優秀な外観と実用性、シネマDSPの思想を完成させるスピーカー

プラズマや液晶など、大型の平面テレビが普及してくると、それとの組み合わせを意識したスピーカーシステムにも定型ができあがってくる。薄い映像ディスプレイに合致したトールボーイ型である。DVDプレーヤーやAVアンプはもちろん、プロジェクターまで擁するヤマハも、盛んにトールボーイ型を展開している。

いや、「盛んに」というよりは、「最も周到に」そのラインナップを構築しているといった方がいいだろう。つまり、一番大型のHXシリーズ。それにつぐMC、及びMCIIシリーズ。そしてここで紹介する10MMシリーズという3つのシリーズを揃えているのだ。

そのいずれもがトールボーイ型をフロントメインチャンネル用としているのだ。こういった縦長スタイルは省スペースのためであり、大画面との相性がいいのはもちろんだが、音が実質的な点=音源に近付くという音質上の意義にも注目したい。つまり前方に放射された音が、周囲に回り込みやすいのである。その効果と、ヤマハ独自のシネマDSPによる音場再生を重視したAVアンプとのリンクということに注目したい。単なる外観や実用性の次元を越えて、シネマDSPの思想を完成させるスピーカーという意義があるのだ。

ここでは、NS-10MMFを中心としたスピーカーシステムとシネマDSP再生によって、その実際を探ってみようと思う。



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木質系素材のMDF(Medium Density Fiber)高剛性キャビネットを採用。高さ約90cm、幅約18cmのコンパクト設計なので、リアスピーカーとしてもシンプルな設置が楽しめる。スピーカーターミナルはシングルワイヤリング専用。ウーファーには9cmコーンタイプユニットを2機、トゥイーターには2.2cmバランスドーム型ユニットを1機、それぞれ搭載することにより、豊かな中低域の量感と伸びやかな高音を獲得している。

ヤマハが提唱する「お茶の間DIGITAL THEATER」を堪能した

視聴したシステムは、フロントLRとサラウンドLRにNS-10MMF。センターにNS-C10MM。サブウーファーにYST-SW015という5.1チャンネル構成。アンプはDSP-AX540。これは、ヤマハが提唱する「お茶の間DIGITAL THEATER」の「Select 540」から、リアセンターを省略した構成だ。比較的低価格でまとめたのだが、プレーヤーについてはDVD-S2300を起用した。DVDオーディオやSACDのマルチチャンネル再生にも対応している高級機だ。

NS-10MMFは、ヤマハのスピーカー史の中でも最も長身細身の外形だ。口径9cmのダブルウーファーに対してジャストな横幅であり、これはいかにもスリムタワーだ。白い振動板が目を引くが、このウーファーユニットは、ヤマハスピーカーの象徴というべき「NS-10M」以来のペーパーコーンだ。伝統のシートコーンではなくプレス成型だが、紙パルプとしては同じ素材であり、軽量にして強靭な材料だ。またこのダブルウーファーで注目するべきなのは、外観は全く同じなのだが2つのユニットが微妙に異なっていることだ。つまりひとつのユニットを6層巻きのボイスコイルとして、低域の応答性を重視しているのだ。もう一方は二層巻きの広帯域仕様としている。どちらにしても、トールボーイ型のメインスピーカーに特化するためにコーン紙はより厚くしているのであり、NS-C10MMなどのウーファーと外見はそっくりだが、全く同一ではないという。

トゥイーターは「バランスドーム型」。これはドーム型の周囲に、コーン状のサブダイアフラムが一体成型されており、両者がうまくバランスして、高域の音響エネルギーが効率良く、放射するように設計されている。

サブウーファーのYST-SW015はヤマハ独自のA-YST方式の最新の方式を採用したもの。16cmの駆動ユニットに強力な電流サーボを掛けてバスレフポートを理想的なエアウーファーに仕立てているし、さらに底面へ直接放射するQD-Bass方式として、重低音の放射効率を高めているのである。

ちなみに、これらのスピーカー群は、MDFによる高い密度と強度のキャビネットを備えている。それ自体は珍しくないのだが、ヤマハの場合、自社工場にて家具や楽器も手掛けるノウハウの蓄積のためだろう、剛直すぎず、柔弱すぎずという音響的な最良点に設計していることに留意したい。

本機の実力を音元出版視聴室にて、じっくりと確かめる吉田氏。プラズマディスプレイはPIONEERの43V型をレファレンスモデルとし、大画面にいっそう映える、本機の高音質を味わった。


帯域バランスが優秀。映画は暗騒音まで描写し、シネマDSPの威力を感じる

CDやSACDのステレオ再生で感心したのは、帯域バランスがしっかりしていることだ。つまりサブウーファーに頼らずとも、腰のふらついた音にならないことだ。チェロの低音が空振りにならずに高密度で鳴り渡り、胴の響きが立体的に展開する様子など、高級オーディオで特に要求される所が意外にしっかり再生できるのは嬉しい限りだ。それに、マルチチャンネルオーディオがすこぶる精妙な音場感で楽しめるのも優れた点だ。SACDマルチで聴く長岡京室内アンサンブルなど、陽炎のように漂う響きの濃淡まで見えてきて感動する。外観はスリムだし、物理的なダイナミックレンジに限界はあるはずだが、足腰は十分鍛えられているようだ。そして全チャンネルのスピーカーが同系統の設計であり、ひとつの表現のためにピタリと同期して動作する利点をここで再確認させられた。

その利点は、映像ではもっと明らかになった。DVD「フォッシー」のような舞台のライヴは、客席のざわめきがすこぶる立体的だ。

それと、暗騒音の距離感がよくわかるのには感動してしまった。そして電気的に作られた残響が、そのようなライブな響きの上に乗ってきれいに3次元定位しているのが素晴らしい。微小なレベルまで全チャンネルがよくトレースするからだろう。映画では、そのままでも部屋全体が鳴る印象が魅力なのだが、Sci-Fi(サイファイ)などのシネマDSPによる音場創成が冴え渡る。空間の構成に曖昧さがなくなり、その上で荘重な大空間らしい響きが醸し出されるのだ。これも、全チャンネルの音質傾向がよく揃っているからだろう。それに、台詞の明快さとボディ感が素晴らしい。歯切れがいいだけでなく体躯の厚い響きが聞こえるのだ。だからこそ張りのある男声、さわやかに抜ける女声を描き分けられるのだ。

派手な効果音はサブウーファーの威力を実感する。そのシリーズ最高級のYST-SW1500などと相似した設計思想だからだろう、低域が水膨れせず、楽々と大きな音圧を繰り出す印象だ。他のチャンネルとのつながりもすこぶる良好。これが能動的に低音の放射を制御するA-YST方式の威力なのだ。



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スリムタワー型スピーカー「NS-10MMF」にベストマッチする、10MMシリーズのセンタースピーカー「NS-C10MM」。今回のサラウンド試聴も本機と組み合わせて行った。サイズを超えた、驚きの高品位を味わえる、最適な組み合わせにより、よりいっそう本格的なホームシアターを実現することができるのだ。

最小の形状から最大の視聴空間をイメージさせるミラクル

視聴したスピーカーシステムは、そのままでもまとまりのいい、表現力に富んだ音が魅力だが、シネマDSPの真髄がこういう小規模システムでも味わえるのが素晴らしい。これには、各スピーカーの音質傾向が揃っていること、またそれがローレベルでの音のふるまいをトレースする能力を高めていることが大きな要因だ。それに長身細身の形状のために、背後に回る音が音質と音場感の両方によく働いているのだ。もちろんサブウーファーの良質な低音もそれに加勢する。加えてアンプのDSP-AX540が優秀だということも忘れられない。適度なダイナミックレンジにて、明朗かつ質感表現力に長けた音をひねりだす基本性能は見事だ。

これだけ条件が揃えば、シネマDSPなどの音場創成が音場空間を高品位にしつらえるのは当然だろう。もはやトールボーイ型スピーカーは定型になっているのだが、ヤマハの場合は、シネマDSPという特別なオプションがその潜在能力を引き立てることになるわけだ。質をともなった省スペースの本当の意義とは何か?こう考えると、このスリムでシンプルな形状のスピーカー群は、その形と音場創成の思想が相たずさえて、周囲の空間をより広くイメージさせるためにあることに気付かされる。最小の形状から最大の視聴空間をイメージさせるミラクル!そこにヤマハの知恵が結晶している。


NS-10MMF specifications】
形式:2ウェイバスレフ 防磁型
ユニット:9cmコーン型ウーファー×2、2.2cmバランスドーム型トゥイーター
再生周波数帯域:55Hz〜35kHz(-10dB) 
インピーダンス:6Ω 
許容入力:70W
最大入力:200W(EIAJ)
出力音圧レベル:86dB/2.83V,1m
クロスオーバー周波数:6kHz
外形寸法:179W×899H×234Dmm 
質量:9.8kg

NS-C10MM specifications】
形式:2ウェイバスレフ 防磁型
ユニット:9cmコーン型ウーファー×2、2.5cmバランスドーム型トゥイーター
再生周波数帯域:100Hz〜33kHz
インピーダンス:6Ω 
許容入力:50W
最大入力:125W(EIAJ)
出力音圧レベル:91dB/2.83V,1m
クロスオーバー周波数:7kHz
外形寸法:312W×101H×141Dmm 
質量:2.3kg

YST-SW015 specifications】
形式:アドバンスド・ヤマハ・アクティブ・サーボ・テクノロジー
ユニット:16cmコーン防磁型
再生周波数帯域:30Hz〜200Hz (-10dB)
アンプ出力:70W (100Hz、5Ω、10%T.H.D)
消費電力:38W
外形寸法:280W×325H×320Dmm
質量:9.2kg

ヤマハ株式会社のホームページ:http://www.yamaha.co.jp/
「NS-10MMF」の紹介ページ:http://www.yamaha.co.jp/product/av/prd/speaker/ns10mmf/
「NS-C10MM」の紹介ページ:http://www.yamaha.co.jp/product/av/prd/speaker/nsc10mm/nsc10mm.html
「YST-SW015」の紹介ページ
http://www.yamaha.co.jp/news/2003/03020601.html
「DVD-S2300」の製品レポート
http://www.phileweb.com/greatbrand/yamaha/33.html
「DSP-AX540」の製品レポート
http://www.phileweb.com/greatbrand/yamaha/37.html

【問い合わせ先】
ヤマハ株式会社
AV・IT事業本部
お客様相談センター
TEL/0570-01-1808
携帯・PHS/053-460-3409



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