プラズマ開発の歴史を常にリードしてきた富士通ゼネラル
 富士通ゼネラルは世界に先駆けてプラズマディスプレイを製品化したメーカーです。このことは関係者には周知のことですが、一般には知られていないかもしれません。
 それから約10年、最近のプラズマテレビの画質改善成果を見ていると、隔世の感があります。デジタルの世界ではよくドッグイヤーという言葉を使いますが、たしかに技術革新の速度には目を見張ります。
 とはいえ、それら技術のほとんどは、単なる思い付きやひらめきではなく、地道な研究と経験の積み重ねによるものです。
もちろん技術者の脳裏には小さなひらめきがあります。しかしそれは、あるステップに立ったときに生まれるもの。ベースになる技術蓄積が全くないところに突然降って湧くようなものではありません。当然のことではありますが……。

 プラズマディスプレイの技術にはひじょうに長い歴史があります。その原理はテレビ放送50年の歴史以前にまで遡ることができます。それはともかく、現在のような具体的製品が視野に入るようになってからでも、およそ20年。数諧調しかないモノトーンのデータディスプレイに始まり、カラー化、そしてフルカラー化へと一気に階段を駆け上りました。その間、研究と開発を支えたのは「夢の壁掛けテレビ」と「ブラウン管では不可能な大型画面」でした。その背景にはテレビ放送のHD化(ハイビジョン化)があったことは言うまでもありません。
 ただし、輝度が足りない、諧調が不足だ、消費電力が大き過ぎるといった課題が次々と浮上し、並行して生産技術の困難にも直面しました。その間、富士通は常に難問克服の先頭に立ち、技術をリードしてきたといっていいでしょう。
 富士通ゼネラルはその富士通が作るプラズマパネルを用い、具体的な製品化への道筋をつける役割を果たしてきました。


プラズマ黎明期には用途開発までこなさなければならなかった
 ここ1、2年でプラズマディスプレイは、家庭用テレビを視野に入れられるだけのコスト削減を実現しましたが、それ以前は小規模な量産ラインが稼動したばかり。歩留まりも悪く高価格ゆえ、製品は業務用途に活路を見つけなければなりませんでした。業界でいうところの公衆表示用(駅、空港、劇場、公共施設、商業施設などの各種案内表示)ディスプレイです。
 しかし、製品導入の初期段階で、それは使う側が求めてくるわけではなく、作る側が用途提案をし、それに適した製品を開発するという順序で進行せざるを得ませんでした。
 つまり富士通ゼネラルは、プラズマディスプレイの黎明期から、その用途開発と製品開発の両方をこなさなければならなかったのです。

 今思えば、それがPlasmavision(富士通ゼネラルの登録商標)の基礎となり、後続メーカーにないPDP(プラズマディスプレイ・パネル)専用のフルデジタル映像プロセッサー回路=AVM(Advanced Video Movement)の開発に結びつきました。
 プラズマのような固定画素ディスプレイでは、まず、入力されるアナログ映像信号をデジタル信号に変換します。更に入力映像の走査方式をプログレッシブ変換し、一括表示方式に適合させる必要があります。しかも画素数をPDPの画素数に変換しなければなりません。画素変換(スケーリング)という作業です。


ブラウン管とプラズマの発行特性の違いが難問
 この一連の作業は、映像の静止画解像度と動画解像度を左右しますが、テレビ映像はその双方を含みますから、どちらか一方に秀でていてもトータルの画質が良くなるとは言えず、巧みに双方のバランスを取らなければなりません。併せて画素変換も行なうわけですから、それら回路間の連携が余程うまく取れていなければ、画質が映像の内容に左右される得手不得手の多い映像になってしまいます。
また、プラズマの場合、SD(NTSCやPAL)ではアップコンバート、HD(1080iや720p)ではダウンコンバートが行なわれるので、輪郭補償も欠くことはできません。
 更に更に、プラズマとブラウン管では発光のメカニズムも違い、色表示範囲も異なるので、ブラウン管表示を標準にして作られている映像をプラズマ表示に最適化する必要もあるのです。

 発光特性が異なるということは、ブラウン管表示を目安にテレビカメラ側で行なわれているガンマ補正とは適合しないということですから、プラズマ側で最適なガンマ補正を施さなければなりません。発光特性に関係する事柄は、他にも色温度の問題など、数多く指摘されています。
 他社よりも一足早くプラズマを手掛け、業務用途製品で鍛えられた富士通ゼネラルの設計陣は、そうした諸問題に対処するために、プラズマに特化した映像プロセッサー回路の必要性を痛感しており、それがAVMの開発を促がしました。

フルデジタルで映像を処理する富士通ゼネラル独自のビデオプロセッサー、AVM。このデバイスの優秀さが、同社製プラズマディスプレイの高画質を実現した

100%プラズマ専用の回路として開発されたAVM
 筆者のような第三者から見ると、富士通ゼネラルがブラウン管テレビの製造から遠ざかっていたことも幸いしたと思います。
 ゼネラル時代、業界内でも一目置かれるようなテレビ受像機を作っていたことを知る読者は少なくなっています。しかし、それはそれほど遠い昔のことではなく、社内にはその時代を経験した技術者も、多くはありませんが存在しました。彼らは年を経て管理職や経営に携わる地位にあり、単なるノスタルジアではなく、映像ディスプレイ技術の重要性を認識していました。彼らの胸の内には、ブラウン管テレビの製造を続けられなかったことに対する忸怩たる思いもあったはずです。
 その彼らがプラズマという新しいデバイスを手にしたとき、好機の到来を確信したであろうことは容易に推測できます。
 プラズマでトップブランドを築くには何をしたらいいか。それはあらゆる入力映像、あらゆる設置場所で他社の製品を越える画質を実現することでした。
 若い技術者たちは、彼らの期待に応えるべく懸命の努力を惜しまなかったものと思われます。と同時に、自分たちがブラウン管テレビの製造という軛(くびき)から自由であることに感謝したのではないでしょうか。

 というのも、AVMの開発は100%プラズマ専用の回路として進めることができたからです。先に述べたように、プラズマの映像プロセッサーは、複数のタスクを時系列的に順を追って処理するのではなく、互いに連携を取りながら動作させなければうまくいかないのです。
 たとえ話で言えば、AD変換やip変換によってボケてしまった映像を画素変換すれば、ますます甘くなってしまいますし、それに輪郭強調をかけても思うような尖鋭感は出てきません。そればかりか、シュートやリンギングのようなノイズが増加するという副作用まで顕在化する可能性があります。
 また、発光特性や色再現特性の違いを補整するにしても、それをどの段階でやるのかによっても、望ましい成果が得られないことが考えられます。
 だからこそ、プラズマの映像処理回路は、複数の処理を互いに関連付けて行なう必要があるのですが、ブラウン管テレビメーカーがプラズマを手掛ける場合、既存のブラウン管テレビ用回路をプラズマ用に手直しし、必要な回路を後付けで加えて兼用することになるため、処理や補整の効果が限定されてしまうというのが現実です。

AVMの概念図。ADコンバーター、解像度変換、プログレッシブ変換、色空間変換のそれぞれがワンチップに統合されていることがわかる。これらの処理をプラズマディスプレイ専用のアルゴリズムで行うため、ディスプレイの特質に合った高画質が得られる

高画質なハイコントラスト映像を実現し、家庭でも好まれる仕上がり
 それに対して富士通ゼネラルのAVMは、プラズマ専用回路であり、FHP(富士通と日立が合弁で作ったPDP製造専業会社)独自のALIS方式パネルのみならず、他方式パネルをもあらかじめ想定した汎用回路として設計されています。何故なら、冒頭に述べたように、富士通ゼネラルは公衆表示など業務用市場で圧倒的なシェアを持っており、そこではあらゆるサイズのパネルが求められるからにほかなりません。
 現に富士通ゼネラルは、家庭用としても61型を筆頭に50型、42型製品を既に市場に投入しており、今後は業務用に並ぶ分野として拡大していく方針を固めました。
 その意味で、今回の新製品『P42HHA10JS』と『P50XHA10JS』は、これまで富士通ゼネラルが家庭用として販売してきた製品とは一線を画すものであると考えていいでしょう。
 特に50型は、高輝度化と偽輪郭の低減を意図して駆動方法に手を加えた新パネルを得て、富士通ゼネラルとして初めて、家庭用として消費者に好まれるハイコントラスト表示を実現した製品に仕上がっています。

 これまでの製品は、家庭用に開発されたものでも、業務用に近いコントラストの映像を作っており、専門家の評価は高いものの、店頭に展示すると映像にインパクトがないと指摘されてきました。筆者としては、その生真面目さに好感を持っており、消費者には、色かぶりの少なさ、ホワイトバランス・トラッキングの正確さ、S/Nの良さ、ガンマ補正の的確さ、動画解像度の高さに着目してもらえるよう論評してきました。
 しかし、筆者が販売員として売場に立つなら説得もできますが、そうもいかないとすれば、他社製品に見劣りしないだけのハイコントラスト映像を作ることを容認せねばなりますまい。
 ただ、そうは言っても、富士通ゼネラルの設計者は闇雲にハイコントラスト映像を作ったわけではありません。店頭で見てもらえればおのずとわかるでしょうが、単にハイライトをローライトを強調し、色を鮮やかにして一見のハイコントラスト感を作るのではなく、可能な限り諧調の再現を殺さない努力をしています。単にギラギラとした映像を作ることに対して、設計者の矜持が許さなかったからだと思います。


エミー賞受賞メーカーの実力を店頭で確かめよう
 また、富士通ゼネラルが誇るAVMが最大限に生きるファインモードでは、これまでどおりの強調感のない映像が作れます。フィルム映像の持つナチュラルなコントラスト感と、それによる奥行感、赤や緑を不自然に強調することのない素直な色再現性、S/Nの良さは健在ですし、パネル駆動の改善による偽輪郭低減効果も認められます。微妙な空の陰影、明暗の推移表示も見事です。
 結局のところこの新製品は、映像表示の幅を広げたと言えるのかもしれません。店頭できれいだなと感じさせる能力を身につけたことで、富士通ゼネラルの家庭用製品シェアの拡大が図れるとすれば、消費者もまた、優れた製品を手に入れることにつながり、双方が満足を得ることができるというわけです。

 ちなみに、カタログやホームページで詳しく報じられていますが、富士通ゼネラルのプラズマディスプレイに対する長年のリーダーシップと技術開発に対し、それが放送技術およびテレビ技術の発展に寄与したと認められ、2002年度エミー賞が与えられました。エミー賞には番組部門賞と技術部門賞がありますが、これまで技術部門賞に輝いた技術はいずれも優れたものばかりであり、それらと同列に叙せられたことは、富士通ゼネラルのプラズマを高く評価してきた筆者にとっても喜ばしい限りです。
 この記事の読者も、改めてエミー賞受賞メーカーのプラズマテレビが、どんな画質なのかを店頭で確認して欲しいと思います。

両機の映像調整画面。「プロセッティング」に入れば、より詳細な調整が行える

SPECIFICATIONS

【P42HHA10JS】
画面サイズ:42V型ワイド(922W×522Dmm)
表示画素数:1024×1024ドット
入出力端子:ビデオ入力1、S映像入力1、D4 端子入力1、RCA色差入力1、 アナログRGB入力1、デジタルRGB入力1(HDCD対応DVI-D)、音声入力3、スピーカー出力20W+20W
消費電力:405W
外形寸法:1037W×642H×85Dmm
質量:28.5kg 

【P50XHA10JS】
画面サイズ:50V型ワイド(1106W×622Dmm)
表示画素数:1366×768ドット
入出力端子:ビデオ入力1、S映像入力1、D4 端子入力1、RCA色差入力1、 アナログRGB入力1、デジタルRGB入力1(HDCD対応DVI-D)、音声入力3、スピーカー出力12W+12W
消費電力:540W
外形寸法:1214W×728H×98Dmm
質量:45.0kg 


■富士通ゼネラル(株)ホームページ:http://www.fujitsugeneral.co.jp


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