新製品批評


北欧ならではのピュアな音質を持ったスピーカーケーブル
 かつてヨーロッパ・サウンドという分類があった。しかし、オーディオ機器の性能が高度に達成する中で、音質に対する方向は共通の基準の上に成り立ち、世界のオーディオ製品は同じ視点で価値感が問われる時代になっている。
 ところが、全く感性が共通化したわけでもない。実は最近、もっとも興味を持っているのは北欧圏の音質に対する文化である。それは主に音楽ソフトの音質傾向から注目し始めた。これは明らかに違っている。非常に透明でニュートラルであり、繊細な表情をていねいに冴えた音質である。演奏を再加工して音を創ることは、ほとんどみられない。純粋な音質は最近のオーディオに貴重なプログラムとなった。

 代表的なサウンドはノルウェーのレインボウ・スタジオで収録されるECMレーベルのジャズである。フィンランドからは民族楽器のカンテレを録音したアルバムに、その洗練されたサウンドに圧倒された。北欧のサウンドに対する感性は驚くほど純粋である。透明で精彩な音質がなぜ追求されるようになったのだろう。
 スウェーデンにスープラ(SUPRA)というメーカーがある。このブランドが開発したスピーカーケーブルを試聴して感激した。これほどピュアで解像度の高いケーブルは経験がなかったからだ。透き通るように純粋に表現する、まさに北欧ならではのサウンドである。


創業より四半世紀を数える「SUPRA」ブランド
 スープラはスウェーデンの第2の都市、イエーテボリの北約120kmに位置するルジュングスキーにあるケーブルメーカーで、1976年トミー・ジェンビングが当時の常識を超えた、新しい設計のスピーカーケーブルを世に問うために創業された。27年前である。スピーカー端子がまだ細いケーブル用の時代に、導体構造を強化し音質への効果を提案した。

 その後、ケーブルのインダクタンス成分がスピーカー回路で信号ロスが多くなることに注目し、独自の三層構造を開発、低インダクタンス化を図ったSUPRA PLYは高い評価を得た。
 スープラはケーブルに科学を導入して、理想の構造に挑戦してきた。中でもインダクタンスの影響は重要なテーマに据えて研究することになった。


画期的な工作機械により実現した同軸反転スパイラル構造
 「スォード」は低インダクタンス化を徹底した構造設計に特徴がある。スープラのケーブル設計の原点としてとらえたこの問題は、長い間スープラの頭の中で理想を実現するチャンスを待っていたのである。通常の生産技術では実現できない構造がJENVIN社の専門技術によって可能になった。同社はこのために画期的な工作機械を開発した。
 「スォード」は外径9mmのケーブルを並べた平行構造で、これを分解してみると巧みな同軸反転スパイラル構造が現れる。細かく分析すると、中心部にポリエチレンのコアがあり、その外周に右巻きに絶縁されたリッツ線導体が一定の間隔を持って巻かれスパイラル構造を作り、密着していない。

 芯線は一層巻きで接触しない間隔を開けている。その上に薄い絶縁皮膜をかぶせ、今度は反対の左巻きでスパイラルしている。こうした二重スパイラル導体は終端で一体にして接続、プラス、あるいはマイナス導体として使う。このスパイラルのピッチが急であるため、まるでコイルのように見える。ケーブルが1mとしても導体の長さはその何倍にもなるはずだ。どんなに工夫しても導体の線長は短い方が有利に働く、と考えたくなる。


スォードのカットモデル。
実際に2本の導体が2つの層で逆方向に巻かれているのがわかる

低インダクタンス特性の利点を実感した
 ところが、試聴してみると、音の鮮度は抜群に高い。まるで3mの長さを1mで接続したかのような新鮮なサウンドである。これはなぜなのだろう。これが低インダクタンスのなせる効果ではないか。実は低インダクタンスの特性を持つケーブルはいくつか経験があり、同じ音ではないが共通したメリットを感じていたのだが、今回スープラを聴いてインダクタンスはケーブルにとって重要なポイントであることを確信した。
 ケーブルの電気的な性質は電気抵抗、キャパシタンス、インダクタンスの複合で、これが音質にどのように関係するかは想像の世界である。ケーブルの音質の良し悪しはそうしたことで判断できないことでもあり、結果が全てであるからだ。ただ、何年も膨大なケーブルを試聴してきた経験から、基礎理論は重要であって、関連していることを最近思うようになっていたのである。

 そこでインダクタンスなのである。キャパシタンスも伝送路において問題になるはずだが、インダクタンスはケーブルに直列に入るオーディオ信号の抵抗勢力という特徴がある。
 その点でキャパシタンスは間接的、インダクタンスは直接という点で影響が大きい。そう解釈するのが理にかなった結果であると実感した。
 「スォード」は固有のインダクタンスは限りなくゼロに近く、導体は絶縁されたリッツ線であるためスキンエフェクト(表皮効果)によるロスも解決している。なお、インダクタンスとは、導体に交流電流を流したときに発生する磁気エネルギーが電流を流しにくく作用する性質で、オーディオ信号に対して抵抗成分になり周波数に比例して大きくなる。


ご覧のバナナプラグは特注品。標準仕様はY型端子となる。

透き通るようにクリアな音質。あたかもケーブルが存在しないかのようだ
 スープラの説明には優れた過渡特性、時間差を感じさせない、あたかもケーブルが存在しないかの如く、と記されている。試聴してみると、これはなるほどあたっている。極めて高速に反応しスピードがありS/Nが高く、デリケートな中域、高域の情報もにじみ、濁りの発生がみられず見事な解像度で倍音スペクトラムが伸びきっている。純粋でレスポンスのよさに圧倒される様子は、スピーカーが限りなくパワーアンプに接近した印象だ。

 透き通るように透明で低音は高速にエネルギーが発生するため鈍さがなく、強力なダンピングで分解力が高く、まさに高品位なスピーカーケーブルの逸品といえるだろう。
 昨年秋にJBLの4348を鳴らすため大阪へ持参したが、大型マルチウェイを鳴らすには予想したとおりエネルギーの一体感が得られた。「スォード」は中域のエネルギー力があり、こうした要素も大口径ウーファーをコントロールするには重要なのである。

SUPRA製品の取り扱いは、サエクコマース(株)が行っています。

■サエクコマース(株)ホームページ:http://www.saec-com.co.jp
■サエクコマース(株)電話番号:03-3588-8481


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