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半導体市場を牽引するバー・ブラウン買収劇

 TI=テキサス・インスツルメンツは2000年8月にバー・ブラウン社を傘下に収めた。これは世界の半導体産業にとっても大きな波紋を投げかける英断であった。
 これは、近年のTIの戦略にのっとっていることに注意したい。つまり、21世紀の半導体は民生市場が牽引する、ということ。またアナログ関連を含めた高度な信号処理技術が必須となる、というもの。そうした大方針を実行した結果は、「偉大な成功例」と賛嘆されるほど劇的なものであった。
 この「民生市場とアナログ関連を重視する」という姿勢は何を意味するのだろうか?

【日本テキサス・インスツルメンツのニュースリリース】
2001年2月22日 :日本TI、日本バー・ブラウンを統合
2000年8月25日:テキサス・インスツルメンツ、バー・ブラウンの買収を完了

新世紀を彩る意匠としてのデジタル信号処理技術

 これまでの半導体開発は、高コストであっても高度な性能を要求する産業用の世界で技術を磨き、それが民生分野に「降りてくる」というストーリーだった。その筋書きがコンピューターの世界で展開されてきたことはご承知の通り。
 ところが、半導体技術が成熟するにつれて、デジタル関連のデバイスは価格の崩壊現象が続き、しかもCPU(マイコン)の統括能力にも限界が見えてきたのである。実用性から趣味性へ、多様性へという情報機器の変遷は、目的を絞った超高速のデバイスの要求となり、また異なる種類のデータを処理するデータコンバーターの需要が激増することになってきた。つまりCPUより高性能のDSP(デジタル信号処理デバイス)、また高品位のエンコーダー/デコーダー(コーデック)やA/D、D/Aコンバーターこそ、新世紀を彩る意匠になってきたわけだ。
 こうして民生機の世界こそが、最高性能のデータ変換デバイス(データコンバーター)を求め、その需要が爆発しているのである。そこで、バー・ブラウンのような最高水準のデータ変換デバイスの技術を持っているカンパニーに白羽の矢が立った次第。
 バー・ブラウンは、アメリカはアリゾナ州に本拠があるアナログ系ICの名門ブランドである。その設立は1956年という老舗。このブランド名は、高級なオーディオ/AV機器のDAC(D/Aコンバーター)やオペアンプ(アナログ増幅素子)にお決まりのように見受けられる。とりわけPCM1704は、高級オーディオ用のマルチビットDACを唯一生産しつづけているBB=バー・ブラウンの象徴的な存在だ。