薮崎 敬祐

家電チャネルと社会生活の変化が生み出す商機
小空間に特化した“ルーム家電”が革命を起こす
株式会社エスキュービズム
代表取締役社長
薮崎 敬祐
Takahiro Yabusaki

IoT時代を見据えたITとモノづくりの二刀流でさまざまな事業を創造するエスキュービズム。昨年10月に組織改革を行い、2013年に市場参入した家電事業を新たな三本柱の一つに据えた。生活空間から家電の意義を捉え直した“おひとりさま家電(ルーム家電)”のコンセプトを打ち出し、変化する生活形態に応えた“欲しい製品”で需要を喚起する。家電流通の大きな変革期を追い風に、その取り組みをさらに加速するエスキュービズム。代表取締役社長・薮崎敬祐氏に話を聞く。
インタビュアー/竹内 純 Senka21編集部長  写真/柴田のりよし

多様化するニーズに
生まれた間隙を突く

まず、エスキュービズムという会社につきまして、その事業概要についてお聞かせいただけますか。

薮崎昨年9月まではホールディングカンパニーの形を採用していました。さまざまなビジネスチャンスを捉えて多くの事業を立ち上げ、10億円をひとつの目標としてそれぞれの事業を行ってきましたが、10月に組織改革を行い、IT事業、家電アプライアンス事業、グループ会社による中古車流通事業というポテンシャルの大きな3つの事業に絞って経営資源を集中し、それぞれ100億円の売上げを一つの目標に設定しました。

そのひとつに位置付けられた家電事業は、13年に市場参入し、「おひとりさま家電(ルーム家電)」のコンセプトを掲げて展開されていますが、現在の国内家電市場について、どのように分析されていますか。

薮崎注目されるひとつの変化は、「販路」が大きく変わってきていること。ネットショッピングの台頭はもちろんですが、ドン・キホーテさんやニトリさん、カインズさんなどで広くPB商品が取り扱われるようになりました。つまり、ディスカウントストアやホームセンターなど、家電量販店以外へ販路が拡大することで、家電市場が大きく変化しています。

最大のポイントは“棚”が増えたことですね。これまで家電量販店の棚は大部分をナショナルブランド(NB)の商品が占め、それ以外の製品は立ち入るスキがありませんでした。ところが今は、ネットではそれこそ棚は無制限にありますし、小ロットで仕入れて店頭販売する量販店も見られます。さまざまな切り口からいろいろな家電メーカーが参入してきました。

大型家電の領域では依然、NB商品が強いものの、そうではない領域の家電が拡大してきているわけです。そこで当社では、“おひとりさま家電(ルーム家電)”というコンセプトで、「機能が絞られていても、もう少し安い商品が欲しい」という顕在化する要望に対し、納得する品質かつお手頃価格を実現した、きちんとニーズにお応えできる商品を軸に家電事業を本格展開していきます。

量販店の経営は単位面積当たりの売上げです。そのため、限られた展示スペースでは、単価が高いものを扱った方が当然、効率はよくなります。しかしそれが、高付加価値・高単価の流れを加速することになり、消費者のニーズとアンマッチする部分が出てきてしまっています。そこを補うのが、新たに拡大してきた流通チャネルの棚ではないかと思います。

薮崎 敬祐
マーケットはお客様こそがすべて。
“いいものが売れる”のではなく、“売れるものがいいもの”だ

御社はそこへ、小空間に革命を巻き起こす新コンセプトとして「おひとりさま家電(ルーム家電)」を提案されました。

薮崎これまで申し上げてきたような流通の変化は、マクロで見た場合のひとつのトレンドです。さらに、もう一つのトレンドとして、少子高齢化や核家族化、高齢者のご夫婦や単身世帯の増加など、世帯人員が減少していることが挙げられます。この2つの大きなトレンドによる生活形態の変化に対し、メーカー側、流通側が提供できていなかった隙間として、「ルーム(小空間)」というコンセプトに行き着きました。

ルームというのは、自宅やオフィスにおける6畳程度の広さを想定した小さな空間です。これまで大手家電メーカーが手掛けてきたのは、高機能・高価格のリビング家電です。しかしそこには、400lの冷蔵庫も10sの洗濯機も必要ありません。「ルーム家電」は、そのような小さな空間に適した、機能を必要なものに絞ることで、納得品質と手頃な価格を両立した商品です。

低価格でお買い求め易いものとはまた、一線を画した存在として位置づけられていますね。

薮崎マス市場をターゲットにした商品は、すでに多くのメーカーが、低単価で大規模に展開されています。しかし、消費者の要望は単に価格が安ければいいわけではなく、デザインや機能にそこそここだわりたいお客様は大勢いらっしゃいます。私たちはそのターゲットにチャレンジしていきます。“NBブランドが実現できていないところを補うNBブランドのような存在”が目指す姿です。

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百貨店やGMS業態の業績不振も指摘されるなど、流通が大きく変化しています。お手頃価格ではユニクロやニトリなどSPA(製造小売業)が大きな流れを創り、それぞれの業界で不動の位置を確立しました。

薮崎家電の領域でもそうした企業が出てきてしかるべきだと思います。ただし、家電の領域では申し上げたように、販路はすでに大きく変化してきていますから、そこに適した商品を提供していこうということです。

御社では、高コストでも超小ロットでまずは生産、発売して市場の声を聞き、そこで実際に売れそうであれば大量生産を行う手法を取り入れ、ニッチ市場に応える家電製品を発売されています。市場調査費と考えれば決して高くはないと。

薮崎さらに、現在はMOQ(最低発注数量)を一桁少なくすることにこだわっています。万ではなく千の単位で生産できる仕組みを早期につくりあげようと思います。そうすることで、H&MやZARAなどのファストファッションに通じるところがありますが、トレンドをいち早く捉えた、より細かなニーズにフィットした商品をお届けすることが可能となると考えています。

薮崎 敬祐

独自のユニークな観点は
誰にも真似できない

この度は発表会を開催され、家電事業の新たなステージへ臨まれる強い自信と意気込みを感じました。

薮崎これまでは後発として、流通の棚をとりにいく側面が大きかったことも事実です。しかし、流通網にもある程度めどが立ち、基本的な商品も揃いました。ここから先はデザイン面などにもさらに力を入れ、NB商品でもない、ただ安価な商品でもない領域における存在感を打ち出していきます。

他社とどう差別化すればいいか、どうやってヒット商品をつくりだすかといった“爆発的な角度”は求めていません。われわれが目指す領域では、お客様のニーズに応えた商品もまだ多くないですから、目指す指標は“面積の大きさ”です。“ルーム”というコンセプトにおいても、細かくニーズを捉えていけば、例えば、夫婦が老齢になって寝室が別になると、寝室用のテレビや冷蔵庫も2台必要になりますからね。これからの大きな可能性を確信しています。

今後は毎月1商品以上、新商品を発表されていく計画です。

薮崎半年先まですでに用意ができています。マーケットがないところに創造していくむずかしさは、過去に失敗した例もあって痛感していますので、そこはやりません。顕在化しているボリュームゾーンに対し、さらに納得できる品質とお手頃価格の商品を揃えて、欲しいと思っている人にきちんとお届けしていきます。

IT事業の経験からもわかっているのは、ECやPOSレジなど、システムそのものは真似しようと思えばいくらでも真似できますが、どう事業を伸ばしていくかという“観点”はまったく違う次元のもので、真似することはできません。家電においても、これまでお話してきた製品づくりに対する感覚がきちんとお伝えできれば、認めていただける自信があります。デザインや機能は真似されてしまいますが、この観点は真似されることはありませんし、真似することもできません。

IT事業ではエンジニア育成制度を設けて人材育成に力を入れていらっしゃいますが、家電事業ではどのような体制にありますか。。

薮崎エンジニアは大手メーカー出身者の採用例がやはり多いですね。年数を経て、マネージメントを担当するエンジニアの中には、まだまだ現場をやりたい、ものづくりを行いたいというニーズが少なくありません。そうした人たちが多く入ってきて活躍しています。

ただし、うちはマーケティング・オリエンテッドで物凄いスピードで進めていきますので、そこへついてくるのが大変なことも少なくないですね。メーカーにはいわゆる「いいものが売れる」という発想があります。しかし、われわれは「売れるものがいいものだ」という発想がモノづくりの根本です。技術者にとっては考え方の大きな転換が求められることになるわけです。マーケットはお客様こそがすべて。これはIT事業においても同様です。

家電の売り場では、モノ提案からコト提案へ舵を切りつつあります。そこへも新風を吹き込む活躍を期待したいですね。

薮崎ユニクロさんやニトリさん、IKEAさんなどは、まさにそういう店舗設計を行っているなと感じます。高額商品を買わないお客様でも、いろいろ見ているうちに結局あれもこれも買ってしまって、いつの間にか結構な額の買い物をしてしまっている、ということも多いのではないでしょうか。集客と収益には違った観点からの取り組みが必要で、ある種、エンターテインメント空間が、収益を上げる要素なのだと思います。「ルーム」というコンセプトは、店舗づくりの一つのヒントになるのではないかと思います。

御社はITでシステムソフトの開発も手掛けており、「ドロップシッピング」という新しいネット販売サービスもご提案されています。

薮崎「ドロップシッピング」は、無在庫でネット販売ができる新しい仕組みになります。ネット通販では、お客様がその場で商品を持ち帰ることができないことに着目したもので、Eコマースで販売された商品を、直接私たちがお客様に発送を行います。これにより、売り主さんは在庫を持つ必要がなくなるというメリットが生まれます。かつて、通販事業を行っていたときに活用していた仕組みで、これを今、社内で家電販売に活用しています。

例えば、街の電気店でうちの商品カタログを置いていただくことで、発送から先はすべて当社が行いますから、手間を省いて新たな事業チャンスを生み出すことが可能となります。もちろん、商品見本は用意していますから、画面上だけではなく、お客様が店頭で手に取って確認することができます。

海外では導入され始めていますが、こうした世界観を伝えていくことはなかなか難しいですね。いろいろメーカーが手掛けていますが、メーカー自身がシステムまで直でやっている例はあまりないと思います。これもまさに、家電とITの事業を手掛けている当社ならではの強みと言えます。

家電は約8兆円もの魅力あふれる大きなマーケットです。家電とITを持つ強みを活かした当社ならではの観点や提案力で、存在感を備えた商品を次々に生み出し、市場の活性化にも大いに貢献して参ります。どうぞご期待ください。

◆PROFILE◆

薮崎 敬祐氏 Takahiro Yabusaki
1979年生まれ、兵庫県出身。2002年に東京大学経済学部卒業後、2004年に東京大学大学院経済学研究科を終了し、(株)リクルートに入社。2006年5月に(株)エスキュービズムを設立、現在に至る。趣味はテニスとゴルフ。

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