新しいチャンスが来たという気が致します。

―― もうひとつの大きな問題としては、2011年のアナログ停波までの残り5年間に、膨大な数のデジタル放送対応テレビを用意する必要があることです。

鹿野 昨年の年末商戦あたりから、ご家庭のメインテレビが32インチから40インチ以上になってきました。さらに、ハイビジョンの画質を体験したお客様が、リビングルームだけではなく、寝室も子ども部屋も全てハイビジョンテレビに換えたいという動きもあり、2台目、3台目用の中・小型ハイビジョンテレビもつくっていかなくてはなりません。また地上デジタル放送の全国普及だけではなくて、IPTVを含めたネットワーク上のデジタルコンテンツの広がりもテレビの勢いを加速してくれると考えています。

これらのニーズに応えるためには、生産のキャパシティとフレキシビリティをさらに広げなくてはなりません。ご承知の通り当社は今年の秋、S―LCDにて第八世代のLCDパネルの生産をスタートします。必要によっては外部からパネル購入も行い、中・小型サイズの供給についてもしっかり対応していきたいと思います。

ブルーレイが広く行き渡ることによるハイビジョン画質での映画コンテンツの普及は、SXRDを使ったリアプロジェクションTVや、フロントプロジェクターの世界をさらに広げていくチャンスであると思います。

鹿野氏―― 日本のメーカーは世界のデジタルAVを牽引してきましたが、流通との関係はどうなるのでしょうか。

鹿野 日本のデジタル家電の普及が加速しているのは、最前線で推進していただいている流通の方々のおかげであり、大変感謝しています。ここ数年、一店舗あたりのフロア総数が増え、メーカーとしてはそのスペースでどのような提案ができるかがますます問われてきます。

また一方でデジタル家電の宿命ですが、商品同士の価格競争が厳しくなってきます。コスト対応も永遠のテーマではありますが、むしろ単なる価格競争に巻き込まれないような、魅力的な商品作りがメーカーにとっても流通の方々にとっても望まれていることだと認識しております。そのような魅力ある商品が、最終的にはお客様の支持をいただけるのではないかと思います。

―― ネットワークということを考えますと、単品の箱を売るだけでなくトータルの生活提案など、ものの売り方も変わっていかなくてはならないと思います。

鹿野 これからの商品と販売を考える時、商品の「将来的価値」とお客様への「アフターセールス」ということが、ポイントになってくると考えています。具体的には、お客様にご購入いただいた商品に、後から何らかの形で付加価値をつけていく「将来的価値」を持った商品の開発と販売の現場での提案活動だと思います。単にコンテンツのダウンロードに留まらず、新しい楽しみや驚きを提供できるような、買い足し、買い増しのご提案を行っていく。メーカーとしても、新たな付加価値を提供できる商品を追加発売するなど、売り切りの商売ではなく、エンドレスにどんどんつながっていく。こういうことが、これからの販売の鍵になると思います。

それから、家電のネットワーク化でいろいろな付加価値が生まれますが、インターネットに繋がりホームページを閲覧するといったステレオタイプの付加価値だけではなく、DLNAを筆頭に、いろいろな楽しみ方の可能性が広がってきますので、それをどのように商品へ組み込み、きちんとご提供できるかが重要ですね。

―― ソニーショップさんについてですが、今後その役割は従来より大きくなりそうです。

鹿野 一昨年、ブラビアの発売を契機に私どもも、パートナーであるソニーショップさんも大変元気になりました。永年のお客様の掘り起こしのきっかけになるのはテレビです。ソニーショップさんは、今回ブラビアを販売することによって、もう一度お客様のお宅にお伺いすることができ、それをきっかけにどんどん新たな提案が始まる、というポジティブスパイラルが回転し始めたと感じています。

シニアの人口構成比が高まる中で、地域に根差したお客様の家庭の環境を熟知した地域のお店には、大きなビジネスのチャンスがあります。これからのソニー商品をお客様に提案していくには、商品の持っている性能や価値、使い勝手をもっと熟知し、伝えていかなければなりません。ソニーでは積極的にセミナーを開催するなど、商品への理解を深めてもらう場をつくっていきたいと思います。

―― 商品でいろいろなことができるようになったがゆえに、ご提案の仕方に工夫が必要になってきているということですね。

鹿野氏鹿野 ハイビジョンハンディカムを展開して学んだことは、いくら綺麗な映像のデモコンテンツをお見せしても、必ずしも商品に興味を持っていただけない、ということです。感動というのは極めてパーソナルなもので、遠い異国の風景に感心することはあっても必ずしも感動は生まれません。身近な風景をハイビジョン撮影してお見せすると、すぐにお客様の反応が変わります。「感動」という言葉をキーワードとして、商品の売り方は本当に変わってくると思います。

ソニーは昨年末からハイビジョンコンサルティングという提案を行っていますが、販売の現場でのこのような楽しみ方のコンサルティングは、ますます重要になってきます。コンテンツの感動を切り口に、あるいはネットワークの楽しさを切り口にしてお客様に商品を提案していくという販売方法を、さらに深めていかなくてはならないと思います。 これまでも、流通の方々にはソニーからのさまざまな新しい提案を好意的に受け止めていただき、お客様にお勧めいただくことで、新しいマーケットを切り開いていただきました。このようなことがさらに大切になってくると思います。

―― それではご販売店さんに向け、2007年の抱負を語っていただけますでしょうか。

鹿野 07年は間違いなく、これまで蓄積されてきたデジタルハイビジョンの商品群が花開く年だと思っております。またそれが皆様方のビジネスに寄与する大事な年だと思っております。

ソニーの資産であり、デジタルハイビジョンの本質である映像や音の技術だけでなく、今年から始まるさまざまなネットワークへの対応も十分にご提案できる商品と環境を整えて参ります。

ソニーは『ソニー ハイビジョンクオリティ』という活動のもと、ハイビジョンの楽しみ方の多様化をリードし、ハイビジョンの新しい感動世界をお客様に体験していただく商品をお届けさせていただきます。

販売店の方々には、この感動をぜひお客様にお伝えいただきたいと考えております。商品が多機能化、ネットワーク化し、コンサルティングが重要となる中、販売店の方々の役割というのはこれから特に大事になってくるという期待があります。ぜひこのチャンスをビジネスに結び付けていただきたいと思います。

―― ソニーの製品が元気だと、マーケットも元気になります。

鹿野 今年はソニーハイビジョン商品のさらなる充実と新たな感動提案で、新しいマーケットの開拓というソニーの最も得意なチャレンジに挑んでいきたいと思います。

―― 本年も楽しみです。どうもありがとうございました。

◆PROFILE◆

Kiyoshi Shikano

1951年8月10日生まれ。1975年4月ソニー商事(株)入社。日本、米国、欧州でディスプレイ、IT商品等の企画、マーケティングを担当。2003年4月ソニーマーケティング(株)執行役員に就任。現在、AV商品のマーケティングを統括。趣味はスポーツ(バスケット)