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Phile-web >> 製品批評 >> TH-AE500 >> TH-AE500の画質評価レポート


ハリウッドとの関係は、スムーススクリーンのときから実は始まっていた。同社にはPHL(パナソニック・ハリウッド・ラボ)という施設があり、ハリウッドの現地で10年ほど前から映像のデジタル化など、共同で研究を行う下地が育っていたからだ。

ハリウッドのゴールデンアイ、デビッド・バーンスタイン氏。くわしくはこちら

だが今回は気合いが違う。TH-AE500の開発ターゲットは、当初から「ハリウッド画質」だ。そのためにはまずプロジェクター自体の能力を研ぎ澄ませておかなくてはならないが、前述の内容ならまず役不足はない。ならば最終的な画作り、感性領域の表現力をハリウッドのトップカラーリストの手に委ねようではないか。こうしてパナソニックの開発陣はTH-AE500を携えハリウッドに飛んだ。“ゴールデンアイ”と呼ばれるデビッド・バーンスタイン氏との共同開発に入るのである。彼は『タイタニック』、『ムーラン・ルージュ』、『Xメン』など著名な作品のDVDテレシネを実際に担当してきた人物。詳しくはこちらを見てほしいのだが、特に色彩表現や人物の肌、それに微妙なフィルム階調にこだわって画づくりを進めたという。

いよいよ視聴である。一見してスクリーンの隅々まで光のテクスチャーが豊かで、そこかしこに緻密な文様が描かれる。S/N感が高く実にクリーンで清々しい。HDパネルやスムーススクリーンの効果は明らかだが、では話題の“ハリウッド画質”とは何か。どこに仕込まれているのか。ノーマル、ナチュラルなど6つある映像モードのうち「シネマ1」がそれである。見慣れた『ショコラ』などのDVDソフトがふっと穏やかなトーンになり、色温度が下がっている。特にカラー系の情緒的でデリケートな描かれ具合は、ため息がでるような美しさなのだ。このしっとりと落ち着きのある雰囲気に対して、「シネマ2」の方はガンマを少し持ち上げ、色温度も高めに設定。色あいにややクールさを漂わせるコントラスト重視の画づくりである。

映像ファンにとって嬉しいのは、これら6モードに対して、プロジェクターAIの3つのモード(AI1、AI2、AIオフ)が自由に組み合わせられることで、使いこなしのコツといってよいものだ。なお従来の「スポーツ」と「ミュージック」はビデオ素材系ということで、ひとつに整理された。


では改めて映画ソースでの画質チューンに挑戦してみよう。プロジェクターAIが効を奏するのが『ロード・トゥ・パーディション』だ。雨の日の決別…。このシーンはローライトな室内でマシンガンの黒いケースが、どう質感豊かに描かれるかが勝負だ。「シネマ1+AI2」では黒がすっと沈む。と同時に細部には微妙な光がまわってゾっとするようなリアリティとなる。「ひとつだけやり残したことがある」とトム・ハンクス。だからこそ、その後に続く雨の乱射シーンでの、人物たちのシルエットが印象的に浮かび上がるのだ。監督がモノクロで撮りたかった、という気持ちが伝わるし、雨粒の細かさや車のボディでの跳ね返りなど、まるでフィルム映画を見るような柔らかさに感嘆した。

それとは対照的に派手でカラフルで攻撃的な画づくりといえば、『007/ダイ・アナザー・デイ』だろう。これは「シネマ2」がいい。青白い氷原の凍てつくようなクールさや、カーチェイスのスピード感など、メリハリが効いたインパクトのある表現だ。ハル・ベリーが海から登場するお馴染みのシーンは、ダイナミックシャープネスを試すのにいい。背景は明るい海だし、普通なら肩や腰などのライン(輪郭)がガタガタになるとことろだが、妙なリンギングも乗らずきれいに描かれた。これにも思わず見入った次第だ。

さらに、ハイビジョンソースの濡れたような色階調が美味しい。赤、黄色、青といった原色系はもちろんだが、見事なのはその微妙な中間色だ。女性の肌のはり、自然なみずみずしさなどちょっと液晶とは思えない。TH-AE300では醸し出せなかったディテールの解像感など、さすがにHDパネルらしい余裕の描写である。地上デジタルのハイビジョンウォッチングがますます楽しみだ。


使い勝手では、どこにでも置けるこのコンパクトさと、従来からの縦横のデジタルキーストンが重宝だ。6畳間に80インチの近距離投射も健在。しかもこれはハイビジョンである。ファンノイズも、1デシベル下がって27デシベルになった。30%減という感じで、確かに静かである。

本機の背面端子部(クリックで拡大)

端子についてはコンポーネントが2系統。DVI端子は、晴れてHDCP対応となったのが嬉しい。さらにトリガー端子も初装備し、ランプが点灯したときに12ボルトが出て、カーテンやスクリーンが自動的にシステムコントロールできるようになった。インストーラーや米国市場で要望の強かったものだが、SDカードとスピーカーの音声系を省いた替わりの、歓迎すべきシアター機能の追加といえそうだ。

見てきたようにTH-AE500は、パナソニックの先進のテクノロジーとハリウッドの感性が高い次元で融合した製品。プロジェクターは初めてという入門者からかなりのマニアまで、ホームシアターの裾野を広げる切り札として、大きな話題となるのは間違いない。