新製品批評
Phile-web >> 製品批評 >>テキサス・インスツルメンツ >> Digital amplifier


TIの民生重視路線を大言するデジタルアンプ

 TI=テキサス・インスツルメンツの大方針は民生用デバイス重視の路線なのだが、それをもっともよく体現しているのはデジタルアンプだろう。
 なにしろ、このところデジタルパワーアンプが続々と市中に登場してきているけれども、そのセットメーカーのほとんどが採用しているのはPWM方式だ。そして自社開発を除いて、その大多数はTI製のデバイスを搭載しているのである。
 TIはequibit(イキュビット)技術を封じ込めたフルデジタルアンプのICセットを2000年に発売している。世界的に見て最も早い時期の製品化であるし低価格であったので、各セットメーカーがこぞって採用しはじめたのである。こういうふうに先駆けできたのは、その方面で先頭を走っていたメーカーの技術を導入できたからだ。

輻射ノイズと電力損失が少ないデジタルアンプ

小型ながら高性能・高効率のテキサス・インスツルメンツ製デジタルアンプ。上は25W×2chタイプ。(写真はクリックで拡大
同じく同社のデジタルアンプ100×6chタイプ。(写真はクリックで拡大

 1998年に登場したMILLENIUM(ミレニアム)は、初の高級オーディオ用フルデジタルアンプとして話題を集めたものだ。それを開発したのはデンマークのトッカータテクノロジーであったが、それを2000年にTIが傘下に収め、その技術を生かしてフルデジタルアンプの潮流を生み出したのである。小なりとはいえ目覚ましい実績のあるメーカーを掌中にするためには相当な先行投資が必要だったろうが、それだけ将来性を見込んでいたことになる。
  TIのフルデジタルアンプのチップは、PWMプロセッサーのTAS50xxシリーズと、パワーステージのTAS51xxシリーズの2つで構成される。
 PWMプロセッーサーはPCM信号(CDでおなじみのマルチビット型デジタル信号)をデジタルのままPWM(パルス幅変調)信号に変換するものだ。その方式には色々あるが、ここでは時間軸の方で8ビット相当の分解能を確保している。もちろんこれでは再量子化の誤差が大きくて24ビットの精度を表現できないので、ノイズシェイピングの手法により所定の分解能を確保することになる。この手法は、送られてくるパルスを常に前のパルスと比較して、その差を出力することで量子化誤差(ノイズ)をどんどん少なくするもので、デジタルフィードバックと呼んでもいい手法だ。TIではこの過程を4度繰り返して高精度を確保し、ノイズは超高域に追いやっている。
それと、デジタル上で逆位相、逆レベル関係とした2つのPWM波形を利用して終段の駆動パルスを作るバイナリー方式は、S/Nと無信号時の電力損失の点で有利な方式だ。「イキュビット」という呼称は、PCMのデータを忠実にPWM変換するという理念からきているのだろう。
 こうしたプロセスにより、パルスの繰り返し周波数自体は384kHzという低い周波数に抑えられているので、出力段の素子の波形歪みが出にくく、輻射ノイズや電力損失が少ないという利点が得られるのである。

ビット落ちによる歪みを抑えた音量調整方式

 ちなみに、TIのデジタルアンプは、音量調整を出力段供給電圧を絞ることで26dB程度絞ることができる。つまり電圧値で1/20程度まではアナログ的に出力を絞れるわけであり、それ以下になるとPWMプロセッサーの方でデジタル段階でレベルを調整することになる。これによって、いわゆるビット落ちによる歪みを抑えているのである。他の方式では、入力されたパルス自体の波高値をアナログボリュームで絞るというものもあるが、それに対してこちらは「フルデジタル」なのである。
 これについては、「供給電圧を絞ると駆動パルスに対する応答性が劣化するのでは?」という説もあるが、TIでは駆動パルスの電圧自体は最適値のままなのでそういう問題は生じないという。逆にいうと、低い供給電圧でも高速動作するパワーデバイスがあってこそこういう方式が成り立つのである。しかもTIは高度な生産技術により、デジタルアンプ用のデバイスも、モノリシックで、つまり1チップで製造しているのである。通常は複数チップを組み合わせるのでコスト高の要因になるわけだ。

Digital Amp図と写真はクリックで拡大


 



Power Stage TAS5111

Modulator TAS5026

豊富なラインナップを用意した日本TIのチップセット

 その実際だが、当初のデジタルアンプ用チップセットのTAS5001とTAS5100を搭載した評価ボードは、とてもモノラルで30Wもの出力(2chを組み合わせたBTL接続)が取り出せるパワーアンプとは思えないほど小型のカード状基板であった。発熱がほとんどなく、おおげさな放熱器も必要としないのだから、単なる信号変換用基板に見えるのは当然だろう。ちなみに終段のパワー素子の放熱は、デバイスの背中の放熱用金属プレートをプリント基板の大面積パターンに密着させることで補っている。
 今回デモされたTAS51XXは、出力50W/2ch、100W/BTLという強力なもの。モジュレーター(変換器)は6ch仕様のTAS5026である。
 評価ボードは100W/6ch構成であった。さすがに小さな放熱器が取り付けられてはいるが、やはりすこぶる小さい。これにより小型大出力のマルチチャンネルパワーアンプやAVアンプが、一層作りやすくなってきたことは間違いない。
 小出力から大出力まで、豊富なチップセットをテキサス・インスツルメンツ社は用意しており、デジタルアンプの世界で同社が果たす役割はますます大きくなることだろう。今後の動向に特に注目し続けたいデバイスメーカーだ。

取材協力
河合 一氏

日本テキサス・インスツルメンツ株式会社
DCESカンパニー
デジタルオーディオ事業部
オーディオコンバーター製品部
アプリケーショングループ
半導体グループ上級主任技師
寺田 典生氏

日本テキサス・インスツルメンツ株式会社
DCESカンパニー
デジタルオーディオ事業部
オーディオコンバーター製品部
グループ長
望月 和人氏

日本テキサス・インスツルメンツ株式会社
DCESカンパニー
デジタルオーディオ事業部
デジタル アンプ製品部
グループ長

【日本テキサス・インスツルメンツ株式会社製品の問い合わせ先】
日本TIプロダクト・インフォメーション・センター :http://www.tij.co.jp/pic/