新春トップインタビュー

日本ビクター(株) 取締役
AV&マルチメディアカンパニー 副社長

平林正稔 氏

体験を通して新規需要を
掘り起こす「ユーザー
創造」が益々必要になる

「感動100万人体験会」など、お客様に感動を呼ぶ、体験を通した取り組みの重要性を訴え、実践するビクター。
AV&マルチメディアカンパニーもより風通しのよい組織に改革。
新しい組織力を活かした強い商品と提案を次々に行っていく構えだ。

インタビュー ● 音元出版社長 和田光征

ユーザーとの距離をもっと縮めて
商品を体験して感動してもらうことで
実売へと結びつけていきたい

マーケティングを基本に
事業部の壁を取り払う

―― 2002年度の中期決算を発表されましたが、非常に内容がよかったですね。特にご担当の民生用が牽引したという印象です。国内営業に関しては二桁成長ですね。

平林 前年が悪かったと言えばそれまでですが(笑)。それも、何か飛び抜けたヒット商品があったわけではないんです。何よりまず、基本に立ち戻したということですね。それにはふたつあり、ひとつには、ご販売店との関係をより密にしてタイアップしていくこと。それから、デフレの時代ですから高い商品はなかなか売れません。そこで、市場売価にきちんとマッチするところで商品を出していったことです。市場売価よりも下に潜ろうなどとは一切考えていません。ビクターの場合、常に市場売価よりも若干上のところで勝負しています。

―― 市場でも常に、上位グループの中には必ず顔を出していました。

平林 1等賞の商品はなくても、商品ラインナップのほとんどが2等賞、3等賞になっているのが特徴です。上半期はムービーがかなり良かったですね。オーディオも、業界が85掛けぐらいのところで、当社は前年比120%です。すべての商品において必ず特徴付けを行いましたが、それがお客様にきちんと評価していただけたのだと思います。

オーディオについては、業界は20代前半以下のユーザーにばかり目がいき過ぎていました。実は、クラシックが好きでよくコンサートを聴きに行くのですが、会場に来ているのはほとんどが40、50代の人たちです。その人たちが休憩時間に列をつくって、アーティストのCDを買っていきますが、果たしてどんなシステムで聴けばいいのか。私もそのひとりですが、40代、50代の人たちに向けた商品を、もっと真剣に考えていかなければいけないと思います。

―― デジタル化を背景に、商品が大きく様変わりしていますが、ビデオやディスプレイでも、御社の動向が注目されていると思います。

平林 ビデオには話題を呼ぶような商品がありませんでしたが、これからが勝負だと思っています。ディスプレイは、ハイビジョンやプラズマを年末に向けて揃えましたので、こちらもこれからが勝負ですね。

―― 前半は、サッカーワールドカップと、御社の場合は映画の『陽はまた昇る』も追い風に作用したと伺っていますが、後半の計画はいかがですか。

平林 ラインナップをきちんと揃えていきます。その際、プロダクトアウトの精神を全部吹っ切って、マーケティングを基本に行っていきたいと考えています。11月1日付けで、AV&マルチメディアカンパニーの組織もがらりと変えました。これまではビジネスユニットという、いわゆる事業部制を採用していましたが、ホームシアターなどでもおわかりのように、今は、ビジュアル系にオーディオ系、さらに記録系も入って商品を作っていかなければなりません。そこで、事業部の壁をすべて取り外して一本化しました。

いわゆる企画から開発に至る過程に横串を刺し、各カテゴリーごとの専門性を活かした縦の組織とクロスさせながら、最適な商品がどうあるべきかを考えていこうというわけです。ことに複合化する商品の中では、やはりそうした組織でやらないと駄目だと思います。2003年は、この新しい組織力を活かした商品をどんどん提案させていただこうと思っています。

なお、国内生産は横須賀工場に集中して、ここをAV&マルチメディアカンパニーの総本山とし、物作りのノウハウをつくり上げ、海外生産工場にそれを下ろしていきたいと考えています。

―― 現在の進捗状況はいかがですか。

平林 まだまだ、組織内の意識合わせを一生懸命やっているところですが、たった一月でも、幾つかの面白い提案がすでに出てきています。また、例えばオーディオ事業部のいいところをビデオ事業部にも採用したりなど、担当者にとってみたら若干の混乱がありますが、まず最初は、他の事業部のいいところを採り入れていくだけでも、効果が出始めていると思います。

さきほど、これからが本当に勝負だと申し上げたのは、実はここに理由があります。オーディオ、ビデオ、テレビと、幅広い商品ジャンルをカバーされている会社というのはそう多くはないからです。音の専門メーカーや、ビデオだけやっているところ、テレビだけやっているところはたくさんあります。当社はここで、その総合力を十二分に活かしていきたいと思います。

ビクターがやや弱いのがテレビですから、ここのところにパワーシフトをどのくらいできるかが重要なポイントになると思います。市場で一番伸びているのもテレビですから、ハイビジョンやプラズマに、ビクターならではという商品を投入していきたいですね。

―― 御社が昨春満を持して投入されたプラズマも、DETやDDスピーカーなどきちんと特徴付けされていて、非常に立ち上がりが良かったですね。

平林 ワールドカップ効果が多分にあったと思います。各社もこぞってプラズマを投入し、ワールドカップは大画面で見ようという機運が盛り上がりましたからね。販売店でもプラズマコーナーをかなり急激に広げました。

我々メーカーも販売店さんも、値段で勝負するのでは非常に苦しくなります。そこで、単価をどうにかして上げていきたいと思う中で、そのきっかけとして、プラズマがうまく機能したように思います。これは、非常にいい傾向ですね。ユーザーにそれほどまでに感動を与えることのできる商品だからこそ、それが実践できた。どんな人が見てもあれだけ違いがわかる商品はないと思います。

―― 製販各社から発表される中間決算を見ていましても、そういう商品や取り組みの結果が非常によく表われているように思いますね。

「感動100万人体験会」で
お客様の関心を引き寄せる

―― さて、2003年という年ですが、2000年からの3カ年計画を終え、次なる新たな3カ年計画の立上げの年として、特に、市場背景や商品が激しく変化していく中で、非常に大事な区切りの年になると思います。御社では2003年をどのように位置付けていらっしゃいますか。

平林 私もそのように捉えています。「創生21」という当社の事業計画も、2003年が一つの区切りの年になります。そこで今、一生懸命に考え始めているのが、「それでは2004年以降をどうするんだ」ということなんです。また新しい3年タームの計画を組んでいきますが、そのときに、先ほどご説明した組織の構造改革がうまく機能していくことにより、これまでにない成果が得られるものと期待しています。

また、当社の場合にはキーパーツを持っていません。そこが他の大きなメーカーとはちょっと違うところなのですが、それを弱みではなく、むしろ、うまく利用して、強みに変えていきたいと思います。数社のキーパーツの戦略を聞き、一番賢いところ、一番強いところに乗るという選択が我々にはできる。そことアライアンスを組んでいきたい。

―― 商品も、本当にユーザーの本質的なところにまで深く入り込み、支持されるものしか、これからは生き残っていけないのではないかと思います。流通もそうですね。これからの時代は特に、巨艦店ならば永遠に強いかというと決してそうではないと思います。

平林 流通もメーカーも今は大変苦しい状態にありますが、デフレ云々はともかく、これは、お客様が我々を苦しめているのではなく、むしろ業界がそうした方向へ市場を持っていってしまった。それをここでもう一回きちんと自省して、2003年以降を中期的にどうやっていくのかを考えていかないといけない。

例えば、販売店へ行って、音も聞かないでラジカセを買ってしまうお客様がいる。まず値段を見て、次に色を選んで、それでお終いです。そうしたお客様に、もっといろいろなことを体験させて、本当に楽しめる物を選んでいただく商売の仕方に変えていかなければいけないなと、最近つくづく思います。

他社さんとの競争ばかり考えていると、いつのまにかお客様を無視してしまうことがあります。そこで我々も10月から、お客様に感動を与えること、商品を体験していただくことがまず第一だと考え、「感動100万人体験会」という、販売店を巻き込んだお客様参加型の取り組みをスタートさせています。前半は年末にもあたりますのでプラズマとホームシアターを主体に、後半の春商戦に向けた時期には、ムービーを主力に展開していきます。

―― これからは本当に、ユーザーと近くならないとだめですね。

平林 まずユーザーとの距離を縮め、感動させて、それで商品を買っていただくという流れを創り出していきます。ユーザーとの接点が多くなれば、それだけいろいろな勉強ができます。それを次の商品にまた生かすことができる。ビクターの民生事業を変えることができるひとつの重要な機会と捉え、地道に行っていきたいと思います。

やはり、流通とメーカーが手を組んでユーザーを掘り起こすということをもっと一生懸命やっていかなければいけないと思います。まだ、ある限られたユーザーだけを是認して、その中で占有率をどれだけ取るかに必死になっている面が見受けられます。限られたパイを取り合うのではなく、その力を、パイをどうやって広げるかに使わないともったいないでしょう。棚にいっぱい商品を並べて、「はいどうぞ」ではなく、体験を通してユーザーを掘り起こしていく「ユーザー創造」が、これからはものすごく必要になると思います。

お客様との接点を構築できる
新しいビジネスが求められる

―― ネットワーク化で商品は楽しくなるけれど、それと同時にますますわかりにくくなっている。販売店における人材育成も大切ですね。

平林 当社ではその一環として、「デジタルアドバイザースクール」を開催しています。これは、お客様に接する機会のもっとも多い販売員の方に、商品の良さをきちんと伝えていただくための勉強会なのですが、かなりご好評をいただいています。

一律ではなく、ご要望のあった個々の販売店さんのニーズに合わせて、商品ジャンルや習熟度などを変えて、当社でその都度、カリキュラムを作製するというのが一番のポイントです。これまでの例からも、商品に対する理解力が全然違ってきます。中には、アドバイザースクールを受ける前と後とで、同じ商品の売上げが5倍になったというところも見られます。それはまさしく、その販売員の方が、お客様に対してきちんと接点を持てるようになり、商品の良さを伝えることができるようになったからだと思います。

説明の際には、ビクターの商品を例に行いますが、何もビクターの商品をごり押しする場ではありません。販売店からも、「ビクター色が薄いからいい」という声もよく聞きます(笑)。

―― 非常に理想的ですが、手間もかかりますね。

b 確かに手間はかかりますが、要望も大変多くなってきています。ユーザーを拡大する意味からも、こうしたことを地道にやっていかなければいけないと認識しています。

―― こういう世の中ですから、ユーザーとの接点は非常に大切だと思います。このアドバイザースクールではまた、ユーザーからの生きた情報を得られるという大きなメリットもありますね。

平林 これまでメーカーは、商品を売り、そこから返って来る愛用者カードが唯一の接点とも言えました。そこをさらに一歩突っ込んで、「ユーザーは何を考えているのか」「お店の人がどういうことで困っているのか」を掴んで、それに対応できる商売のやり方や商品のつくり方が勉強できれば、ビクターというのは相当変われるのではないかと思います。

価格はやはり大きな魅力ではありますが、ビクターにしてみれば、コスト力もブランドイメージも宣伝力も決して強いとは言えず、安くして売るというのは一番苦手なところでもあります。ユーザーにマッチする商品をいかにタイムリーに供給していけるか。そこにビクターの勝機があると考えています。

―― 「感動100万人体験会」であったり、「アドバイザースクール」であったり、ユーザーとの距離を確実に縮めてきているようですね。

平林 これからデジタル化のスピードがさらに激しくなります。各メーカーはどういう姿勢でいるかを流通にもきちんとアピールし、一緒にやっていきましょうというスタイルをつくらないといけないと思います。巷では、「ビクターは技術力があるが、商売はへたくそだ」と言われますが、その商売の部分も、かなり改善されてきていると思います。

 

PROFILE

Masatoshi Hirabayashi

1942年6月1日生まれ。66年3月日本大学理工学部精密機械工学科卒業。同年4月日本精密工業鞄社。69年7月日本ビクター鞄社。95年10月オーディオ事業部長、97年4月理事オーディオ事業部長、99年6月取締役オーディオ事業部長、00年4月取締役AV&マルチメディアカンパニー副社長、現在に至る。