新製品批評
Phile-web >> 製品批評 >>MARANTZビデオプロジェクター VP-12S4

 
ジェナム社のGF9350。共同作業を行ったマランツ向けの刻印が為されている

DVD、ハイビジョンと映像ソースが多様化するにつれて、I/P変換、スケーリング、ノイズ低減などの映像処理を受け持つビデオプロセッサーの重要性があらためてクローズアップされている。

家庭用機器でもハイビジョンを視聴・録画する機会が増えるとともに、DVDビデオの画質改善も依然として大きなテーマであり、ビデオプロセッサーのさらなる性能向上を求める声は日増しに高まっている。DVDプレーヤー、ディスプレイなど映像機器で採用例が多いファロージャのDCDiは完成度の高いプロセッサーだが、10bit処理対応の新プロセッサーが登場しておらず、現行チップはハイビジョン信号に対応していないなど、いくつかの制約が指摘されている。

そうした状況のなか、マランツは、これまで搭載例のないまったく新しいビデオプロセッサーを、VP-12S3の次世代機に相当するDLPプロジェクターに搭載することを決断した。この新しいプロセッサーの性能はDCDiを確実に、しかも大きく上回っており、仕様から見る限り、その画質改善効果は中途半端なものではあり得ない。現在開発が進められている最新モデルが市場に導入された時点で、大きな反響を巻き起こすことは必至だ。技術の新規性という視点で見ると、おそらく数年に一度の改革といっていい。

 

ジェナム社の本社ビル。ジェナム社は1973年、カナダ オンタリオ州バーリントン市に設立された。全世界に顧客を持ち製品を出荷しており、活動拠点をカナダ、日本、イギリスなどに持つ。

新しいビデオプロセッサーは、カナダのジェナム(Gennum)社が開発した「GF9350」である。ジェナム社は放送機器用半導体メーカーとして豊富な実績があり、HD対応の放送機器のほか、データ通信機器にも多くの製品を供給しているという。マランツとはVXP9350の開発を介して共同作業を進めてきた経緯があり、マランツの次世代DLPプロジェクターに載る同チップにはマランツの社名も刻印される。ジェナムにとって民生機市場への展開は初めてのことであり、マランツとの提携、共同開発はメリットが大きいはずだ。

 
GF9350に搭載された技術は大きく4つに分けることができる。順を追って説明していこう。

プログレッシブ変換を最適化処理する「トゥルーモーションHD」は、従来方法(写真下)で生じている人物の輪郭のボケも取り切る
まず、フル10bit動作を実現する「リアリティエクスパンジョン」。階調再現力を大きく改善し、特に大画面では絶大な効果を発揮する。いずれ主流になると思われるが、GF9350をはじめ、フル10bit処理を導入したプロセッサーはまだ少数派である。普及が始まりつつあるHDMI規格もいずれ10bitに対応するといわれており、その動きを先取りしている点を注目しよう。現行プロジェクターはスケーリング処理を8bitで行う製品が大半で、最新DVDプレーヤーに比べて見劣りするという事実を否定できないのだが、GF9350を積んだ次世代プロジェクターでは、その点、既存モデルを大きく凌駕することになる。

次に、「トゥルーモーションHD」と名付けられた独自のIP変換技術。GF9350のメインフィーチャーとして、同技術がまさに画期的な性能を実現した。対応する信号フォーマットは1080pまで及び、1080i→1080p、1080i→720pなどHD信号を含む多彩なIP変換をサポートするのである。

今後、HD信号処理の需要が高まることは間違いなく、そこにジェナム社が放送機器用半導体開発で培ってきたノウハウが生きてくる。フィルムモードへの対応についても洗練された性能を誇り、規則性を逸脱した信号を検出しても次のフレームでたちまち修正するという、驚くべき高速動作が自慢だ。そこまで優れた訂正能力を身に付けることができたのも、プロ機器が求める高い指標をクリアしてきたからにほかならない。
 
「フィデリティエンジン」はHDTV素材のディテールを強調しつつ、適応型のノイズ除去を行う。写真上に見られるノイズ感が写真下では取り去られた
同じく「フィデリティエンジン」の効果。男性の顔に現れたノイズがきれいに取り去られているが、ディテールは損なわれていない

3番めの技術は「ファインエッジ」と呼ばれる補間処理技術で、文字通り輪郭再現の最適化、特にジャギーの改善に絶大な効果を発揮するという。ジェナム社によると、ファインエッジ処理を行っても分解能の低下がほとんど見当たらず、既存技術との差はかなり大きいと思われる。動解像度の改善はスクリーンが大きいほど、また映像信号の解像度が上がるほど顕著に効いてくるので、実際の効果に期待が高まる。

4つめに「フィデリティエンジン」と呼ばれるノイズ除去・ディテールエンハンスアルゴリズムを積んでいる。1画素単位で4-4-4処理を行うというから、まさに気が遠くなるような演算量だ。GF9350の演算速度の速さを実証する技術のひとつといってよい。シュートをつけることなくディテールの切れを改善することと、中間輝度周辺で目立ちやすいノイズを効果的に抑えることが目的で、こちらも「ファインエッジ」同様、オリジナルの映像信号に含まれる情報を犠牲にすることなく、大きな効果を発揮することが期待できる。サンプル画像を見ればその効果の大きさは一目瞭然だ。

 

 
これだけの性能を実現したGF9350の位置付けは、ジェナム社のなかでもさすがに最上位に相当しており、当面はハイエンド機への搭載が中心になりそうだ。

マランツのVP-12S4は世界で初めてGF9350を搭載する製品になるが、同社が同プロセッサーを選んだ理由は価格や利便性ではなく、あくまでもクオリティにあるという。ただし、ファロージャのDCDiを積むVP-12S3など従来機では3チップ+画素変換チップの4チップ構成だった回路が、今回GF9350を採用することによって1チップに凝縮できるメリットはある。チップ構成自体はダウンサイジングされるのだが、プロセッサーと周辺の高速メモリ間の通信精度を極限まで高めるなど、使いこなしの面で難しい部分もあるという。通信機器などで高速データ処理のノウハウを蓄積しているマランツはVXPの導入に意欲的だが、普及価格帯のDVDプレーヤーに手軽に搭載するという性格のプロセッサーとはいいがたい。

GF9350が近い将来に真価を発揮する領域として、フルHD仕様のDMDを積むDLPプロジェクターが期待できるが、まずはマランツのVP-12S4でその実力をじっくり検証することにしよう。