新春トップインタビュー
パイオニア(株) 専務取締役 お客様と対話しながら 今、売り場に求められているのは価値を提案できる商品だ。 インタビュー ● 音元出版社長 和田光征 ホームエンターテインメントの ―― 全体に景況はもうひとつですが、その中で、プラズマやDVDレコーダーが大健闘しています。2003年の消費動向をどのように見ていますか。 新島 既存商品は価格ダウンが激しく、デフレのサイクルの中にどっぷりと漬かってしまっている感じがします。単価が下がってしまうから、売っても利益が付いてこない。そこだけ見てしまうと、かなり厳しい状態にあると思います。 お客様も、現在持っている商品にある程度満足している場合には、ずっと我慢してしまう。しかし、新しいものについては、色々なところで出費を削ってまでも買おうとする意識が強くなっている気がします。すなわち、お客様の購買行動の中での「選択と集中」がより明確になってきているのではないでしょうか。 プラズマはまさに、そこにピタリとはまった商品だと思います。DVDレコーダーも同様ですね。いずれも、従来と同じでない、革新性の高いものだからこそ、需要に結び付いているのだと思います。 DVDレコーダーの開発力強化 ―― それでは、個々の事業について、パイオニアの現在の取り組み、2003年の抱負をお聞かせください。 新島 まず、DVDレコーダー事業ですが、DVDの国内市場規模は今年度が約440万台。この内、ストレートモデルが250万台、VHSとのコンボタイプが100万台で、レコーダーは90万台と予測しています。レコーダーは昨年度が約20万台ですから、4・5倍に大きくジャンプアップし、来期も今期の倍以上の市場を形成するものと思います。しかも金額ベースではすでにストレートモデルを上回り、DVD全体で1200億円のマーケットの内、750億円をすでにレコーダーで占めています。この先さらにこの傾向は強まりますので、レコーダー市場はしっかりやらないといけないですね。 ―― RAMとRWの関係についてはどのように見ていますか。 新島 今年10月までの1年間のデータを見ると、DVDレコーダーの構成比は、RAMが8割でRWが2割になります。ところがRAMの内訳を見てみますと、ハードディスクドライブ(HDD)搭載型が市場全体の6割を占め、単体型は2割なんです。すなわち、単体型ではほぼ互角と言えるわけです。 RWにはHDDを積んだ商品がありませんでしたが、昨秋ようやく、当社もHDD付きの商品を投入いたしました。11月21日に発売したDVR―77Hは、発売4日で3割以上のシェアを獲得しています。さらに、パイオニアでは今までは1モデル体制でしたが、昨秋から4モデルの展開になり、一気に市場シェアを高めていこうと考えています。 ―― 競争も激しくなりますが、今後のテーマはどこに置かれていますか。 新島 やはり、開発力をもう一段強化していくこと。また、4モデルとは言わず、さらにラインナップをしっかり揃えていきます。その意味からも、コスト面はひとつのテーマになります。技術的には回路系の集積度をアップさせること。また、2003年からスタートする予定だった中国生産を、急きょ、2002年末から始めましたが、大変よい立ち上がりを見せ、非常にうまくいっています。 プラズマは生産ライン増強 ―― 商品面で、御社のもうひとつの大きな柱となるのがプラズマですね。 新島 ディスプレイ事業では2002年7月に、これまでの静岡パイオニアから私どもホームエンタテインメントカンパニーへと事業主幹を移しました。生産性に軸を置いた形でものづくりを行ってきましたが、それも、ある程度の域まで達したと判断し、よりマーケットに受け入れられる商品を、価格やバリエーションを含めて行っていきたいと思います。 プラズマの市場規模は今期全世界で55万台、日本が一番大きな市場で約20万台になります。導入当初は業務用のウエイトが非常に高かったのですが、民生用が次第に大きくなり、今はここで勝ち抜けなければ市場は取ることができません。 ―― サイズ別の構成比も、市場の拡大と共に、変化が出てきていますね。 新島 国内のサイズ別需要は、今年度は40型以上が56%です。前年度は70%以上ありましたが、32〜37型が買いやすい価格であることから大きく伸び、構成比はさらに拡大すると思います。しかし、40型以上の値段も下がっており、大きくシュリンクすることはなく、5割前後で落ち着くのではないでしょうか。当社は40型以上に集中して展開し、50型クラスでは80%近くのシェアを誇り、40型クラスでも30%弱と、トップシェアをキープしています。「下のサイズを」という要望はお客様はもちろん、社内の販売サイドも含めて数多くありましたが、まずは、しっかりした質のものを出すことが第一と考えています。そうなると、30型クラスを出すには、もう一つ技術的なブレイクスルーが必要ではないかと考えています。 ―― ピュアビジョン≠ニいうプロダクツブランドも、テレビコマーシャルでも必ず流れますし、かなり浸透したのではないでしょうか。 新島 ピュアビジョンの特徴は、まず感動画質であること。ディープワッフル構造やスムースCLEAR駆動法で、今テレビでも宣伝しています4億5000万色という表現力を実現しています。省スペースという面からは、37型のサイドスピーカータイプより横幅が狭い、43型アンダースピーカータイプを提案しています。省エネの部分も常に追求し、業界トップクラスを実現しています。デジタル放送時代が加速する中で、そこにマッチングしたディスプレイをしっかり作っていきたいと思います。 ―― 市場規模が世界レベルで拡大する中で、生産ラインの整備もスピードアップされていますね。現状と今後の計画について、まとめていただけますか。 新島 第1ラインは甲府で稼動中で年間の生産能力は5万台です。第2ラインは10万台で02年10月に静岡で立ち上がりました。こちらは歩留まりがかなり上がってきています。歩留まりは、前面パネル、後面パネル、それを張り合わせた後、さらに、いろいろなアッセンブリーを行って最終的なチェックを行った後と、4つの段階で出しています。この4工程の歩留まりを掛け合わせたものが「総合歩留まり」ですが、10月に5%からスタートして、6月の段階で85%、11月には88%まできました。各項目で90%取っても、これを4回かけると66%になってしまいますから、それぞれの工程が97〜98%という高い数字でないとなかなか88%という総合歩留まりは実現できない。この点でも、業界トップクラスを自負しています。歩留まりが悪いと、作ったものを、材料から、それまで投入した加工費から、全て一発で捨ててしまうことになります。従って、これが上がらないと原価は下がらない。非常に大事にウォッチングしている1つの指標になります。 生産ラインの今後の計画としては、静岡に建設中の第3ラインを2003年9月から立ち上げる予定です。生産能力は年間10万台で、第2ラインとほぼ同じ構成ですが、市場規模拡大に合わせ、一気に高い歩留まりを実現したいと思います。 2005年1月からの稼動を予定しているのが、甲府に計画中の第4ラインです。年間25万〜30万台という当社最大規模ながら、ライン効率を極度に高め、1台できあがるまでのラインのタクトタイムも半分にしたい。投資額は、第3ラインが10万台で160億円ですから、30万台で3倍の480億円のところを、半分に近い260〜270億円の設備投資でやろうと考えています。 ―― プラズマも各社からラインナップが揃いましたが、御社ではどのような商品づくりを考えていらっしゃいますか。 新島 これからは今まで以上に、きちんと差別化を行っていかなければなりません。毎年とはいかないかもしれませんが、かなり短いインターバルで、技術革新性を出していくことが必要です。常に世の中にパイオニアのプラズマ≠ニいうものを、技術に裏付けされた差別化を明確にした上で出していきたいですね。先程お話ししたように、今、先進技術力という意味では歩留まりも含めてトップ水準にありますから、さらに今後は、生産効率や投資効率も高めていきたい。それを、第4ラインで実現したいと思います。
プラズマを核にしたシアター ―― ホームエンターテインメントの世界が、より身近なものになってきますね。 新島 単にプラズマというだけではなく、これをコアにしたホームシアターにも力を入れていきます。プラズマの技術、光ディスク関連の技術、過去から培ってきたハイファイ音響の技術、さらにゲートウェイといわれるセット・トップ・ボックスの技術、また、関連会社の電話の技術も持っています。こういった個々の要素技術を集合して、ホームシアターをコンセプトに展開していきたい。 それにはまず、個々の技術で市場に出す単品商品において、しっかりとした評価を取ること。私は最近よく、「デバイス、デバイス」と連呼しています。というのは、システムのためのデバイスなのですから、ここでまず評価を得ることが第一歩だと思うのです。高い評価を取ったデバイスを、今度はパイオニアナイズしたシステム技術で、より簡単に、より高音質・高画質でお客様がお使いいただける付加価値の高い商品に仕立て上げていく。「ピュアビジョンシアター」という形で展開していけたらと思います。小さなミニコンに慣れたお客様には、そんな大きなシステムは難しいよと思われそうですが、やはり地道に提案していかないと、そうした市場も作り込めませんからね。 ―― カスタマイズシアターや254個のスピーカーを並べたデジタルサウンドプロジェクターなど、先進的な取り組みも、すでに、先行していますね。 新島 「ホームシアターというのはメーカーのエゴではないか。もっと使いやすい形にできないのか」とよく言われており、ズバリそこをテーマにして開発したのがカスタマイズシアターなんです。まずは1つのリモコンにする、それも、タッチパネルにすればもっと簡単だと、随分と苦労を重ねました。 システムの配線はなかなか難しいものですから、こちらできちんとセッティングを行います。PASS店様に対する勉強会にも力を入れており、そこを起点として、発展していくのが理想ですね。セッティング時にはパソコンを持っていって、お客様の好みに合ったタッチパネルの表現にしていくこともやろうと思います。当然他社のコンポーネンツを持たれている場合には、それもこのタッチパネルからワンタッチリモコンで操作できるようにカスタマイズします。 それから、もう一つ、PDSP―1(デジタルサウンドプロジェクター)を発売します。これも音響空間を再現する意味から非常に優れた製品で、システムの一つの形としてご提案していきます。254個のスピーカーユニットを並べていますので、なかなか大変なんですね(笑)。この商品にも、今後いろいろなバリエーションを考えていきたいと思っています。 「デジタルライブラリー」というコンセプトの提案も、そのひとつに位置付けられるものです。来るブロードバンド時代に狙いとするのは、パソコンのキーボードでネットに接続するのではなく、リビングでリモートコントロールにより簡単な操作でコンテンツを取りにいけるのが理想だと思います。ゆったりとした気分で、シアター感覚でコンテンツを楽しんでいただく、それがこの商品のコンセプトです。2003年上半期の米国導入へ向けて、現在、何人かのご自宅で実際に使っていただき、意見をいただいているところです。 新しい商品をお客様に ―― 商品を売る場所にも付加価値が求められ、地域密着型の店舗が、強さをだんだん出し始めているようですね。 新島 パイオニアでは、国内はPASS店、米国ではエリート店があり、何れも地場密着型のディーラーとして、現在非常にいい形で機能しています。ホームシアターでも、お客様と1対1で要望をコンサルティングして、家の中へどのように配線し、機器を配置していくか。図面を書いて確認してもらい、インストールしていきます。それだけの作業をこなせるのも、お店さんがチームを持っているからなんです。要望を叶えると同時に、足りないものはきちんと提案できますから、そこで、プラスして販売するやり方もできるわけです。右から左では、結局は価格になり、いかに大量に販売しても、実はあまり儲かっていないことが多いですからね。 新しい商品をどれだけお客様に密着して販売していけるか、その力が最後に優劣を決めるのではないかと思います。メーカーも販売店も、そのビジョンをしっかりと持っていないといけない。あくまでも「楽しむ」というエンタテインメントの世界ですから、そこに焦点を絞ってお客様と対話しながら商品提案と販売活動を行っていけば、間違った方向へ行くことはないのではないでしょうか。
PROFILE Akira Niijima 1944年3月9日生まれ。東京都出身。69年3月早稲田大学大学院理工学研究科終了、同年4月パイオニア入社。95年9月PioneerNorthAmerica.Inc取締役社長、97年6月パイオニア取締役、2000年6月常務取締役、01年1月ホームエンタテインメントカンパニープレジデント(現在)、02年6月専務取締役(現在) |