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Phile-web >> 製品批評 >> TH-AE700

 
1/60秒ごとに瞬きして絞りを変化させ、コントラストを最適化するシーン連動型のダイナミックアイリス

本機の画質は、自宅の視聴小屋『BoisNoir』に持ち込んでテストしている。DVDで再生した映画は久しぶりの時代劇超大作、『トロイ』。すでに婚約者のいる娘のヘレンをトロイの王子パリスに奪われたアガメムノンが、彼女を奪回するために、ギリシャ同盟軍を率いてトロイに攻め入った時の物語である。強い陽光の下でのコントラストの強い戦闘シーンと、松明だけが灯の暗い夜のシーンが混在しているこの映画は、液晶プロジェクターにとって、かなり難しいソフトである。

画質調整を行う時のポイントは、暗いシーンの処理。夜は人間の苦悩が現れる時間だという演出意図にそった調整が望ましいが、黒が浮き気味になるプロジェクターでは、人物の背景が沈みきらず、苦悩の表情が際立たず、また、ロングショットでのコントラストが付きにくく、ぼやけた階調の画面となりがちだ。前記、ダイナミックアイリスの優位性は、こんな時にはっきりと現れる。本機が再現する黒は漆黒で、黒に近い暗部も決して浮き上がらず、その分、人物の苦悩の表情がくっきりと表出されている。

TH-AE700は、映画再生に適した〈シネマ1〉〈シネマ2〉〈シネマ3〉という〉3つのモードがあり、それぞれ異なるガンマ特性を持っている。

 

ハリウッドを代表するカラーリスト、デビッド・バーンスタイン氏(奥)と共同で画
作りを行う、「TH-AE700」開発者の明山氏(手前)

〈シネマ1〉は、ハリウッド切ってのカラーリスト、デビッド・バーンスタインが監修したモードで、ごく自然なニュアンス、映像の佇まいが得られることから、幅広く様々なジャンルの作品をカバーすることができる。〈シネマ2〉は、くっきりとメリハリのあるコントラスト表現を狙ったモードで、SF映画、アクション映画、アニメー作品などで効果的なことが多い。〈シネマ3〉は、昔のテクニカラーで撮影された映像のように、濃厚な色彩を表現するのに向いている。

わたしが『トロイ』のために最終的に選んだのは〈シネマ1〉。日中行われる戦闘シーンの映像は、すでに十分なコントラストが付けられているので問題はなく、夜のシーンでの人間たちの苦悩をくっきりと表現したかったからである。

そのニュアンスの素晴らしさは、有名な「木馬」のエピソードでも示される。戦利品として城内に入れられたった巨大な木馬から、夜、ギリシャ同盟軍の戦士たちが上張りを剥いで姿を現し、トロイの街に散らばっていくシーンのコントラストは絶妙で、夜空は漆黒に締まり、それ以外の部分では黒浮きがなく、くっきりした階調が維持されている。

本機の優れた画質と、リーズナブルで先進的な画質調整機能を評価すれば、ずばり、スリースター(3っ星)だ。