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米国で最も愛されるスピーカーブランドの、ベストヒットモデルが日本に上陸

「RF(リファレンス)シリーズ」は、60年もの伝統をもつ名門クリプシュの主力高級スピーカーである。もちろん5.1chのマルチを想定したシリーズだが、中でも大型トールボーイのRF-35は全米を代表するベストヒットモデル。その売り上げは量販店、専門店のいずれにおいてもNo.1という人気ぶりだ。

ヤマハ(株)の視聴室にてKLIPSCHのスピーカーをじっくりと聴きこむ林氏。
本シーリーズはデュアル20センチウーファーを搭載するこのRF-35をメインに、サラウンド用にブックシェルフのRB-35。センターは16センチとややウーファ径を小さくしたRC-35と、いずれも独自のホーンを採用した2ウエイであるところにクリプシュならではのポリシーがある。発売は昨年12月から順次開始され、この3月までにはサブウーファーのRW-10、RW-8を含む全モデルがいよいよ揃うわけだ。ここではRF-35のオーディオパフォーマンスを聞くのがテーマだが、まずはRFシリーズに共通する技術ポイントを見ていこう。


独自の「Tractrix」ホーンやメタル系振動板がもたらす音への効果とは

クリプシュの製品が採用している独自の「Tractrix」ホーンは、その曲面を造船工学における船底の設計を手本としている。なるほど水の抵抗が最小となるなら、空気の動きに対しても最もスムーズなホーン形状であるはずだ。具体的にはエクスポネンシャル、コニカル、そしてハイパーボリックという伝統的な3つのホーン形状の美味しい所どりをしたものであり、これによって特性のアバレが極めて少なくでき、ユニットの音圧がそのまま10dBほどあがった感じのホーン効果で、正確なステレオイメージをリスナーの耳元まで届けることができる。

振動板がオールメタル系であることも注目すべきポイントだ。ドライバーには1インチのチタンダイアフラムを用い、組合わせるウーファーはアルミにセラミックコートを施したもの。パルプのコーンではホーンの高い能率にまず追いつかないだろう。このオールメタルへのこだわりもまたクリプシュのサウンドを特徴づけるものだ。ちなみにRF-35は98dBという極めつけの高能率モデル。コンパクトモニターのRB-35やセンターのRC-35でも96dBのスペックを実現している。エンクロージャーは強固な樹脂の成型で、これらのユニットからネットワーク、キャビネットまわりまですべて同社で一貫生産している点も見逃せない。

抜群のレスポンスと、驚くほどに微細な表現力

打てば響く反応のよさである。まったくストレスなく、すんなりと音が離れるので拍子抜けするくらいだが、これがTractrixホーンならではのルーム環境に左右されない、というメリットだろう。私が本機をヤマハのフラグシップAVアンプ「DSP-Z9」と組んで聞くのはこれが初めてだ。これまでに何度か本機を試聴させていただく機会があったのだが、聴くたび毎に大人でこなれた音になっており、深さやニュアンスの表現力も増しているような印象を受けた。逆にいうと能率が高いぶん、アンプのキャラクターがそのまま出たともいえる。

セラメタリックコーンを採用し、独自の音色を獲得。20cmウーファーはデュアルで搭載 RF-35の背面端子部。バイワイヤリングに対応しており、製品にはショートバーが付属する 本体正面のフット部にはブランドロゴを配置。転倒防止スタンドとスパイク、防振ゴムは製品に付属

まず圧倒的にいいのがボーカルだ。決してワイドレンジではないが、どこまでいってもエネルギー落ちしない声の表情は、ハリがあって体温感にも溢れる。キャロル・キッドやウィラード・ホワイトなどジャズ系の男性、女性ボーカルを問わずに楽しませてくれた。これはクリプシュが伝統的に2ウエイ構成をとっていることにも関係するだろう。3ウエイ、4ウエイなどにありがちな、どこかでつないだような違和感がまるでないスムーズな展開だ。またオペラでは『魔笛』(エディタ・グルベローヴァ)の夜の女王のようなソプラノのハイトーンを聞いても、声の帯域が抜群のリアリティを持ち、ハッと息を飲む鮮度感が気持ちよい。惜しむべくは、クラシック系にもう少し高域端にピリっとくるスパイスがあっていいだろうと感じさせられた。しかし、このことはそれだけチタンドライバーの音調に歪みやクセがなく、素の声を出しきっているからであるともいえるだろう。

高能率スピーカーの醍醐味が味わえる、抜群のライブ感

一方低域についても、まったくハイフィデリティで素直なものだ。濁らずレスポンスがよく、音の立ち下がりでぱっと消える。余分な尾を引かないから、量感がとても豊かでありながら、軽やかで少しもダルなところがない。スロトークが自然でスピーディなこの低音感はメタルウーファの特徴であると同時に、エンクロージャーの剛体性が効いているはずだ。本機の背面にあるバスレフポートのように見えるリアの穴がエアー抜きであり、本機の動作が実は密閉型に近いのである。クリプシュならではの、納得させられる音づくりのノウハウであると感じた。聞き所はウッドベースのはじけるような弾力感や、ドラムの熱くパワフルなショット。そこにブラスやシンバルの輝かしい波面が加味されると、もうジャズ・フュージョン系はこのモデルしかない、という感じである。エレクトリックギターの突き抜けるような歪み感も上々だ。まさに眼前にステージが浮かびあがるようなライブ感も生々しく、高能率スピーカーの醍醐味を味わうことができる。

小編成の器楽もクリプシュトーンに見事マッチする

管弦楽ではゲルギエフ/ウイーンフィルの新しい『チャイコフスキー/交響曲第4番〜6番』を聞いた。音数がめっぽう多く、微細な音のテクスチャーに溢れる。各パートが透け出してくるような感触だが、一方ブンとくる低域のふくみらみが少しあっさりとしていた。オーケストラものでは、もう少しのまったり感や重厚さ欲しい。だが、一方で小編成の器楽などに耳を傾けると、軽やかなクリプシュトーンに見事なマッチすることうけあいだ。特にライブものは聴き応えがある。私の愛聴盤である『マイスキー&アルゲリッチ/イン・コンサート』では、のっけの拍手かうきうきとした気分に誘われる。チェロの甘い弓弾きと掠れ具合も生々しく、ピアノは緻密で軽妙な立ち上がりだ。こうした絶妙のハーモニーをさらっと出してしまうRF-35の、懐の深さにも感嘆した次第だ。音場の位置情報が素晴らしく正確であるが故に、ライブでのかけあいまでがわかるのだ。クリプシュのスピーカーにはプロのミュージシャンやサウンドクリエイターが多く、その正確な表現力と独特の艶っぽい音へ高い評価が集まるのだという。このエモーショナルな再現性に、日本の音楽ファンもぜひ触れて欲しいと感じた。

試聴・文/林正儀
福岡県出身。工学院大学で電子工学を専攻。その後、電機メーカー勤務を経て、技術 系高校の教師というキャリアを持つ。現在、日本工学院専門学校の講師で、音響・ホー ムシアターの授業を受け持つ。弊誌「季刊・オーディオアクセサリー」では海外オーディオブランドのキーパーソンへのインタビューも数多くこなす国際派。


【RF-35/仕様】●15cm角Tractrixホーン&2.5cm径チタン・コンプレッションドライバー ●セラメタリックコーン採用デュアル20cmウーファー ●型式:2ウェイ・バスレフ防磁型 ●再生周波数帯域:37Hz〜20kHz(±3dB) ●インピーダンス:8Ω(最低3.5Ω) ●最大入力:150W ●出力音圧レベル:98dB/2.83V,1m ●クロスオーバー周波数:2.6kHz ●外形寸法:236W×1016H×376Dmm(スタンド含まず) ●質量:24.5kg ●カラー:ブラックアッシュ/ライトチェリー ●価格:\93,450(税込・1本)
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【リファレンス35シリーズ・ラインナップ】
【RB-35】ブックシェルフ \52,500(税込・1本)
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【RC-35】センター \70,350(税込・1本)
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【RW-10】サブウーファー \93,450(税込)
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【RW-8】サブウーファー \64,050(税込)
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